危険を察して
早々とワンピースを脱ぎ捨て、部屋着のジャージに和葉は着替えた。
さすがに新品のワンピースにしわをつけたら怒られると思い、ハンガーにかけクローゼットの一番奥にかけた。
「お腹へったー……今日のごはん何?」
回転式の椅子に座りテーブルの上で伸びていた。
そんな姿を見て光圀は大きくため息をついた。
「全く、だらしないですよ。今日は和葉様の大好物のオムライスですよ」
「本当!?やったー!」
オムライスは和葉の大好物である。あのとろとろの卵にデミグラスソースがかかっているのが特にたまらない。ケチャップで食べるのも好きだが、光圀の作ったデミグラスのオムライスはレストランで食べるものと変わらないほど絶品であった。
「そういえば、隣に和葉様と同い年の少年が引っ越してきましたよ」
「どんな人?」
「身長が高くすらっとしていて、メガネをかけていました。和葉様が護衛に行かれているときにあいさつに来たので、もしお会いになったときは挨拶してくださいね」
「りょうかーい!」
テレビを見るためソファーに仰向けに寝転がり、テレビにリモコンを向けチャンネルをいろいろ変え、なにを見るか見定めていた。
「和葉様、宿題はやったのですか?」
「明日やるー」
足をバタバタと動かし答えた。そんな姿を光圀は見て再度ため息をついた。
「では、和葉様。そろそろ新聞が届いてる頃かと思うので下まで取りに行ってください」
「えー……」
「では、オムライスはやめます」
「すぐさま行ってきます!」
オムライスを出され、和葉はソファーから飛び起きダッシュで向かって行った。
エレベーターで4階から1階まで降り、ポストを見ると新聞の他にもセールス関係のチラシなどがたくさん入っていた。
「光圀めー! オムライスを出したら、絶対断らないことを知って!」
ぶつぶつと独り言を言いながらエレベーターに乗っていた。
4階に着き廊下を歩いていると、急に強い風が吹き持っていたチラシなどが舞った。
「うわ! 最悪」
外には落ちなかったことが不幸中の幸いであった。
黙々と拾っていると和葉の前に影が落ちた。
「大丈夫? 向こう側に落ちてたの拾ったよ」
「あ、ありがとうございます」
受け取ろうと、顔を上げるとメガネをかけた少年だった。
もしや、光圀が言っていた引っ越してきた隣人かもしれないと和葉は思った。
「もしかして、隣に引っ越してきた人?」
「はい、今日引っ越してきた不知火司です。よろしく」
司の瞳は漆黒の色であり、見つめていると吸い込まれるようだった。
「倖代和葉です。こちらこそよろしくです」
挨拶を済まし、先ほど落としたものを受け取ろうと手を伸ばしたとき司の手が少しだけ触れた。
その瞬間電流が走ったような痛みが走り和葉は思わず手を引いてしまった。
「どうかした?」
不思議そうに問われ、司の顔を見ると和葉は目を疑った。
先ほどまでの漆黒の瞳が、血のような鮮やかな真紅の色に染まっていた。
和葉は頭で考えるよりも早く、何かが本能的に和葉に伝えた。
この目の前にいる男は何かが違う、この場から離れるべきだ
「いや、なんでもないです。じゃあ」
必死に動揺を隠し、逃げるように家へと入って行った。
そんな和葉の姿を司は見ていた。
「ゆきしろ……まさかあいつが」
夕日によって司の前に影が伸びる誰もいない廊下に言葉を残し、踵を返して同じように家の中へと入って行った。
慌てて扉を閉めたため大きな音が廊下に響いた。
リビングの方まで聞こえたようで、光圀が心配そうにリビングから顔を出していた。
「そんなに強く扉を閉めて、何かあったのですか?」
「ううん、何もないよ! 新聞取ってきたよ!」
新聞やら、チラシなどを片手にリビングへと小走りに向かった。
リビングに入るとすでに夕飯の支度が終わっており、机の上にはオムライスが並んでいた。
「ねえ、さっそく食べていいよね!? ね!?」
「はいはい、どうぞ食べていいですよ」
「いっただきまーす!」
先ほどのことを頭の隅の方に追いやり、今はただ目の前にあるオムライスだけに集中していた。
あっという間に食べ終わり、光圀が出してくれた温かいお茶を飲んでホッと一息ついていた。
「ねえ、うちの目って他の人とは違うんだよね?」
「ええ、そうですね。雅様と同じ人ならざる者が見える目を持っていますね」
和葉が物心ついたときに気づいたものだが、人ではない幽霊や、物の怪といった者達を見ることが出来る。幼いころは幽霊とは知らず一緒に遊んでいたようで、光圀は幼い和葉にお友達と言って紹介されたりといろいろと苦労をかけていた。
「それって……そのお化けとかは見てすぐわかるんだけど、人に化けてたりとかの時ってどうやって区別するの?」
「私がその目を持っているわけではないのでよくわからないのですが、昔雅様から聞いたことでは、周りの気やもしくは瞳の色が違うそうですよ」
その時、一瞬先ほどの光景が頭をよぎった。
漆黒だった彼の瞳が一瞬にして血のような真紅の瞳に変わったことを。
「……見たのですか?」
「え!? 違うよ、ただ気になって……ね」
「そうですか」
「そうだよ、じゃ、宿題やんなきゃいけないから部屋に戻るね!ご馳走様でした!!」
光圀の疑いの視線を受け、これ以上何か追及されたら言い逃れは出来ないと感じた。逃げるように部屋へと戻って行った。
今日はやたらと逃げるようなことが多いなと思ったりする和葉であった。
一方、食べ終わった2人分の食器などを洗いながら、光圀も考えていた。
きっと和葉は気づいてしまったのだろうと……
すみません(汗)
昨日更新するはずが1日遅れてしまい……
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