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いつも通り、誰とも会話をすることなく席につく。
男子生徒の馬鹿みたいな会話、女子生徒の耳をつんざくような黄色い声でいつものように賑わう教室。
学校は…いや、人はどうしてこうも群れたがるのか。
私にはどうも理解し難いことだった。
正直人といると無理に合わせなくてはならないし
そんなことしたって何が楽しいのかよくわからない。
そうひねくれた事を思いながら私はカバンから必要なものを出すとバシャと何か…湯船に浸かってお湯が溢れた時のような…こう水が凄い勢いではねる音、に近い音が耳に流れ込んできた。
その次に聞こえてきたのは女生徒の
私の鼓膜を割るかの様に叫ばれた「死ねよ」って声。
いじめだって私の頭が理解するのは
そう時間はかからなかった。
一番窓際の席に座ってるびしょ濡れになった委員長。
確か名前は…雪宮 花。
すべてのパーツがくっきりしていてスレンダーで
まるでお人形さんみたいだと初めてあった時に思った。
そんな人がいじめられてるって言ったらもう原因は
妬みの一つくらいしかないだろう。
雪宮さんの周りにいる女生徒3人が
交互に雪宮さんに暴言を吐いていく。
あぁ、だから集団は嫌いだ。
自分は世界一の王様だと言わんばかりに弱者を見下し
いじめては強さを見せつけ笑い転げている。
彼女達のおかげか周りの生徒はいつもより静かだ。
だが私のなかでは
いつもの喧騒<彼女達の罵声
の方が騒がしく聞こえた。
例えるなら運動会のかけっこの合図の時に
ピストルを耳栓なしで撃ってしまった時のような
脳と耳に残るような騒がしさだ。
「ごめんなさい。次からは気をつけるから」
か細い声で雪宮さんは言った。
雪宮さんが謝る必要はこれっぽっちもなかったけど
早くこの場を収めたいのだろう。
その気持ちは少しわかる気がする。
こんなに自分が嫌な注目が浴びせられたら誰だって早く収めたい。
「次から?そんなのないから。死んでこいよ今すぐ」
「そうそう、見ててあげるからさ。」
何を言ってるの…?
その考えだけが私を支配した。
意味が理解出来なかった。
いや。意味を理解してた。
だがこの感情しか出てこなかった。
こいつらはきっと大切な人の死を
経験してきていない人等なのだろう。
だから軽々しくその言葉が口に出来てるんだと思う。
ケタケタとまるで地面についてるガムのように
こびりついてくる彼女達の笑い声が五月蝿い。
黙れ。喋るな。
「は?何?八田。机叩いて怒ってますよアピール?古いんだよ。」
私はほぼ無意識で机を叩いたらしい。
いじめっ子の彼女の言葉と手に残るジンジンとした感覚だけが
私にその事実を突き刺してくる。
こんだけしたら、もう後には引けない。
「怒ってないよ。けど、いまどき集団でいじめも私と同じくらい古い。」
そう言うとリーダー格であろう女生徒の顔がカッと赤くなった。
恥ずかしかったのか、それとも怒ったのか。
きっと後者の方であることの方が確率は高いだろうけど。
だって今の私の一言で彼女は『いじめてる張本人』というレッテルを貼った人になったのだ。
いわば農民が急に王様に奇襲を仕掛けたも同じこと。
それに対して怒らない王様はきっといない。