壊された日常
朝食を食べ終わったころ、突然、来客を告げるチャイムが鳴った。
朝早くに人が訪れることなど滅多になかった。
洗い物をしている光圀の代わりに和葉は不思議に思いながらドアを開けると、そこには真っ黒のスーツに身を包んだ品のある初老の男性が手を後ろに組み立っていた。
「私は雪城家の使いでございます。雅様の命により本日早朝よりお迎えに参りました。下に車を停めておりますので準備ができ次第出発させていただきます」
「……私は、学校へ行くので、それに用があるのは光圀でしょ?」
「雪城家」という単語が耳に入り、一人称を私に変え和葉は反射的に彼を睨みつけたが、全く動じていなかった。
「いいえ、召集がかけられたのは和葉様もでございます。さらには不知火家の者もご一緒にということでした」
「……どういうこと」
「言葉通りでございます。これは現当主雅様の命……すなわち雪城家の命でございます」
彼は深々と頭を下げた。
「和葉、以前の件だ……行くぞ」
いつの間にか後ろで話を聞いていた光圀が激情しかけている和葉をなだめるよう肩に手をポンっと軽く置いた。
「わかった……司はもう呼んだの?」
「いえ、まだでございます」
「じゃ、うちが行く。そこどいて」
彼を押しのけ玄関を出て行った。
司と会うのはあの日以来だったので少し緊張気味にドアホンを鳴らした。
少し経ってからドアがゆっくりと開いた。
「……和葉だっけ?こんな朝早くになんだ?」
明らかに寝ているところを起こされて少し不機嫌な不知火が出てきた。
髪は少し寝癖が付き、いつもかけているメガネはかけ忘れたのか少し印象が違って見えた。
「おはよう、確認もせず開けるなんて不用心だね」
「うるせぇ……お前の気配ぐらいわかるっつうの。で本題はなんだよ……?」
かったるそうに両手を頭の上で組みながら、こちらまで移りそうな大きく欠伸をした。
「雪城から召集がかかったの。ううん命令だね。不知火家の者も来いって」
「やっとお呼び出しか……ちょっと待ってろ、すぐ支度する」
慌てることなく身支度をするため部屋の中へと戻り、和葉はいったん外に出て待つことにした。
ようやく全員が揃ったころには初老の男が来てから十五分ほど経っていた。
車の助手席に光圀、後ろに不知火と和葉が並んで座った。
和葉が本家に戻るのは、昨年の和泉の誕生日以来である。自分自身の誕生日でもあるが、和泉の護衛の仕事をしていたため全く祝ってもらえず終わったという苦い記憶しか残っていない。
本家に着くまでは誰一人言葉を発しなかった。
沈黙の中には3人の思惑が静かに交錯していた。
大分短い構成になってしまいました(汗)