甘いケーキ
ま、いいかな。いろいろ(´∀`*)ウフフ書きたかったし。
珍しくファンタジー要素がありません。
よろしくお願いします。
私は子供の頃から味覚がない。
精神的なものから来るらしいが、何が虐待を受けた覚えも何もないし、両親は至って普通だ。ほんと、何があったんだろう。まあ、覚えてないし、いいか。
にしても何を食べても砂の味。人生を半分以上損している気がする。
まあ、お陰で私は細すぎるほど線が細く子供の頃から欠かせないのが栄養剤だ。
けれど。
私には好きな人がいるんだ。
一年先輩。甘いものが大好きで将来パティシエを目指している春乃先輩。女の子じゃないよ?可愛い響きだけれど。
家庭部に所属していて部長なんだ。ほんわかしていてとても優しいの。顔もジャニーズ系でカッコイイの。結構ファンはいるんだ。
そんな味覚がない私ですが家庭部に所属してます。
当然先輩目当てだね。そんな人結構いるんだよ?
私は料理全般ダメなので今日もいそいそ、先輩チラ見で編み物をしてたりします。
うわ。横顔もいいな。
悶えていると先輩と目があって笑いかけてくれる。あ、こっちに来た。手に持っているのはケーキですねぇ。見たこともないキラキラ宝石のようなケーキです。
「神永。これ試食して欲しいんだけど」
ここだけの話ですがお先輩料理音痴です。パティシエを目指しているのにそれは致命的に。形はいいんですよ形は。だけどみんなが逃げ出すほどに不味いらしい。本人は気にしてるんだけどそこまで悪いとは思ってないらしい。
なので唯一食べることが出来るのはわたしだけ。今日も今日とてみんなの青い顔が私を包む。
いや、味覚がない私だから味はわからないんだって。大丈夫だよ。心配しなくても。
あ、誰も知らないか。言ってないから。
にへらと笑うと私はそれを受け取った。
ふわふわのスポンジケーキの上には生クリーム。ベリー系、色とりどり果物が乗せられていた。
見た目は美味しそうなんだけどな?不味いなんて信じられないよ。先輩可愛そう。
「素敵ですね。先輩が作ったんですか?」
「え? うんーー美都に手伝ってもらったんだ」
……誰?
照れて先輩は頬を軽く掻いた。嫌な予感でしかないけど。
「お? 春乃の彼女?」
おお。副部長ナイス。副部長は意地悪げにニヤニヤしながら先輩を見ている。女の人なんだけどサッパリした性格が女子にもとても人気がある人なんだよね。
いや、そんな事より先輩だ。真っ赤になった先輩かわいいーーじゃ無くて。
彼女なのかぁ!!
やけくそ気味に私は口元にケーキを投げた。
うん。砂の味。お約束。不味い。ちょっと涙の味がする気もするけど。
しょっぱい?
「え? 神永、だ、大丈夫か?」
不安そうに副部長は私を覗き込む。私は口いっぱいにケーキをほおばったままリス宜しく先輩を見た。
「らいじょうぶれふ! おいひいです!」
うわぁ。笑われてるよ私。恥ずかしい!!
副部長は生暖かい目で見るとーーそんな目で見ないでーークリームを手にとってペロリと舐める。
渋い顔ーーでは無く驚いたようだ。
え?美味しいの?
先輩は嬉しそうに目を細めた。未だ頬が赤い。
うーん。女子力高くないかな?先輩。ふふふと笑っている先輩は女子の中にいても違和感などないかも知れない。
「良かった、次回は一人で作って見るね。ーーいつも食べてくれる神永にお礼がしたかったんだ」
「うわぁ。……なんとも微妙な話だな?」
可哀想な娘を見る目だよそれ? 副部長。え、向こうに行かないで?一人にしないで?
ーーつ! 知ってるわぁ! 先輩が作ってくれるのは嬉しいけどっ!嬉しいけどっ!!
なんかヤダ! 話の流れが!!
「ーー美都はね」
ちょっと。止めてください!大ダメージ与えるの。立ち直れなくなるよ?
