新たな力
ヘレナは風呂に行った、一緒にと誘われたが、師匠がいるのにそんな節度のない真似はできない。リビングに降りるとにやけた師匠がいた。
「おはようございます。ゆうべはおたのしみでしたね」
「師匠、いくらなんでもそれは……」
「……すいません。いわなきゃいけない気がして……。どうやら儀式は性交したようですね。体の調子はどうです?」
なんかニュアンスが違かった気がしたがスルーする。師匠ってこんなキャラだったっけな。娘を取られてちょっとおかしくなってるのかも知れない。
「今も繋がりを感じます。なにしてるとかは分かりませんが、どこにいるかは分かるようです」
「ふーむ、なるほど。実はこの儀式は、私が村の宝物庫で読んだものを思い出したやつなんですが、途中でバレて村を追い出されたので詳細がよく分からないのです。まさか、使うことがあると思わなかったから、流し読みしたのがいけなかった。生きてると何があるか分かりませんね。色々と実験する必要があります」
俺と師匠は庭に出て実験を開始した。
「書物には、魔力だけでなく特殊な力も共有すると書いてあったはず。私はこれを種族魔法のことだと考えました。まずは、エルフの魔法について説明しておきましょう。エルフの種族魔法は空間を操る魔法です。空間を繋げて転移したり、空間を弄って結界を張ったり、異空間の接続など用途は幅広い」
「なんか便利過ぎませんかそれ」
「だからエルフは知られないように引きこもるのです。この世界で空間魔法は便利すぎる。知られたらエルフを捕まえるために世界中の国が動くだろうね。そして世界の奴隷となるでしょう。エルフの秘密主義にも理由があるのです。その点、有翼族は上手くやりました。回復魔法という技術を盾に全国と和平条約を結び、教会を設置して権力を得た。世界には、有翼族を襲うのはタブーという不文律が浸透している。これは情報技術が発達してなかった昔だからできたことです。現在でエルフが同じことをやろうとしても無理だろうね」
「エルフの情報が世に出ない理由がわかりました」
「エルフの村では、空間魔法のことを知られる危険性を何度も何度も聞かされ刷り込まれる。誰も破ろうとはしないでしょう。まあ、エルフの事情は置いといて、まず簡単な魔法を使ってみよう」
そういって師匠は、空間に穴を開けて中から杖を取り出した。
「【収納】と呼ばれる魔法です。自分だけの異空間でそこに物を入れておける。この世界の理と違うのか時間が経ったりしないが、生物は入れられない。使用者の魔力で中の大きさが変わる。私は一部屋分くらいです。魔力で空中に穴を開け、それを固定するイメージです」
俺は言われた通り、空中に魔力で穴を開けた。どうやら成功したらしい。中に手を入れてみる。なにか布が掴んだ。
「師匠、中になにかあるんですが」
「なんですって? 初めは何もないはずですが……」
「出してみます」
引き抜くと可愛いリボンのついた純白のショーツが出てきた。
俺は微塵も躊躇わずに鼻をつけて匂いを嗅いだ。
「すうううはああああ、ヘレナの匂いです。間違いありません!」
「ア、アステル……あなた変わりましたね」
「? そうでしょうか?」
どうやら俺は何か変わってしまったらしい。何が変わったのかは分からなかったが。きっと儀式のせいだ。
「収納したものを取り出す時は、中に入れたものをイメージします。あなたはもっと硬派なやつかと思ってたいましたが、むっつりだったんですね」
「……それよりも、なんでヘレナのものが?」
「収納の空間は、個人によって違う。あなたは多分、魂に混じったヘレナの情報で魔法を使ったから繋がってるじゃないかと。今はこれくらいしか考えられません」
流石は師匠である。なかなか納得のいく理論だ。
「とりあえず空間魔法を使えることは、分かりました。ということはヘレナも闘気が使えるってことですかね」
「そうですね。一旦戻って朝御飯食べてから試してみましょう」
収穫が多い朝訓練を終え、とりあえず家に帰る。
「お帰りなさい、アステル様。朝ごはんの準備は終わってますよ」
「ヘレナ、とりあえずこれを返すよ」
「え? え、え? なんでアステル様が私のショーツ持ってるんですかー!」
「それは朝ごはん食べながら話そうか……」
俺が空間魔法を使えるようになったことと、これから色々と実験をすることを話した。
「私の収納スペースがありえないほど増えてます。これはもう倉庫ですね。ですが、アステル様、私の下着は勝手に持ってかないで下さいね。言えば渡しますから」
「いや、偶然なんだよ。信じてくれ……」
