変な高校生
ぼくのお母さんは人間です。お父さんはライオンです。お父さんはぼくが五つの時に死にました。
そんな作文を書いてから数年。俺は高校生になった。
人間とライオンのハイブリット第一生で、普通の人間の学校に通っている。世界でこのハイブリットは俺だけ。だから、病気になっても病院では分からないことだらけだし、内蔵が肉食のそれだから、食べ物もみんなと同じものは食べられない。友達はたった一人だけ。
勉強は苦手。たてがみのせいで、後ろの人が黒板を見れないから一番後ろの席に座らされているのが原因だと思う。
「ラフス君って毛深いからお風呂とか大変そう。」
休み時間には良く、女の子に囲まれる。きっと西洋人の母とライオンの父とのハーフが珍しいのだろう。入学当初からずっとこんな感じだ。
「毛が生え変わる時期は大変だよ。でも今は大丈夫。」
「へー。そうなんだー。」
いっつもこんな感じ。何をいっても『へー。そうなんだー。』興味ないならなんで聞いたんだよ!!そう言いたくなる。
「昨日メールしたのにどうして返してくれなかったの?」
「ごめん、気が付かなかった。」
ラフスはメールが嫌いだった。あれを返し始めると、朝まで終わらないことが良くあったからだ。大体、俺の肉球のある手は細かいことのは向いていないのだ。
「もう、次はちゃんと返してよね!」
あーはいはい。
「次は体育だ。」
俺は体育が大好きだ。特に走るのとか単純で良い。でも、ボールを使うのはダメ。時々爪で破ってしまうから。
その走る様からついたあだ名は『蒸気機関車』。自分らしい最高のあだ名だと思う。今日は100メートル走のタイム計測。余談だが、つい先日チーターとのハイブリットが人間の世界記録を更新した。それだけで『結果は認められない!それは生物学上、人間ではないからだ!』とデモまで起きた。
まったく。昔の人たちは今を見ることはないのか。どんどんハイブリットは増えているし、様々な分野で活躍し始めているというのに。
ラフスは靴を脱ぐことにした。これがない方が早く走れるから。
「ラフス!靴を脱ぐのは反則だぞ!それからお前は一人で走れ!」
残念なことに、担任の教師は昔の人間で、ラフスのことを目の敵にしていた。
「……分かりました。」
ここで喧嘩をして単位をおとしたら、女手一つでここまで育ててくれた母さんに失礼だ。靴を履いていても十分に早い。春の暖かな風はラフスのたてがみを気持ち良く擽る。
よーい。スタート。
ラフスが走ると女生徒の集団から黄色い悲鳴が上がった。引き締まった体は何時も女性の注目の的。彼が歩けば世のほとんどの女性は振り返る。母親譲りの青い目は乙女心を容易く貫き、父親譲りの強靭な肉体は男としての魅力十分であったからだ。
「あ、あの。タオル、どうぞ。」
ラフスは差し出される真っ白なタオルを受けとる。
「ありがと。」
でも彼の心の中では、もっと早く走れたという気持ちが渦巻いていた。
「お昼、一緒に食べませんか?」
彼にそれはできなかった。皆と食べているものが違うから。だから、いつも一人で食べていたし、これからもそうだ。
「タオル、ありがとう。でもお昼は一人で食べるよ。」
ラフスの今日の献立は松坂牛の生肉1キロだ。血抜きはわざとしてもらっていない。野菜も食べられるけれど、上手く消化できなくてお腹を壊してしまう。だから、ビタミン回復のために時々生の内蔵を食べなければならない。
それを誰にも見られないように、立ち入り禁止の張り紙のされた屋上で食べる。
「うまうま。」
「へー。そういうご飯食べるんですね。」
いつもは誰もいないのに今日は違った。ラフスは不安に支配される。口の回りは今食べている肉の血でベットリ。この少女に悲鳴でもあげられようものなら、学校中で噂になってしまう。
「一口くれませんか?」
「お前、ノーマルだろ?普通のご飯食べろよ。」
「良いじゃないですか。ちょっとくらい。ね?私のもあげますから!」
「病気になっても知らないからな!」
あんまり、勢いが激しいから、ご飯を分けてやることにした。満足すれば帰るだろう。
「なんか、このお肉臭いんですが。」
肉をクチャクチャ食べる彼女はそんなことを言う。
「もらっておいて、それをいうか。」
俺には旨く感じるのだが、やはり味覚も違うのだろう。
口の回りを真っ赤にする彼女は少しおかしかった。
ハハハ。
「あー今、笑ったでしょ!!!」
「悪い悪い」
「でもその方が良いなぁ。いっつも怖い顔をしているから」