「あっ! 先輩! 今度私にも作らせてください!! これっ!」
……そして、何言ってんだ私。言葉を遮ろうとして出たことがこれってーー。料理壊滅的にダメなのに、味さえ分からないのに。レシピ貰って先輩に見せなければダメだろうか?
作り笑いの奥で涙が浮かぶ。
けど、先輩は予想外にフニャリと笑う。なぜ? い、いや。可愛いけど。私は目に焼き付けようとして瞬きを我慢してしまう。痛い。けど頑張る!
だって、スマホで撮ったら変態だしね。
「じゃ、一緒に作ろうか?」
「ーーつ!」
神様!キタコレ!!生きていると言いことあるもんだ!
味覚ガーなんてワガママ言いませんよ!神様! 多分だけど。
「明日の放課後ここでーー」
そう去っていく先輩。背中から『うちらは邪魔しないから』という声が飛んてくるのは私の気持ちがだだ漏れと言うことだろうか?恥ずかしい。でも副部長優しすぎるよ!私と接点もあまり無いのにね。
これで彼氏がいないなんてありえないよ!とでも可愛いのにっ!!
私が男だったら絶対嫁にもらいます!
ありがとう。そして昇天してきますね。え?先輩の彼女さん? い、一緒にケーキ作るだけだし許してくれるよね✩
そのぐらい罰は当たらないと思うな。おもうね。思う!
yes三段活用!
にしても、副部長以外の女子の視線が怖いのだけど?
見なかった事にしよう。
******
ラズベリーにイチゴ。ブルーベリーにビルベリー……。こんなものかな? うーん。イチゴ以外イマイチ見分けが付かないんだけど。
ともかく先輩が来る前に言われたことをっと。あ、遅れるらしい。よくわからないけど先生とお話中。三年生って大変なんだよね。私も来年には進路とかで忙しくなるかなぁ?
先輩と同じ大学行きたいなぁ。
えっと果物を一気に鍋に投げ入れてその上からありえないほどの砂糖をかける。うわぁ、白。絶対カロリー高そう。
ただいまジャムの製作中。そこから?と私も思ったけどそこからとらしいです。強火だっけ?弱火だっけ? 中火かな? ……まァ、いいかなぁ? 調べようにもスマホ出すのもめんどいし。
「あ、そこは弱火だよ?」
どうやらぼんやりしてたみたい。いつのまにか隣には一人の女の子が立っていた。柔らかそうな頬。丸い顔立ち。かと言って太っているわけでも無い。幼く見えるのがいいのか悪いのか。中学生のような幼さを持つ人だった。
端的に言うとぽよぽよしてて可愛い。
「ふえ?」
カチカチ。白い手がノズルを回す。
「神永サンだね? 私、郡上 美都。三年生。ーー少し遅れるからって春乃に頼まれた」
………。
まさかの彼女さん出現。ま、ま、まァ。黙ってる義理もないし。そ、そうだよねぇ。彼氏と知らない女と二人きりにさせたくないよねえ。えへへ。先輩鈍そうだし。
神様…酷い。
私の賛辞返してほしいよ。
「そ、そうなんですね」
引きっつた笑顔で返しながら私は鍋の中をおたまで転がす。
どうしようか。間が持たない。でもって、私はいつ刺されるんだろうな?
そのために来たんだよねえ? ねぇ?
修羅場怖いよぉ!
きっと顔面蒼白に違いない。その横で美都先輩がクスクスと笑っている。
「別に牽制しに来たわけでも、見定めに来たわけでもないけど? 刺しなんてしないし、そんな怯えなくても」
「え? ちがうんですか?」
なら、何故来たし。をやっとの事で飲み込んだ。
というか、何故私の心うちを読めたんですか?エスパーです?伊藤さんですか?