いらぬ誤解が生まれてしまった。本当に偶然なんだよ。多分。
「まずは距離を調べてみましょう。探知できる範囲と離れても影響がないかは重要です」
500メートルくらいで繋がりが切れた感覚があった。空間魔法も使おうとしても無理だった。
戻ったらまた繋がって安心した。また、繋がりを自分の意思で断つことも出来るみたいだ。帰って報告しよう。
「あんま離れると繋がりが切れるみたいだな。空間魔法も使えなかった」
「アステル様との繋がりが切れると、また魔力が出て行く感覚がありました。どうやら治ったわけではないみたいです……」
「離れなければ問題ないだろ。これからは一緒だからあんま関係ないさ」
「はい!」
どうやら安心させられたみたいだ。やっぱりショックだったんだろう。
これから、一人旅は無理だな。まあ、こんな可愛い子と引き換えならしょうがないか。
次はヘレナに闘気を教えてみる。
「闘気は、体の魔力を圧縮してそれを全身に纏うんだ。とりあえずやってみよう」
「なんか簡単そうですね。お父様はできないのですか?」
「魔力を圧縮なんてできないよ。多分、人族の特性が圧縮にあるんじゃないかな」
「なるほど、言われるまで気づきませんでした。そういえば闘気の使い方自体は単純だったので、できるなら他種族でもやってるはずですもんね」
「なんか成功したと思います。ちゃんと圧縮できました」
様々な魔法を使って魔力の使い方を知ってるヘレナなら要点だけ教えればすぐ使えるようになるか。まあ、その先の維持したまま戦ったりが大変なんだが。
「それで動ける?」
「大丈夫そうです」
ヘレナは直線をかなりの速さで駆けて戻ってきた。
「すごいです! 体が自分のものじゃないみたいです!」
「うん、ヘレナはやっぱすごいな。そんな簡単に使えるようになるとは思わなかった」
「これでお父様の格闘術が使えます」
そういってヘレナは格闘術を併用した魔法を使おうとした。俺は闘気中は魔法を使えないと言おうとしたのだが――
自分の中からヘレナになにかが使われた感覚がして言葉を止めた。
ヘレナは闘気を纏ったまま魔法を使っていた。
「なっ!?」
「これで接近戦もできますよ!」
「ヘレナ! どうして闘気中に魔法を使えるんだ!!」
「え? あ、そういえば闘気中に魔法は使えないはずでしたね。どうして使えたんでしょうか?」
俺は、自分のできるかと闘気を纏って慎重に魔法を使ってみた。自分以外の所から力がくるような感覚がして魔法は発動した。これはすごいぞ!
「ヘレナ。なにか感じたか?」
「はい。私の中からアステル様に力を送るような感覚がありました」
「アステル、今まで闘気中は魔法を使えなかったんですよね?」
「はい、確実に無理でした」
「なるほど、私の仮説を言います。力を共有する、つまり自分以上の力を使おうとしたら相手から力を借りて発動できるということではないでしょうか?」
この仮説は、正解だった。自分じゃ扱えないほどの力を使おうとするとヘレナから力が来て使えるようになるのだ。
まず個人で使える容量が決まっている。これは生まれつき決まっているようである。そこからリソースを割り当てて俺たちは魔法を使っている。これらが比翼の理を使った後に認識できるようになった。
俺は、闘気中に六割くらいのリソースを使っている。ここで魔法を使おうとすると、並列処理のためか負荷が高く、魔法自体が発動しなかった。ヘレナの力を二割くらい借りると魔法を使うことができる。もちろん、ヘレナはその間は八割の力しか使えなくなる。
これだけ聞くと個人での闘気と魔法の並列は不可能と思えるが実はそうではない。魔法や闘気と言った技術は熟練度というか最適化したものは使う容量が少なくなる。慣れれば慣れる程、リソースを使わずに済むということである。つまり、最適化すれば、いずれは自分一人でも闘気と魔術を同時に使えるようになるということだ。この発見は非常に有意義だった。
この共有能力のもう一ついいところは、自分の力以上をものを無理やり発動できる点だ。本来は発動しないので、試行錯誤で最適化してどうにか発動させなくてはいけないのだが、実際に発動させて最適化すれば、その速度は比較にならない。今、闘気と魔術の併用はものすごい速度で最適化してる。初級魔法くらいなら発動できそうな勢いだ。
「空間魔術の練習に、闘気の最適化、新たな戦い方の模索。ヘレナの闘気使った近接の訓練もいるな。やることが一気に増えた」
嬉しい悲鳴だ。自分が一足飛びに強くなったのが分かる。調子に乗って、思わずヘレナを抱きしめてしまった。ヘレナされるがまま撫でられていた。




