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もし幼女が何でも一つ言う事を聞いてくれたら

作者: 空箱零士

 何でも一つだけ言うことを聞いてあげるねと、俺の好みど真ん中ストレートな幼女に言われた。

 ブヒッ! ブヒャラヒラッ! などと冒涜的過呼吸声をあげて醜く興奮する俺を目の前にしても、幼女は純粋にファンシーな笑顔を振りまいている。

 腰まで真っ直ぐに伸びた茶色がかった美しい髪、キラキラと輝くつぶらな瞳、思わずむしゃぶりつきたくなるくらいに柔らかそうな唇、無垢なる純白が輝かしいに肌に、紅玉のように上品な赤みが差している頬。いかにもプニプニと柔らかそうだ。

 そんな美少女というイデアを完璧に具現化したかのような女の子が、差し詰め養豚場から逃げ出してきたクソ豚のごとき存在に過ぎない俺に対し、「なんでも」! 「一つだけ」! 「いうことを聞いてあげるね」! と来たものであるっ! ああっ! この世には神も仏もいないのかっ!

「ねえ、どうしたの? なんにもしないの?」

 なにもしない訳ねえだろうが求婚すんぞ!

 小首を傾げながら訪ねる少女の佇まいは、芳しい雌花のように挑発的ですらあった。

 ああっ! どうか夢なら覚めないでくれ……!

 俺は生唾を飲み込み、少女に対して行おうとしているイタズラに思いを馳せるのだった。


 その前に、一体なにがどうなってこんな状況が発生したかを話す必要があるんじゃないかと思う。

 あれは去る八月上旬。日課であるランニングをこなしつつ、脳内における非現実美少女への性的探求行為を行っていたところ、その幼女が横断歩道の反対側からトコトコと歩いてきたのである。

 それだけなら日常的な風景だが、なんということだ。彼女の渡っている横断歩道の信号は赤で、車道から猛スピードで走ってくるトラックが今にも彼女へ襲いかかろうとしているではないか!

 まさに絵に描いたような絶体絶命!

 しかし類稀なる妄想力を持つ俺は動じない。

 少女の危険を認識すると瞬時にエンドルフィンを放出。脳内に刻まれた幾億もの妄想の中から「車に轢かれそうなヒロインを助ける主人公」の行動を峻別し、現状の俺にリンクさせ、即座に最も適切と思われる行動を開始。他の追随を許さぬエンドルフィンの放出量と妄想力で人間の身体能力の限界を突破。閃光のフラッシュと化した俺は、時の止まった世界を駆けるが如しの神速を発揮する。

 トラックを前に立ち尽くす幼女を、タックルの要領で抱きかかえ、勢いよく転がっていく。上半身を起こし、ここが安全な場所であることを確認すると、俺は改めて幼女の安否を確認。幸いにも全くの無傷で意識もはっきりとしているようだ。

「あ、あの……ありがとうございます」

 下方から少女の声が聞こえてくる。視線を下に向けると、仰向けになっている幼女が固い表情で俺の表情を見つめていた。そしてそこで始めてちゃんと幼女の顔を見つめることになるのだが……もうお分かりだろう。彼女は美少女のイデアで、そんな俺と幼女は俺が幼女を押し倒したような体制になっていたのだ。幼女の麗しすぎる顔が近い。

「でゅ、でゅふでゅふっ! べべべべつにそんな俺たいしたことしてねーしっ! ただだだ危ないめに遭ってるおおお女の子助けただけだしっ!」

 たちどころに頭がフットーした俺は、醜くこんがらがった言葉を連ねてしまう。顔が紅潮してニヤケも収まらない。ああ、せっかくイデアな美少女を助けたのに、これじゃあキモがられるうぅ!

 しかし予想に反し、幼女はこれ以上ない程に目をキラキラとさせて俺のことを見つめるのだった。

「……キスまでなら、してもいいよ?」

 そして浮かべるニッコリ笑顔。それは天使のそれをも超越するふわふわと可愛い笑顔だった。

 ――ひゃあああああああああああああああっ!

 逆にパニックに陥った俺は、幼女が止めるのも聞かずに猛スピードで逃げてしまう。

 しかし後日、偶然にも俺と幼女はこうして再会を果たし、人気の少ない公園の中で例の言葉を聞くことになったのだった。


 とはいえ、ここで全裸になって「お医者さんごっこ」に洒落込むのはニッポンの国技・HENTAIを嗜む紳士として非常に恥ずべき行為だ。しかし、無難な頼みでお茶を濁すのも惰弱に過ぎる。なんといっても少女は美少女のイデアなのだ。それを目の前にしてなにもしないというのは、高級ホテルのごちそうを無下に引っくり返すがごとし。

 思考に思考を重ねた理性に偽らざる本能をかけ合せた時、俺は一つの決断に辿り着いたのだった。

「その素敵な髪を飽くなきまでに触りたいっ!」

「いーよー!」

 びっくりするくらい軽かった。

 流石に少しは躊躇するかと思っていた俺は、少し慎重に少女の表情を窺う。しかし少女の表情はあくまで純心なニコニコ顔だった。

「ほ、本当に?」

「うん。だって、私のこと助けてくれた人だし」

「は、はあ……」

「むしろ想像してたよりも軽いくらいだよ」

 ねえどんな想像? 一体どんなことをされちゃう想像? それをお兄さんに克明に話してごらんよ?

