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クビになったおきつねさん  作者: 須賀谷 京
1/5

其の壱 見つかったおきつねさん

 

 澄みきった青が空一面に広がっている5月のある日。緑が生い茂るこの時期は、誰しもが過ごしやすいと感じる。


「天気いいし遊びに行っちゃえ~」


 そう独り言を言いながら、先月買ってもらったばかりの朱い自転車をこぎ、家を飛び出した。

 亜耶は田舎育ちの小学4年の女の子。亜耶が通う小学校には自転車免許というものがあり、自転車に乗れる4年生からもらえるのだった。それがないとひとりで自転車に乗って遊びには行けないことになっているのだが、その自転車免許が昨日配られ天気がいいせいもあってか、新しい自転車に乗ってみたくなったのだ。


「優美ちゃんいるかな?塾行く日だっけ??聞いておけばよかったなぁ」


 相変わらず独り言を言いながら下り坂を颯爽と走っている。

 自由奔放で勉強なんかそっちのけの亜耶とは違い、優美は自ら学習塾へ行きたいと行って通いさらには音楽教室へも行っているような子だ。どういったかんじで友達になったのかは分からないが、共通点がほぼ皆無なふたりだが本当に仲がよい。お互いに自分と共通の部分がある友達もいるが、亜耶と優美は一番の友達同士であった。

 

 見慣れた道の自転車での行動には、前に母親がいてその後ろをついて近所をまわっていたが、今日はそうではなくひとりだ。毎日見ていたはずの遠くにそびえる山々や目の前に広がる稲の苗を植えたばかりの田園は、新しく目にするもののように見えて楽しくて仕方がない。


「あ~、お母さん怒るとこわいしやっぱり帰ろっと。今帰ればきっと大丈夫なはずだし」


 黙って出かけてきたことは忘れていなかった。宿題もせず思い立ってすぐの行動だったのを母親に知れたら、怒られるのは間違いない。大事なことを後回しにするのはよくないと分かっていても、なかなかできない自分だというのも分かっていた。


 道が平坦になっているところまで走って自転車を旋回し、今来た道を帰る。帰り道は上り坂がある。帰宅するには苦が待ちかまえているが、新しい自転車はギア付きのため前まで乗っていたものより楽に走れる。途中、さびれた商店の自動販売機でジュースを買い、すぐに飲みほした。

 ふと空に目をやるとついさっきまで晴天だった空模様が、いつの間にか山のほうから曇りがかってきているのが見えた。徐々に太陽の光りが遮られてきてひんやりとした風も出てきたのに気がついた亜耶は、早く帰りたいが故にすぐに自転車に乗り、立ちながらペダルを踏み込んだ。


 間もなくしてぽつりぽつりと降ってきた雨が額にあたったと思うのと同時に砂降りになり、前も見づらくなってきた。これ以上は自転車での移動は危ないと、目の前の稲荷神社の境内の中の大木の下に息切れしながら飛び込んだ。

 自転車を引きながらの移動はできそうにない。土砂降りの轟音とともに遠くで雷が鳴っているような音も聞こえる。雨が止むまでここで雨宿りをするしかなかった。天気予報を見てから家を出れば良かったと、亜耶は後悔していた。


 と、その時……


 足元に揺れ動く物が見えた。綺麗な白でふわふわしたわたあめのようなそれは、動物の尻尾だった。

 亜耶はしゃがみこんで、その動物に声をかけた。


「君も雨宿りしに来たの?」


 犬か猫は間違いないと思いながらその動物の体を撫でようと近づくいてみると、大きな耳と細い目、尖っている鼻先をもつ狐だった。

 亜耶は驚いた。本やテレビでしか見たことのない狐が目の前にいる。開いた口が塞がらない。それはその狐もそうだった。


「人間ガ話シカケテキタ……オラノ姿見エテルッテ事ダベカ」


「え?!きつねさんしゃべってるし!!」


「エ?!声モ聞コエテルミテェダ!!」


 そんなやりとりが一人と一匹の間で起こっていた。



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