「だって、私はーー」
その時、カラカラと家庭室の扉が開く。忘れてたけどここ、家庭室。先生が居ないと使っちゃいけないんだけどね、本当は。でも、先生の代わりに先輩が、管理を任されてるんだ。
「美都!」
先輩は美都先輩を見ると。慌てた様子で入ってくる。
なんとなく浮気現場を見られた夫のようだけど、私何もしてないよ?こ、告白だってーーしたかった……。
残酷だなぁ。
少し落ち込んだけど、ここは仕方ないよね。ちくちく胸が傷むなあ。鼻のあたりがツンとするけどここは我慢だ。
頑張れ私。
ニコリと微笑んで顔を上げる。そうしながら慌てて荷物をまとめ、美都先輩におたまを押し付けた。
「先輩、言ってくださいよ、彼女さんくるって、そしたら邪魔しなかったのに」
「え?」
頑張れ私。もう少し。
「またまた。じゃ、私行きますんで。あとで、レシピ下さいね?」
早く、はやく。ーー逃げないと。私はくるりと踵を返すと足早に二人を置いて家庭室を後にする。後ろから慌てて『神永!』って言う声が聞こえてけたけれど無視だ無視。
潰れそうな心を見せたくないもん。それに謝られたら惨めだし。
私は走って逃げていた。
******
甘いものが。食べたいーー。
そんなことを言っても甘さがわからないので無理だけど。悲しい。
今日は学校を休んだ。頭が痛い。お腹が痛い。グラグラする。適当な嘘をついてみた。毎日チェックるスマホも手放して、私は簀巻のように布団に包まる。
何度も眠気に襲われては悶々とした感情ですぐに呼び起こされーーその状態を繰り返しながらもう、夕方ぐらいになった。
トントン。軽いノックに私はぼんやりした頭で見を起こす。
「結。友達が来てるから通したわ」
何故事後報告なんだよ。ママ。こう言う時は普通通さないでしょうに?
ちょ、ちょっとまってーー。目も腫れぼったいし、顔も絶対浮腫んでるーー。ち、よ。
私は慌ててベッドから滑り降りると何でもいいという感じでウエットテッシュを顔に押し付けたーー。
「神永?」
ぎゃぁあああ!!
ひょっこり出たのは先輩だ。ウエットテッシュを顔に押し付けたまま停止する私。そんな先輩は苦笑している。
開け放たれた扉の後ろでママが『頑張れ!』と意味の分からない応援をして戻っていった。
……ママ。面食いだから。
「昨日は悪かったと思って。謝ろうとしたら、休んでるし。で、住所聞いてさーー風邪って聞いてたど大丈夫か?」
微笑む先輩はやっぱりカッコイイな。それに優しいし。
好きだな。って改めて思う。けれど、それはいけないことだ。私は圧し殺して軽く笑ってみせた。
「は、はい。こんな所までありがとうございます。あ、座ってください」
「大丈夫だよ。立ってる。あ、これお見舞い。ーー俺が一人で作ったんだ。今度は大丈夫と思うんだけど、味はまた聞かせてくれると嬉しい」
そう言うと先輩は白い小さな箱を私に渡した。それを覗き込むとこないだと同じようなケーキが入っている。
美味しそうだけど。
「味」
私は呟いていた。
いい加減言わないといけないかもしれない。先輩のお菓子を食べられるのは私だけだって。
私には味覚がないってーー。
だって、このままでは先輩の為にならないしーー私が辛い。いや、先輩と話すことは嬉しいんだ。嬉しいけどっ。
苦しい。
これで私は嫌われるかもしれない。
「あのっーー!」
「あのさ」
いつもより真剣な先輩の顔。なんだか近くない?気のせいかな。
にしてもキラキラだなぁ。肌なんてすべすべで。羨ましい。
「美都は、違うから」
なにが?
いいかげん張り付いた笑顔が苦しいんだけど。言わなきゃいけないこともあるし。
眉間にシワが寄ってないか不安だよ。
「……先輩。なに、私に言い訳してどうするんです? とうかそんなこと言うと殺されますよぉ」
「じゃ、なくて。あの、美都はーー俺の」
嫁か?
嫁なのか?そんな宣言いらんですよ?
頬がかなり赤く染まってる先輩はぐうっと喉を鳴らして私の手を取った。
嫌な予感しかしない。けれど、私を守るためだ。
ーー言われる前に言わないと!
