少年少女
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都会のとあるスクランブル交差点。
無表情で歩く”少年”と対照的に無邪気にはしゃぐ少女がいた。
少年の両手には大量の荷物を手にしていたが全て少女の物である。
一見すると何処にでもいそうなカップルに見えるが彼らは周りの視線を集めていた。
少女は無邪気なところが目立つが、容姿は誰もが振り向くであろう美しさであった。
少年も同じである。
世間一般的に言うと美男美女というものである。
人混みの中フードを深くかぶった人が彼らの行く先から歩いてきた。人混みなのだから、彼らの行く先からは大勢の人が来るのだから、普通は一人一人を意識する必要はない。
だが少年は何故かその人物には無意識に目がいったのである。
少年が意識を向けた人物ははすれ違いざま口角を少し上げ、ニヤッと笑っていた。
まるで獲物を見つけた獣のように。
周りからしたら赤の他人同士何も無かったように見えただろうし、少女も全く気付いていなかったが少年にはすれ違いざまにはっきりと聞こえていた。
「見つけた」
その一言と先ほどとは打って変わった妖しい笑みを残していった。
少年が頭で理解し、振り返った時にはすでにその姿は見えなかった。
まるで一瞬にして風と共に消えてしまったかのように……
***
「送ってくれてありがと、いつもごめんね」
「別にどうってことはありません。では失礼します」
少年は無事に彼女を家まで送り届け、自分も家に帰ろうと少女に頭を下げてから歩き始めた。
少年が二、三歩歩いたところで少女は何かに気付いたようで慌てて駆け寄ってきた。
「どうかされましたか?」
「あのね、渡すものがあって」
大事そうに抱えていた紙袋を少し照れた表情でおずおずと少年の前に差し出した。
その紙袋を少年は疑問を浮かべながらも受け取った。
「これは?」
「この服、絶対に似合うと思って買ったの。よかったら着てね。じゃあ」
早口で言いたいことを全て言い、そのまま返事を聞かず手を振って家の中へと入ってしまった。少年はその行動に驚いた様子もなく、ただ右手に紙袋を持ち家へと向かった。
***
「ただいまー。のど乾いたんだけどなんかある?」
家に着くと少女の前での硬い言葉ではなく年相応の砕けた物言いに変わっていた。
「お帰りなさい、和葉様。冷たい麦茶が用意出来てますよ」
和葉を迎えたのは、和葉の保護者として一緒に暮らしている月城光圀である。
家事全般完璧に熟す主夫で和葉が学校に行っている間は何をしているのかは和葉も把握していない。
「ん、ありがとう。一回部屋に荷物置いてくるわ」
疲労のたまった体を引きずるように自分の部屋へと向かった。
部屋に入ると同時にベットに頭から倒れこんだ。
そのはずみに帽子が脱げ、帽子によって隠されていた長く艶のある黒い髪が姿を見せた。
思っていたよりも疲れていたようで、このまま寝てしまおうかと瞼を開けたり閉じたりを繰り返しているうちにいつの間にか眠ってしまった。
「ったく、服のままベットに倒れては服にしわが付きますと何回言えば済むのですか? まあ、相変わらずの変装…なかなか似合ってますよ少年の姿も」
先ほど少女と共に行動をしていた少年というのは和葉の変装した姿であったのだ。
「み、光圀!なんで部屋にいるの!? しかも最後の何!?」
驚き上半身を起し声の聞こえた方を見ると、和葉に対し真顔で話しかけつつも片手に麦茶を乗せたお盆を乗せドアの近くに立っていた。
「ノックもしましたし、一回荷物を置いてくると言ったのに全く来ないから部屋に入らせてもらったんです」
「それは、ごめんなさい……」
「いつものことなので気にしませんよ」
もう慣れたといわんばかりにさらっと言い、お盤の上に載せていた麦茶を机の上に置いた。
「和泉様の護衛でしたが、どうでした? 和葉様は楽しめましたか?」
「楽しめたと思う? 少し目を離すと何処か行っちゃうし、男どもに絡まれるし疲れた」
「和葉様の役目は、幼いころよりそう決まっていらっしゃっているので……」
光圀は少し顔を曇らせた。本来高校一年生はこんなことをやっているのではなく、友達と仲良く遊んでいる時期だというのにと心配しているのだった。
