お肉を買う
ラフスが人間と同じように考え、行動できるのは母の教育の賜物だ。
と言うのも、ハイブリットは人間と動物のハーフであるから、本能に依存する考え方がどちらに向くかは分からない。野性が目覚めれば、自分と同種以外は単なる肉であるわけだし、しかもそれは非力で周りに溢れているからだ。
留置所から解放されてラフスは大きく伸びをする。
気がかりは明日、いやもう今日ある科目の宿題が終わっていないことだが、今日は学校を休むことにする。とりあえずはお腹をいっぱいにしたい。
「ラフス。お疲れさま」
「母さん」
ラフスは母に近づく。すると二人の身長差が明確になってどこかおかしい。ラフスは体が成長するにつれて母の身長を超えていた。
「今日はお仕事もういいの?」
「ええ。今日は上がり。一緒に肉を見に行かない?」
「いく!!!」
お腹のすいているラフスは何よりもこの提案が嬉しかった。
二人で向かったのは知り合いの牧場。ここでは牛が広い柵の中でのびのびと暮らしている。今日もここはのどかだ。牧場主のおじさんもこちらに気が付いたようで歩いて近づいてくる。
「リタイアした牛さんはいるかしら?」
「ああ、先週リタイアしたのがいてね。そろそろ来るかと思ってとっておいたよ」
ここでは乳牛を育ててミルクを出荷している。リタイアした牛とは、年を取ってもうお乳を出せなくなったメス牛のことだ。大抵はこのまま食肉にされる。
「いいね」
「大きい」
「気に入ってもらえて何よりだよ」
ラフスは舌なめずりをする。その牛のなんと美味しそうなことか。狭いケージの中で飼われていたらこうはいかない。美味しそうな肉が足回りと背中についている。それから内臓も忘れちゃいけない。寄生虫の心配も少なく、野生ではこうはいかないとラフスは思った。
「毎度どーも」
これ一頭でラフスの食事1カ月分に相当する買い物となった。
早速二人は内臓を持ち帰ることにした。大きすぎる肉は3回も往復しなければ運ぶことのできない量であった。
「母さん、食べよう!!」
「まちなさい。手を洗ってから!」
(あー!!めんどくさい!早くしないと鮮度が落ちちゃうよ!!)
「じゃあ、いただきます」
「いただきます」
ラフスは上手に人差し指と中指との間に箸を挟んで肉に刺し、それを口へと運ぶ。
「旨い!!! うま!! うまうま!!」
「ご飯食べてるときにしゃべらない」
「うん」
母さんはラフスの口の周りを汚す血を丁寧に拭いてやりながら、その美味しそうに食べる様子を眺めている。
これが世界でただ一人、ライオンとのハイブリットに成功した高校生の食事風景である。