「神永!」
「わたし!」
私は先輩の声に被せるように叫んでいた。ゆるゆると私は先輩を見つめる。そしてにへらつと崩れたような笑みを浮かべた。
そうしないと泣きそうだった。
「実は味覚ないんですよ。ーーゴメンナサイ。だから先輩のお菓子本当は味がわかりませんでした。美味しいと言ってゴメンナサイ。先輩の為にならないのにーーゴメンナサイ」
「どうして?」
それは、先輩とお話したかったから。と言えるはずもない。好きだからって言えるはずもない。
そんなことを言ったら、先輩困るだけだし。
いや、私が傷付きたくなかった。
「先輩嬉しそうでしたから言い出せなくてーー」
これはホント。嬉しそうな先輩を見ていると私も言い出せなかった。
それももう終わり。
家庭部辞めようかな?
「神永」
「ゴメンナサイ」
と言うと口元にケーキが押しこまれていた。相変わらずの砂だけどねぜこんなことをするのか分からない。うーん。傷ついたのかな?
「ファムぱい?」
「知ってたよ、だってみんな逃げるし、あんな物食べさせてって、副部長におこられたからね」
私にケーキを押し込んだ為に指についたクリームを舐めながら少し照れたように笑う。
何だろう?カッコイイというかーー色っぽいというか。見惚れる。襲っーーダメ、それは。うん。
……
じゃ、なくてぇ!!
「味しない?」
伺うように覗き込む顔は破壊力抜群だーーって、ほんと近いから!私は声も出せずカクカク首を動かした。
殆どパニックだ。
先輩ってこんなだっけ?耳に触れるか触れないか。唇が近づく。
な、何なんでしょう。この状況!!
夢だ。これは私という変態が見せている夢なんだあ!!目を白黒させながら私は逃れようと見をよじらせた。
が、なぜ固定されてるの!私の身体っ!
「せ、センパイ? あの?」
「美都は俺の妹だよ?」
芋ーーいやちがうな。妹?でも苗字が……年だって同じだし。先輩はその疑問受け取ったのかくすくす笑う。
「ふふっ。俺の両親は離婚したんだ。双子だからーー年も同じなんだよ」
だ、騙そうとしてるのだろうか。なぜ?意味がわからない。
私をだまして喜ぶ先輩ではないだろうしーー。でも、混乱した頭で私は先輩を見つめた。
「味を見てもらって。神永に食べてもらいたくて」
「私は味がーー」
知ってるならなおさら味なんて必要ないのでは?
「其れでもまともなものを、俺の全力を食べてもらいたくて。……神永」
先輩は口元を結んで私を真摯に見つめた。目を逸らすことなんて許さない。そう言うように。
緊張で喉が渇く。私は喉につばを押し込んだ。
「俺は神永が好きだ。ずっと。たぶん。お前が入部してきた時から。あの、ーー付き合ってもらえないか?」
「……」
全てが静止したような時の中、私の頬に涙がだけが伝って落ちる。歓喜より先に来るのは凄まじいほどの切なさ。
苦しくて嬉しくてーー。もう死んでもいいと思えるほどに。
刹那ーー先輩は真っ赤になって私から離れた。ようやく、自分が何をしているのか気づいたように。
耳まで赤い。それはまるで小さな子供のようです可愛い。
「って、悪い。な、泣かすつもりじゃ! ただーー」
『なにしてんだよお、俺っ!!』呟きが呟きになっていないけれどそれはーー。
「か、帰る! へーー返事は後でいいから。それじゃぁ!」
踵を返す先輩の裾を私は思わず握っていた。言わないと。言わないといけない気がする。いま、ここで。
「私はーー先輩が、好きです」
上ずる声。うるさいほど心臓が鳴っている。どれほど言えたか分からない。きちんと声になっていただろうか。
笑えているだろうか。
先輩は弾ける様に私を抱き竦めた。ドクンドクン。心臓が鳴っている。もはやどちらのものか分からなかった。
「いつか俺の菓子で美味しいと言わせてみせるから」
大好きだとそういう代わりに唇を重ねていた。不器用で重ねるだけのものだけれどーー。
それはとても甘かった。
初めて甘いと感じていた。