 そう問い詰めたくなったのをぐっと堪え、俺はじらすような速度で少女に近づいていく。あまりの多幸感に、頬の緩みは止まらなくなっていた。

 そしてキスの距離まで近づいた俺は、ガラス細工に触れるように髪の毛に右手を触れた。瞬間、俺の手が感じ取ったのは、暖かく芳しい清流の触感。まるで一つの奇跡のようにサラサラと心地いいそれは、春の陽気が降り注ぐ草原のように暖かく、プンプンに香る美しい花のように芳しかった。

 この官能的なものに触れれば触れるほどに鼓動は高鳴り、ブタのような呼吸も荒くなる。最初は恐る恐るだった俺の手つきも次第に激しく、舐めるようになっていった。しかし、いくら撫でても撫でても俺の欲求は満たされることなく、その内ただそれだけでは物足りなくなってきた。

 ――……んっ……んふっ……。

 その時、俺の耳に少女の息遣いが聞こえてくる。小学生とは思えないような艶やかな声に、鼓動が瞬間的に高鳴る。思わず少女の表情を見ると、少女の頬は気持ち赤くなり、呼吸も荒くなっていた。

 俺の視線に気づいた少女は、こちらに顔を向ける。その潤んだ瞳に、俺は思わず少女と目を合わせたまま固まる。やがて少女はどこか恥ずかしそうに、しかし嬉しそうな笑顔を浮かべたのだった。

「えへへ……頭なでられるのって気持ちいいね」

 ――はい、どっかーん!

 辛抱出来なくなった俺は少女に抱きついた。少女が「ひゃん!」という仔猫のような鳴き声を漏らす間もなく、俺は顔を髪の毛に埋めたのだった。

 すると、ああ、なんということだろうか。

 そこはまさに天国だった。

 そこは天使の羽に包まれるように心地よく、そこは天使の息吹のように芳しく、そこは天使の抱擁のように温かい。そこに行きつきし者は誰しもが天へと昇り、そこに行きつきし者は誰しもが安らかな夢を見る。幼女の中に桃源郷を見出し、狭き門を潜りし者のみに到達を許された約束の場所。

 そこはまさに天国だった。

「もうお兄さん、びっくりさせないでよー」

 少し非難のこもった声に耳を貸さず、俺は猿のように彼女のサラサラな髪の毛にほお擦りをし、たまに動きを止めては鼻を押し付けて匂いを嗅ぎ、そして少女の肢体に俺の身体を埋めた。羽毛のように柔らかく、焼きたてのパンのように温かい少女の身体もまた、紛うことなき天国だった。

「もう、くすぐった……あっ……」

 最初は戸惑っていた様子の少女もやがて、少しずつその息遣いを荒くしていく。俺の動きもそれに応じて変化し、獣じみたものになっていく。

「もう、や……あ……あんっ!」

 最早ただの喘ぎ声になってきた少女の呼吸に、俺の興奮も高まる。俺はさながら、楽園のリズムに合わせて躍動する一匹の狼だった。

 ――俺は……俺はもう、もう……!

「お兄さん、わたし、もう……もう……!」

 ――さあ、finaleのとk

「ecstasyyyyyyyyyyyyy!」

 しかしその前に天国へと昇ってしまった俺は、魂の咆哮と共に意識を失ったのだった。


 なんか「我が生涯に一辺の悔いなし」とか宣ってる時のラオウみたいな格好で気絶してたことに気がついた時には、既に辺りは暗かった。

 少女のことを探すが、案の定どこにもいない。常識的に考えて、あれはやけにリアルな白昼夢だったと片づけるのが妥当だろうと無理やり結論づけた。

 時間を確かめるべく、ため息をつきながら携帯を取り出すと数件の新着メールが届いていた。どうせ迷惑メールだろうと高をくくって開くと、なにやら迷惑メールに交じって、見知らぬメアドのものがあるのを見つけた。それは、俺が気絶してる間に少女が登録した少女自身のメアドだった。


  お兄さん、また遊ぼうね。

  でも、今度はえっちなのはダメだよ。


 どうやらこれは夢ではなかったらしかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人によっては鼻につくかもしれない表現、持って回った言い回しが多々見られましたが、個人的には好きです。また崩した台詞は物語に合っていると思います。 幼女の描写も丁寧です。 [気になる点] …
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