日常
和葉はいつもより早く、アラームが鳴る前に目が覚めた。
いつもより早いといっても十分程なので二度寝をする訳にはいかなかった。
重く落ちてくる瞼を必死にこすりながらも、学校に行かなくてはいけないので壁に掛かっている制服に着替えた。
洗面所に立ち寄り一通りの支度を終え、リビングへ行くとちょうど朝食の支度を終えた光圀がテーブルの脇でエプロンをたたんで立っていた。
今日の朝食はフレンチトーストとヨーグルトであった。出来立てのようでおいしそうな匂いと湯気が立っていた。
「おはよう」
「おはようございます。今日は早いのですね……」
光圀は大きく欠伸を一つした。
明らかに寝不足のようで目の下にはくっきりとクマが出来ていた。
口調が戻っていたことよりも、和葉は欠伸をした姿を始めて見て驚いた。
普通、人間なのだから欠伸の一つや二つはするものだが、光圀は人前ではもちろん和葉の前ですらも欠伸をしたことはなく、人に隙を与える行為は一切しない。
「昨日の夜寝れなかったの? それに口調もあっちでいいよ?」
「ん?あぁ、昨日少しな考え事しててな……素を知られたから口調は戻さないつもりだったんだが、戻ってたのか」
「うん、ばっちり戻ってた。悩みとかだったら聞くよ?」
あまりにも普段とかけ離れていた光圀が心配だった。
もちろん光圀が深夜に雅と会っていたことなど和葉は微塵も知らない。
何かわずかなことでも力になれるのなら……支えられてるだけじゃなくて自分も光圀を支えたいと和葉は心に決めていた。
「ありがとな。でも大丈夫だ」
「うん、わかった」
「ほら、さっさと食って行かないと遅れるぞ」
朝食を食べ終えた和葉は学校に行き、光圀は一人リビングのソファに深く座り、天井を見上げ両腕で顔を覆っていた。
「言えるわけがない……」
こんな当たり前の日常が昨日のことなどなかったかのように過ぎて行った。
だがそんな当たり前の日常はほんの数日で音もなく崩れた。
突然訪れた、召集を告げる雅の使いの者によって。