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正式契約の結果魔物にさっそく絡まれました

息が切れる。動悸が激しい。

運動不足というわけでもないが、特別鍛えているわけでもない脚は奇跡的に上手く回ってくれるがそれでも後ろから迫る圧迫感が消えることがない。

「どうしてこうなった」

「それは私も知りたいところだ」

自分の服から声が聞こえてくるというのもなかなかに奇妙な感覚だ。

聞こえてくる声の主は異世界召喚の精霊の声だが、例の怪しいローブ姿はどこにもない。

ただ、袖のあたりにある奇妙な模様が声に合わせて複雑に動いていた。

「勇者としての初仕事が討伐するべき魔物から逃げることだというのは中々に皮肉な話だ」

「なるほど、いずれはアレを討伐するのか……」

ちらりと意識を後ろに向ける。

黒を基調に虹のように七色に光る翼は被膜こそ光を透過するほど薄いが高い魔力で守られている。

皮膚はどちらかというと硬質で昆虫の外骨格を思わせた。

シャープな輪郭は猛々しい威圧感を敵対者に与えるだろう。

「竜種の中位にあたる黒甲竜だな、あれは。今の私たちでは絶対に勝てん。

 君の世界風に言うなら私たちは序盤のダンジョンで終盤手前の敵と遭遇したようなものだ」

「なるほど、分かりやすい」

そんな相手に今まで逃げ切れているというのも1つの奇跡だろう。

たまたま、相手が動きにくい密林で。

たまたま、こちらの体が周りより極端に小さくて。

運よく、勇者としての最低限の補正が体に効いているのだろう。

しかし、勇者としての契約をしたからこそこんな目に合っているので差し引きゼロだろう、多分。

どうしてこんな事態になってしまっているのか。

それは、今よりほんの少しばかり前。

予定されていたらしい召喚地点から大幅にずれてこの大密林に召喚されてしまったところに話は遡る。


召喚の光を通り抜けると、見渡す限りのジャングルだった。

雪国も真っ青の展開である。方向性的にも。

ファンタジーである。いや、実際にファンタジーなんだが。

「なるほど、これは信じざるをえないか」

「むしろあそこまでノリノリだったのにまだ信じていなかったことが私には信じられない」

人間というのは疑い深いというがこれほどか、と。

自分の服からどこかで聞いた声がすることに気が付いて俺は視線を落とした。


顔がプリントされていた。


「い、痛い。痛いぞ!どうして私を引き延ばす」

「痛覚があるのか、不便すぎるだろうその場所」

思わず漏れる言葉は決して言いたいことではない。

だが、分かってほしい。

あのローブ男の胡散臭い顔面が自分の普段着のシャツにプリントされている絶望を。

絶望的に、趣味が悪い。

これはない。これは、あまりに、ひどい。

「せめて顔面プリントならカエルだろ」

「まったく訳が分からんぞ」

とにかく現実から全速力で逃げたかった。逃げたかったが現実から逃げられないのだ。

現実は大魔王だ。常に回り込んで逃げ道を塞いでくる。

「すまない、栂赤穂。予定の召喚地点からかなり離れてしまったようだ」

「いや、元々はどこに召喚されるはずだったのかは知らんがここは危険なのか」

「この魔力濃度と風景からここは我が国の試練の森と考えていい」

ちなみに召喚予定地は王城の召喚陣の上だ、と精霊は顔を強張らせた。

服の顔のプリントが表情豊かに……というわけでもないが動くさまは想像以上に気味の悪いものだった。

「このままここにいても危険だっていっても王城へゆくために森を抜けるしかないんじゃないか」

「そうだ。だから改めて本契約をここでしよう」

本来は王城の安全な場所で王に見守られつつ行う神聖な儀式らしいのだが、と精霊は服に妙な文様をぎっしりと埋め尽くすように伸ばしていった。

「なにをするんだ?」

「本契約。つまり私がお前のサポートを十全に行うための契約だ。

 今着ている服を媒体にな。さすがに今の君の能力ではここを突破できない」

服装の見た目はこちら風になってしまうがあしからず、と蠢きながら精霊は笑った。

「契約の仕方は簡単だ。私に名前を付けてくれるだけでいい」

君にとっての力をイメージしながら、私に名前を付けてくれ。

それができれば本契約だ、と服のすべてに文様が――よく見ると方陣にも見えなくはない――刻まれた。

思うのは力だ。

この世界では知らないが自分の世界で強いといえばなんだろうか。

武器をイメージすることはできなかった。

武器を振り回す自分を想像しようとして上手くいかなかったのはやはり、その手の修行というやつを受けたことがないからだろう。

動物も思い浮かべたが、自分にとっての力のイメージとは重ならない。

自分にとって一番にしっくりくるものといえば……


「今こそ契約しよう勇者よ。私の名前を呼んでくれ」

「今こそ契約しよう聖霊よ。今から君の名は――」


契約を交わした瞬間に世界が変わったような感覚を受けた。

風が舞い、光が満ちる。

それはどうやら俺だけの錯覚ではなかったようで。


――――ォォォオオオオ!!


どこからか、全身に響くような。

体が思わずすくんでしまうような。

そんな咆哮とともに魔物が飛び出してきたのだった。

服にプリント…古き良きど根性カエル、ではなく聖なお兄さんのジョニデ似な方の人ネタ。感情表現豊か。

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