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そして彼は異世界へいく

「だが断る」

 なにをもってして「だが」なのかは気にしてはいけない。

 大事なことは断ったということである。

「そうか、それは残念だ」

 いかにも残念そうにローブ男はため息をついた。

「強制的に、というわけではないんだな」

「当たり前だ。その人の一生に関わることだよ。事前説明もきちんと行うし勇者になったらしてもらうことや、異世界に来てもらった時のメリット・デメリット、全部包み隠さず話してから納得づくで来てもらうさ。誘拐なんてとんでもない」

「どこかの誰かに聴かせてやりたいな」

 具体的には某営業系感情のないマスコット宇宙人などに。

「そもそもどうして断るんだい?私としては理由が知りたい」

「怪しい人の誘いに簡単に乗ってはいけませんと、小さなころから躾けられてるんでね」

 なにより、その事前説明とやらを聞いていない。さらに言えば今更だがお互いに自己紹介すらしていないのだ。

 ああ、なるほどとローブ男は頷いた。

「確かに自己紹介もまだだったな。これは失敬」

「家宅侵入してる時点で君の礼儀とやらは人として最底辺だがな」

 まあ、そこは気にするなと言われ、ああ気にしないと返すこの家主も相当に性格がおかしいのだが、今更であろう。

「私は言ってみたら、勇者召喚用の精霊だ。異世界から素養のある人間にこうして契約を持ちかけて、承認してもらえば元の世界では君のサポートをする。……万全のサポートは約束はできないが」

 ちなみに、名前は契約者につけてもらうことが通例だな、と自称精霊のローブ男はずいっと体を乗り出した。

「できれば、君に名付け親になって欲しいところだ」

「今は保留ということで。俺の名前は栂・赤穂という。つが あこうだ。就活浪人という名のニートをしている」

「ニート……それはどんな職業なんだい?」

「自宅警備員だ」

 なるほど、この世界の治安はあまりよくないのかと妙な誤解を精霊がしているのだが否定してくれるものはいなかった。

 ちなみにここら一帯は他にそうそうないだろう程治安がいい地域である。財布の落し物があれば一円も抜かれることなく交番に届けられる程度には。

「とにかく、私は勇者になれる素養がある人間のいる所に転移できる。君の自宅に不法侵入してしまったのはその転移の結果だ。不慮の事故、といっていい」

「なるほど」

「勇者になると様々なメリット、デメリットがある。聞くかね?」

「聞いたら勇者に強制的に」

「ならないと誓おう」

 なら、聞こうかなと赤穂はコーヒーを一口含んで姿勢を直した。

「勇者となった場合のデメリットからまず言うと基本的に元の世界には帰れないと思ってほしい。

 そして当然だが呼び出した国の利益となる行動をとって欲しい」

 つまり、この世界のしがらみを一切捨ててもらい、さらに行動制限がつくと思ってほしいということだろう。

「あと、場合によっては人を殺してしまう可能性もある。盗賊とかいるのでね」

「異世界的にありえそうだな」

 明らかに異世界に対する偏見だが、お互いの認識にずれがないので問題は流された。

「まあ、そのあたりは私がフォローするのだが」

 どうやって、というのは気になるがかなり自信があるようだった。

「次にメリットだが少なくとも召喚先での身分は保証される。具体的には王族の親衛隊の隊長クラスの身分が保証されるな」

「どれくらいかはよく分からないが、とにかくすごい権力なのは分かった」

「それに、魔法が使えるようになる。身体能力も多少は上がる……ときもある」

「なんだそれは」

「戦える最低限の体が初めからあれば上がらないということだ」

 最低限の補正と身分の保証がメリットだな、とまるでカンペを読むように感情のこもらない声でメリットを語る精霊。

 なにせ、精霊である。しかも勇者召喚のための。

 人間にとってのメリットというのがあまりよく分からないのだった。

「最後に勇者の仕事だが……」

と、ここで格好をつけるようにマグカップのコーヒーを飲み干し――その後のしかめっ面で台無しになったが――肘をテーブルにつけて組んだ両手で口元を隠すポーズをとった。

 どこの世界でもゲ○ドーポーズというのは格好をつけるのにうってつけということなのだろう。

「とある化け物を、駆逐してほしい」

 なるほど、ありきたりな魔王を倒してほしい系か、と赤穂は目を細めた。

 ちなみに赤穂、好きなゲームはドラクエである。

「さて、思いつく限りのメリット、デメリットは伝えた。向こうで不都合があれば私にできる範囲で最大限にサポートはする」

 契約してもらえるだろうか、と精霊は例のポーズのままで訪ねてくる。

 正念場というやつなのだろう、精霊からは妙な気迫が伝わってきた。背景からゴゴゴゴゴゴ……とでも効果音が見えるようだ。

「いいだろう」

 同じくマグカップに残っていたコーヒーを飲み干し、勢いよくテーブルに置く。

「その契約、乗った」

 人生を賭けた大博打、乗らねば損だと赤穂はにやりと笑う。

「人生をチップに大博打。分の悪い賭けは嫌いじゃない」

 ちなみにこの栂 赤穂という男、この性格が祟って今まで就職できていなかったのだが本人は気づいていない。

 今回こそは負けてしまえばいろんな意味で破滅なのだが、本人は分かっているのかいないのか。

「契約だ。俺が世界を救ってやる」

 ローブ姿の精霊は満足そうに頷くとゆっくりと片手をあげて

「では、行くぞ」

「今からなのか!?」

「物事は拙速を貴ぶと我が国にあってな」

 いざ、行かんと指を鳴らした瞬間に赤穂の視界は真っ白に染まった。


 これを最後に地球から栂赤穂という人間は消失してしまった。

 しばらく後に捜索願がだされてしまったり現代の神隠しと騒がれたりするのだが、それはまた別のお話である。

今回の版権ネタ

だが断る……由緒正しき断りの常套句。!はいらない。

某営業系感情のないマスコット……宇宙人……人?

ゲ○ドーポーズ……新世紀な司令のお得意ポーズ。筆者もよくやる。

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