「しょうがないじゃん、家が決めたことだし……。小さい頃から姉さんを守るために男装して守るのがうちの役目」
姉さんというのは雪城家次期頭首である雪城和泉のことである。普段は「倖代」と偽った苗字を使っているが正当な雪城家の一員である。だが雪城家当主和葉と和泉の母である雪城雅の命により「雪城」と名乗ることを禁じられ、さらには幼いころから和泉の専属ボディーガードとしてあらゆる知識、護身法、格闘術、武術を教え込まれた
「そうですね、雅様の決定は私ではどうしようもできません」
「わかってる」
和葉は一気に麦茶を飲みほした。氷の入って冷えた麦茶が喉を通っていき、体がだんだんと冷えていくような気がした。
「ところで、あの紙袋の中身は?」
「いつもと一緒、服」
必ず少女は絶対に似合うと言い、出かけるたびに和葉にプレゼントするための服を買い、帰り際に渡すのだ。
「出してみてもよろしいですか?」
「別に、いいけど。絶対着ないからね」
中から出てきたのは、淡いピンクのワンピース。派手ではなく清楚な感じのワンピースであったが和葉が着ないタイプであった。
「案外似合うと思うのですが……」
光圀は服を和葉の方に向けて、呟いた。
「絶対着ないからね! だって似合わないよ……そんな服自分で買ったことないもん」
「それは、着ていないのにわかるのでしょうか?」
「うっ……、それは、そうだけど……」
痛いところを突かれ、和葉は言葉の最後の方を濁らせてしまった。
「では、試しに着てみましょう。もしくは来週はお役目のほうもないようですし、その洋服で出かけてみてはいかかですか? そのほうが周りの反応でわかりますよ」
意地の悪い笑みを見せられ、これ以上は何も反抗しても無駄だと判断した。
実のところ、口論で光圀に勝ったことはないので、口論になった時点で和葉に為す術はなかった。
「わかったよ! 着ればいいんでしょ、着るから光圀は部屋から出て! 着替え終わったら呼ぶから」
「わかりました、さすがに着方はわかりますよね?」
「わかります!!」
笑みをこぼして光圀は部屋を出て行った。
勢いで着るとは言ったものの和葉は戸惑っていた。ほとんど役目のため男の物の服しか着たことがなく、スカートは学校の制服ぐらいでしか着たことがない。年頃の女の子がこんなのでいいのかと光圀が心配をするほどだ。
和葉もスカートよりもズボンなどのパンツスタイルの方が性に合っていると思っているし、いざという時スカートだと動きにくいというのがスカートを着ない主な理由である。
言ってしまったものは今更取り消すのも無理だと大きくため息をつき、諦めて例のワンピースに着替えることにした。
数分で着替え終わり、ワンピースを身に着けた自分の姿を鏡で確認し、再度ため息が出た。
「光圀―……着替え終わった」
「そんな自信なさげな声を出さないで下さい」
そう言いながら部屋に入ってきた光圀は驚きにノブに手を掛けたまま目を見開いて硬直していた。
「なんで固まってるの……そんなに衝撃的だった!? 似合ってないでしょ……」
和葉の叫びにも似た訴えにようやく我に返った光圀は後ろ手に扉を閉めた。
「失礼しました。いえその逆ですよ、とてもお似合いです。一瞬誰だかわからなくなりました。もちろんお世辞でも何でもありません」
長袖やズボンによって隠れていたすらっとした手足に真っ白な肌、それらが淡いピンクのワンピースとあっていて、艶のある長く黒い髪がどこかお嬢様のような品のある雰囲気を出していた。
「本当に……?」
「ええ、本当ですよ。背筋も伸ばしてもう一度鏡の前に立って自分を見て下さい」
和葉の肩に手を置き鏡の前へと向かせた。
「……今度気が向いたら、着てく」
「その時は髪をアレンジさせてくださいね」
恥ずかしそうに俯いていたが、その頬は少し嬉しさを残したようにうっすらと赤く染まり笑みが浮かんでいたのを光圀はあえて何も言わず、和葉の消え入りそうな声を聞き逃さず答えた。
少しは年相応なことを少しでもしてほしい、少しでも女の子らしいことをさせてあげたい。
それだけがいまの光圀の心から和葉に願うことだった。
女の子が主人公なので女子の気持ちを考えながらの執筆です。
まだ題名に含まれている要素が皆無ですが、もうすぐ登場します!
すこしでも次話に興味を持ってもらえれば幸いです。