雪城家の存在
雪城家の大きな門をくぐり、直ぐに車は止まった。
門から屋敷までは道が細くなっているため車では通れない、そのため歩きで行かなくてはならない。
「やっと着いたかと思ったら、ここから歩くのかよ!?」
「うん。約200mほど」
約200mは結構な距離であり、司も呆れ額に手をあてていた。
それほどまでに雪城家の屋敷の面積は広大である。
歩き始めようとすると和葉達が乗ってきた同じ車が1台、門をくぐって和葉達が乗ってきた車の横に止まった。
車の中から出てきたのは日本人離れした容貌の少女が車から降りてきた。
その容姿は日の光のように輝くブロンドヘアーと海の浅瀬のような澄んだ蒼の瞳。誰が見ても一目で異国の血が混じっている、もしくは外国人だと思われるだろう。
彼女も雪城家に従える家の一族である七宮家の長女であり、和葉と和泉の幼馴染の七宮真生である。
彼女はイギリス人の母と日本人の父の間に生まれたハーフであり母の血を濃く引き継いだようだ。
そんな容姿と美しさのため普段からでも目立ち、純和風の本家の風景によっていっそう目立っていた。
少し周りを見渡した後、和葉に気づき顔に満面の笑みを浮かべ小走りで向かってきた。
「お久しぶりです!元気にしてましたか、和葉?」
「真生こそ元気だったの?」
久々の再会に2人は抱き合って喜んでいた。幼いころはは和葉、真生、和泉の三人でよく遊んでいたが時が経つに連れ、本家にてお互いが顔を合わせるのは滅多になくなり前回会ったのもはっきりと記憶にないほどの昔である。
「ご無沙汰しております真生様。また一段とお母様に似て美しくなりましたね」
「ありがとうございます。光圀さん、私は素の方がお好きですよ」
深々と頭を下げる光圀に対して、真生は意味ありげな笑みを浮かべていた。
「先日の件は七宮家もすでにご存じで?」
「もちろん、我が家の能力を忘れては困りますよ?」
「ええ、雪城家の裏での取引や様々な情報を有する七宮家にとっては当たり前のことです」
七宮家は雪城家に古くから仕えている家の中でも特に情報面に関しては秀でている。
表には出ないような情報や取引、さらには情報の改ざんまでもしている影の暗躍者の家である。
「私も次期七宮家頭首としてそろそろ私自身の人脈も広げておきたいので、今回の召集には私が参加することにしました」
それにと区切り和葉の手を握った。
「こうして和葉に会えて、女の子の恰好見れたし満足です」
女の子の恰好とは和葉の制服姿を指しているのだろう。
「本来は本家に来るときは男装じゃないといけないんだけどね。雪城の命があるから……、でも今回は何故か制服でいいって言われたんだよ」
「男装って、確か結構ラフなメンズ服着てますよね。確か外出するときは深く帽子をかぶって……。街中歩いてるときは美男美女でしたよ。それはそれは女子とは思えないほどの完璧な男装でしたよ」
「な、なんで知っ」
顔を真っ赤にして突っ込もうとした和葉の言葉など耳に入っていないようで言葉を続けている。
「それにあのワンピースは着ないのですか? 絶対似合うと思いますし見たいのですが」
「もうそれ以上言わないで!」
一体、どこまで知られているのだろうと思いつつも、何があっても絶対に七宮家だけは敵に回したくはないと思った。
話をしながら歩いていると、いつの間にか屋敷の玄関前に差し掛かった。
玄関に着くと直ぐに大広間へと案内された。
大広間は重々しい雰囲気に包まれていた。
上座には既に現当主である雅が着座しており、両脇には雅の側近。
下座の左右には雪城家に古くから従っている家の代表する者がスーツや着物に身を包んで互いに向かい合うように座っていた。
和葉、光圀、不知火は左手、真生は右手に誘導された。
「ようやくそろいましたね。皆さん早朝に召集をかけてしまったことは許してちょうだい」
朗らかに笑い、扇子を音を鳴らしながら閉じた。
「ここにいる者は知っていると思うけども、輝光界からの使者が来たそうよ、舞鬼の巫女を探しに」
雅の一言に広間は一気にざわついた。
ここに集まっている者達は輝光界や鬼のことはもう既に知っているようだ。
「鬼が来たということでしょうか?」
「えぇ、しかしあの子は体が弱く向こうの世界の空気や環境にはまだ耐えれないわ」
「では、私たちは?」
「皆にはこれまで以上に鬼に警戒し、情報を集めてほしいのよ」
「それだけでよろしいのですか?」
「この後、家ごとに命を書いた書状を渡すわ。皆、頼みますよ」
雪城家に連なる者の代表者の質疑を雅の一言で閉め、一斉に頭を下げたが、和葉だけは逆らうように雅を見つめていた。
「和葉、光圀、不知火、七宮家の者。この後奥の間へと来なさい」
大広間から人がいなくなると、ここまで案内をしてくれた人と同じ人が現れ奥の間へと案内された。