魔界の穴
その音が自分にしか聞こえてないと気づいた時、ゾッと背筋がさむくなった。
冗談やめてくれよ
そう言われて、その音を気にするのはやめた
ミシ…ミシ…
最近悩んでいる。それは誰にも聞ない音が聞こえるのだ中村颯真は首をかしげた。
ミシ…ミシ…
今だってそうだ。この都心の真ん中、雑踏の中の人々の会話の中聞こえるおかしいじゃないか
ミシ…ミシ…
今、友人も聞こえてない。数名でカラオケの店を目指す。みんな談笑な花を咲かしてる。
ミシ…ミシ…
精神と耳、どっちがおかしくなったんだ。聞こえない音なんてないと同じなのだろうか?
聞こえないふりをしたらいいのだろうか……
そしてたたずむと、街の雑踏は自分と異質な物にも思えるのだ。笑ってる友人の顔。
今も聞こえる。割れたガラスを揺するような、何か飛び出してきそうな音。
おかしな奴なんかになりたくない。そうして足並みを揃えて歩き出した。
俺は音に背を向けた。
頭脳明晰。
スポーツ万能。
猫好き。
中村颯真は、この3つからなる。高校二年の健全な男子だ。友達には『ソーマ』と呼ばれていた。
冗談は言っても、あまり自分を多くを語らない。だから、音が聞こえるなんて誰にも言わない。
音が聞こえだして一週間。ひどくなった始めた音は暮らしをむしばみ始めていた。
音が大きくなって来ている。会話にも困るレベルだ。
一週間手をこまねいていたわけでもなく、医者にもかかった。
耳には以上無し。
脳の方に問題があるのでは? と言われた。ただの耳鳴りなら良かった。
だけど音ははっきりとあっちとわかった。近づくとより大きくなり、離れると小さくなる。奇妙な音だ。
休日の今日、一人で部屋にいると、気になって仕方ない。テレビやゲームもマンガも…何をしていてもうるさいのだから。
颯真は部屋を出た。リビングを通ると12才の妹が
「出かけんのー?」
といった。休日からソファーに転がっているなんて……
「見えているぞ…」
年頃の女の子が見えてはいけない白いパンツ……軽く釘をさしておく。
スカートなんてはくなら、寝転ぶのはやめとけ。……と言っても妹は聞かないのだ。
「やーだ。お兄ちゃんのエッチー」
妹はスカートを少し引っ張っただけ。ちゃんと治す気はないようだ。
兄の欲目ではないが、妹は外で見かけると白いスズランのようにかわいい。しかし、今は『やーだ』と言いながらも嬉しそうに起き上がりもしない所はスズランではない。黒髪の清楚さは、わがままを叶えるため。
そんな妹なのだ。
妹は、うつ伏せでぶらぶら足をするから、またスカートがめくれていく。もういい。
「出かけてくるからな」
そしたら、
「プリン買ってきて」
こっちをむけて笑っている。
将来が心配だ。
こうやって笑って旦那をこき使う女になりそうで。
でも
「プリンな」
頭にポンと手をやると、
「えへへへ~」
じゃれるようにその手をなでなで~と仕返してくるのだ。
結局甘やかしてしまうのだ。
外に出るとやはり音は大きくなった。
遮る物がないと音が大きくなる。
まるで、本当に聞こえているようだ。
街はいつも通り。休日の人も多い。なのに、誰もこの音が聞こえない。それは気味が悪い。
しかひ、昼夜問わず聞こえてくる音はうんざりだ。何か分かるかもしれない。音の方に歩き出した。
ミシ…と聞こえていた音は、すでにそうは聞こえなくなっていた。
ビシッギシッ…
ダンダンッ…
騒音おばさん並みの騒音。誰かが叩いているような不吉な蠢きまで感じる。この音の正体は想像してもわからない。
進むにつれて、見えない圧を感じる。
人のいない原っぱまで来た時、足を止めた。
この先に進んではならない。
本能がそう告げているのだ。
躊躇してる俺の足もとに猫が。
「にゃ~ん?」
話しかけるようだ。
そのフワフワしたミケの毛に、手を伸ばすと、猫はスッと離れた。
「急に悪かったな。けど少しだけ。あんまりきれいな毛並みだから、触らせてくれ」
猫はわかったというように近づいてきて、頭をすり付けた。
「賢いな。それに美人だ」
猫は当たり前でしょって顔をした…ような気がした。
その頭を撫でながら
「まったく。お前にも聞こえてないんだろうな」
「なーん?」
可愛がるのもほどほどに、
「さて、じゃあ行くとする。じゃあな」
猫に別れを告げたのだった。
有刺鉄線のたるんだ所から中に入る。草ばかりが生えた原っぱが永遠広がるようだ。広い地面を揺らすように音は聞こえている。
その先か…
ビシンッビシンッ
やかましいな。
ズダンッ
工事現場か…
そしたら、音の発生源にたどり着いた。
空中に穴があいている。
直径二メートルほど。それが、草にまぎれてそこにあいていた。
