其の四 再会したおきつねさん
あれから自転車をこぎはじめて10分くらいだろうか。亜耶の自宅へ着いた。敷地の奥の方には納屋があり、そこの軒下に亜耶は自転車を置くことになっていた。自転車を納屋の方へ運ぼうとすると、納屋とは反対側で外飼いしている茶色の柴犬が白狐に気付いたのかうなりはじめた。
「大丈夫だよ、ハッチャン。この子はなんにもしないからウーウーしなくていいんだよ」
亜耶がそう言うと、ハッチャンという名の飼い犬はうなるのを止め、尻尾をふりだした。白狐が恐る恐る近づくと、ハッチャンは鼻をたてクンクンと匂いを嗅いできた。白狐も同じようにした。お互いがまだぎこちない感じはあるが、亜耶はそれを見てニコっと笑った。
「ハッチャンは偉いね~。賢い賢い!あたしにしてなくてよかったよ!仲良くなるといいねー」
優しい言葉をかけられて嬉しくてたまらないのか、鎖でつながれているにもかかわらずおもいきり走り回った。白狐は驚き、のけぞりかえった。
「アハハ!ハッチャンってさすぐに興奮気味になるんだよね。そのうち慣れるよ」
自転車を急いでしまい終えた亜耶は家の玄関を指差し、白狐を家へと向かわせる。玄関前に着くとそばに人がいる事に気がついた。
「あ!お母さん!!おかえりー!あたしも今帰ってきたとこだよーー」
白狐の存在を言おうとせずに母の元に駆け寄っていく亜耶の後ろを、無言で着いていくしかない白狐だった。相手は大人、もし仮に亜耶が口を滑らせても何も起きやしないと思っていた。いつも通りに母親に接する亜耶だが、白狐からするとこれが普通人間の子供なんだなと感じる一面だった。そんな亜耶とは違い、母親は遠くに視線を落としている。何かを見ているような視線だった。
「ねぇ、何か隠してたりする??」
亜耶はドキッとした。とりあえず表情は隠しきれてると思い、首を横に振った。白狐がそばにいるのは分かっていたが、そっちに気を向けることはしなかった。母親はこう続ける。
「そうなの?じゃあ足元にいる白い犬はなに?お母さんだけが見えてるの?」
その言葉で亜耶と白狐は大きく口を開けて顔を合わせた。ふたりの行動を母親に見られているとすぐに気がついたが、どうごまかせばいいのか分からず、ふたりはだんまりするだけだった。
「ハッチャンもいるのに、増やしたらお世話できないでしょ」
「大丈夫!私ちゃんとハッチャンも狐もお世話する!!」
狐という言葉に母親が反応した。白狐の前に行きしゃがみこみ、顔を近づける。視線を向けられている白狐はなぜか動くこともできず、母親と目を合わさないようキョロキョロするしかなかった。
「もしかして、シロちゃん?」
母親は白狐に問いかける。白狐はまた大きく口を開け、目も見開いた。白狐はしばらく亜耶の母親を見つめ、気がついたかのように問いかける。
「亜希ナノカ??」
うん、と頷く母親に白狐はすぐとびついた。今度は亜耶が目を見開いた。自分が予想もしていない光景が目の前で起こっているのだから無理もない。
「え?え?お母さん、この狐知ってるの?っていうか見えるの?」
驚きが隠せずに大袈裟な身振り手振りもあり早口になっている。白狐の頭をなでている母親が頷きながらにっこりしている。
「お母さんが亜耶の年くらいの時にシロちゃんに会ってるの」
不思議な再会の仕方に白狐は嬉しく思ったのか、涙をうっすらと浮かべていた。