せかんど・ぴーす
「ウタ、黙とうがはじまるわよ」
「今行くよ」
かーさんの声で俺はパジャマのままで、一階のリビングに走っていって、白黒テレビにかじりつきニュースを観た。民間放送のスピーカーから、「ウー」とサイレンが鳴ったと同時に、女子アナが説明文をよみあげた、
「セカンド・ピース歴1000年――人類が、『空がなくなった日』とさだめた8月15日が今年もやってきました。この日は皆さんも知っていると思いますが、1000年前の旧ホモサピエンスが第四次世界大戦で核爆弾を使用し、空が汚染されてしまいました。昨今、灰色だった空もようやく青くなり、今年で区切りをつけると政府が発表しました。その時の犠牲者の魂を清めるため、テレビの前にいる方々は黙とう初めてください」
テレビ画面越しにそういわれた俺たちは、黙とうを捧げ死者へのご冥福を祈った。
5分の黙とうを終わらせ、リビングを出て階段を駆け上がり、自分の部屋に入って掛け時計をみると、午前10時を回っていた。
「やっべ、遅刻する!」俺は今日、大事なデートがることをすっかりわすれていた。
約束の場所である、3丁目のソーダ屋に急がなければと勝負服じゃなく、あえてカジュアルな装いをして、部屋を飛び出し走って家を飛び出した。
今の若者はソーダ屋で、ソーダを飲むのがしゃれていて、そこでは若者のカップルでにぎわっている。
30分ぐらい走ってようやく目的地についた。店の前でジュンは懐中時計を見ながら、そわそわしていた。遅刻した俺にたいし目を鋭くしてがっついてきた。
「10分も遅刻! 10分前って約束したでじゃん。約束も守れないん?」
「悪かった。黙とうして遅れたんだよ。それよりジュンは黙とうした?」
「うん、さっき街角の大テレビを見てね。それより、なんなんその服装。あたしはこんなにおしゃれしてきているのに! これじゃあつりあわないじゃん!」
案の定服装のことにケチをつけてきた。俺はここでキレずにた。ふてくされながらジュンが先に入店したから、俺が後についていく。
店の中はどこか未来的で、旧ホモサピエンスが作ったとされる、ロックというジャンルのクラシックが流れていた。
これが今の若者にウケている。中は客が込み合っていたが、一番奥のカウンターが2席空いていたのでそこに腰かけた。
「おじさん、ソーダ2つおねがい」
「いや、オレはいつもの、コークで」
「なんで、ソーダにしないの? 同じものにしないと付き合ってる意味ないじゃない。この前だってペアルックにしようっていったのに断ってさぁ」
「でも、結局はジュンのいうとおりにしたろう」
5分ぐらいして注文したものがテーブルにおかれた。
マスターが、
「お二人さん仲がいいね」と言ってきたけど、実際はそうじゃなく俺は少なくとも付き合わされているだけだ。
「ウタは、コークが好きよね。子どもみたい」
「ジュンだって、ソーダよく飲めるよな?」
「あたしは大人だから」
なんか、バカにされたみたいで「ムッ」したがここでキレると、「やっぱり大人じゃないな」と更にバカにされるからなにもいわないでおいた。
「コークって甘々でまずくない?」
「そうだけど……」
「じゃあ、これ飲んでみて」
なかば強引に、ソーダを飲ませてきたジュンにおれは更にキレそうになたが、ここも我慢した。ソーダ独特の苦みが俺にはきつかった。
そんで、小一時間店の中にいたけど話も尽きてきたから店をでようと、
「おっさん、勘定おねがい」
マスターを呼ぶと、手が離せないおっさんのかわりに、奥さんが対応してくれた。
「コーク、私きらいじゃないよ。あの甘々なのが好きだもん」
奥さんは、俺を気づかってかそんなことを言ってきた。
いつも、相談に乗ってくれる奥さん、俺は二人目のかーさんのように見ている。
「あ、そうそう。来年から制度が変わって、空がなくなった日の黙とうはなくなるわね。なんか寂しいわ」
「俺もです。死者の魂が浮かばれなくなったらどうしようかと思います」
「そうよねー」
俺はそんなこと、一度として思ったことないが奥さんの前だからそう答えた。
「本当にそんなこと思ってるん? 前々からなくなればいいっていってたじゃんか」
尋問づいてくるかのように体をグイッと乗り出してきたジュン。(何もここで言わなくてもいいのに、俺が常識外れみたいになるじゃん)と思いつつ、ジュンの手を引っ張り外に出た。
「あんな、ジュン。今日のお前おかしいぞ?」
「なんなん、遅れてきたくせに逆ギレするん? それにウタこそへんじゃんよ」
そんな言い争いは、店の中にも聞こえてみたいで、奥さんが仲裁にやってきた。
「あんたたち、痴話げんかはほかでやんな。店の前だと営業妨害だよ! それから、ウタくん、自分に正直になってね。我慢強い子だからいつも無理してるっておもっちゃうのよ」
その時奥さんには、全てが見透かされているような気がした。
「あ、はい……」
「ジュンここじゃあなんだから、公園で話そう」
公園の木々は、戦争の影響で木花は枯れており殺風景だ。道行く人はみんな、悲しげに歩いていた。
「話って?」
「別れたいんだ。このさい思いきっていうよ。君はすごくわがままで、僕はずっと我慢してきたけど、限界なんだ」
一瞬、ジュンは体が固まったように動かなくなったが、
「うん、いいよ……」と涙を流して口をひらいた。
「ごめん……」
俺は深々と頭を下げて、3秒ぐらいして頭をあげた。泣いていたジュンが「ニコッ」と、作り笑いをしていた。
「あたし、ずっと思ってたん。なんでこの人はわがままを許してくれるんだろう、て……さっき、奥さんからの言葉でようやくその答えがわかったんよ。我慢させていたんだね。あやまんのはこっちのほう。ごめんなさい」
俺は最後にジュンをギュッと抱きしめた。頬に伝わるジュンの涙と、俺の涙が交わっていた。
これが、1年前のことだった。
今はお互いに、違う道を歩んでいる。「空がなくなった日」を思いつつ、次の平和を願って。
読了感謝!