穴の向こうには赤黒い闇と、煙が渦巻いていた。そして、ガラスでも張られたように光沢のある壁にはばまれているようだ。
「なんだこれは…」
ズダン、ダン、ダンッ
白いヒトデのような物が打ち付けられている
「手……?」
それは手だった。煙のガラスに手のひらがペタリ打ち付けるのだ。
気味の悪い。何だかわからい。けど、決して近づいてはならない物だ。
近くで、誰かが
「やはり…君にも見えるのだね。そうだと思ったんだ。さっき聞こえているだか何だかいっていただろ?気にはしてたんだ」
草の間から、カサカサと揺らしたのは、さっき撫でた猫だ‼
「……」
ついには頭までおかしくなってしまったのか。やはり脳がおかしくなったとしか……
「君、危ない‼」
猫が言う。
すると
ガシャーーーーーーーン
ガラスが割れる音がした。砕け散るガラス
その中から白いその手が伸びる。信じられない長さだった。
なぜ…腕が数メートルも伸びるんだ‼
思った時には、
「ぐ…っ」
首を、二本の腕はしめげる。
ギギギ
自分の首の骨が軋む音がした。
猫か叫ぶ
「君‼助かりたかったら唱えろ‼ マジカルティンクルスターライト。はいっ‼」
言えっていうのか⁉声も出せないと言うのに。
しかし時間はない
「まじか…てぃんく…らい…」
かすれた途切れた声。
猫は
「それでもいい」
猫は飛び込んできた。その三毛のねこが光に替わり、全身を包みこむ。
腕が離れた。
黄金の光が渦巻く。キラキラと輝いて光の欠片が集まっていく。
その中、猫の声が
「怖がらないで。僕と心を一つに…」
「意味がわからない‼」
叫ぶと
猫は高らかに叫んだ。
「正義の心を‼魔法少女、ティンクルスター」
スター
スターーー
スターーーー
待て、俺の心が置いてけぼりだ!変なエコーがあって、光がピッタリとまとわりつく。
ヒラーン
(スカートが‼)
ピカッ
(ブローチ⁉)
シュシュシューン
(手袋と、ブーツ‼)
風が自分の周りを取り囲むように広がってスカートのすそをたなびかせる。それが晴れる。
待て……変な服着てる⁉
光が収まると、自分の手には宝石のついた杖が。
おさまらない動機と、手の震え。
してはならない犯罪臭……
自分体にまとわりつく、スカートや、手袋……
それは艶々した絹かポリエステルのようだ。
下半身がスースーする。
(大丈夫だよ。颯真あの腕をやっつけて、ゲートをふさぐんだ)
まてまて。置いてけぼりだ。まずはこの状況を説明してくれ‼
(あいつは別の次元を生きる者。このままじゃゲートを通じてやつらが攻めてくる。君は止めたいんだろう?)
なぜ⁉言葉をしゃべっていないのに⁉
(今、君にリンクしてるんだ。説明は後。あの敵を適当に殴って穴にほりこんでくれ)
急におかしいな。撲殺か?
しかし、そうも言ってられない。この鈍器で叩き落としてやる‼
颯真は両手で杖を持って高々と飛んだ。そして、言われたように
ガッガッガ
ボコボコにした。長い蛇みたいな手をやっつけ、穴にほりこむと、
(そこで、決め技‼穴にかかげて。シューティングスター‼はいっ)
言えってか。
「シューティングスター……」
かかげた杖の先から、光がピキューンと集まって星を形作る。
そして、
ズッキューーーーーーーーン
飛んで行って穴の所で光をはなち、ツルンとガラスのような光沢が再びもどってきた。
(修繕は完了したみたいだね)
声がする。
すると、颯真の体も光を放ち、猫がピョーーンと飛び出した。同時に服も元に戻った。
「これで大丈夫。颯真、ありがとう」
猫はそう言った。
颯真は
「説明もとむ」
そしたら
「そんな時間はないよ。今から修繕の業者を呼ばないといけないんだ」
「おいおい。いきなり事務的だな」
「まぁ、そうだね。今夜君の部屋に忍んでいくよ。窓の鍵をあけといてくれないか?」
なんだ、そのハレンチな言い方。使い方、違うだろ。
颯真は
「まぁ別に来なくてもいいけど…」
もう夢だと思って忘れてしまいたい
「はは。まぁ、楽しみにしててくれよ。今夜はダンサーナイツだぜぃ‼」
急におかしい事を言った。猫は首を傾けて
「どうも変換がおかしいようだ。電波の乱れだな。この辺でシーユーしよう?」
「あ…ああ」
シーユー?
颯真は首をかしげた。しかし、忘れたい。立ち去ることにした。
歩いていると冷静になってくる物だ。おかしな物を見た。
これは夢か?
それとも、壊れたのは俺の頭か?
さっきスースーしたスカートの感触を思い出すと
「やっぱり、頭おかしいな」
精密検査が必要だ。
「あっ、プリンか…」
コンビニを通りかかった時思い出した。
買ってきたプリンを妹に与えると、
「一口あげる。あーん」
当然食べる。これを買ってきたのは俺だから