プロローグ~未だ異世界にはいけず~
版権ネタはきちんと記載するべきとの指摘を受けたのでそれらしいものは後書きにでも書くことにしました。
そいつは誰がどう見ても怪しい男だった。
まず、この現代日本では……というかおそらく三次元では滅多にお目にかかれない黒いローブというやつで体をすっぽりと覆っている。ゆったりとしたローブは体のラインを靄のように隠していてどんな体つきをしているのか判別がつかない。
ローブから見える顔はこちらが見えているのかわからないほど細い目をさらに細めている。本人は誠実さでも示そうというのか笑っているが、誰が見たとしても爽やかそうなど感じないだろう。ただひたすらに胡散臭い。
なにより問題なのは、家主である自分の断りなしに無断でこの部屋にいることだった。
「帰れ」
「辛辣だね?!」
「どうか帰っていただけませんか不審者どの」
「返す言葉もないが、私にも事情があるので弁解の機会がほしいね」
ところで来客にお茶も出さないのかいと実にふてぶてしくローブ男は寛ぎだした。
お前は客は客でも招かれざる客というやつだろうと思いながらも自分も確かに喉が渇いていたのでコーヒーの豆をミルに突っ込んで水を注ぎ、フィルターをセットしてスイッチを入れる。
豆を挽く独特の機械音とコーヒーの香りが漂う高級マンションの一室で、一種の沈黙が生まれた。
たっぷり10分は無言のままローブ男と会話するでも追い出すでもなくコーヒーが出来ていく様を見つめていると、機械が動きを止めて作り終えたことをPiiiと鳴って知らせてきた。
マグカップを二つ用意して均等にそそぐとローブ男が寛いでいるリビングへと戻る。
まさか本当に用意するとは、という微かな驚愕を覚えたローブ男はマグカップを受け取ると礼を言い、くんっと鼻をひくつかせた。
「これはなんという飲み物なんだい?」
「コーヒーだが……知らないのか?」
そんなはずはないだろうと呆れると、この世界には今来たばかりだから疎くてね、とローブ男は平然と返した。
「この世界にはちょっとした用事で来てね……苦いな」
「その用事ってのは僕の家に不法侵入することじゃないだろうね。あと、それはその苦みを楽しむ飲料だ」
「実は似たようなものだといっておこうかな。あと、そこから見えるあれは砂糖とミルクだろう?砂糖とミルクは世界共通なのだな。是非くれ」
「へぇ、不法侵入が用事とは警察呼ばれても文句は言えないよね。そして何度も言うがコーヒーは苦みと酸味を味わう飲料だ」
そんなものかと納得して再びコーヒーを口にしては顔をしかめるローブ男。どうやら飲まないという選択肢はないようだった。
「それで、この世界……などと意味深に伏線みたいに語ったところ悪いが、まさかとは思うけれども君、異世界から来ましたなんて言わないだろうね」
「君の期待に背くようで悪いが、私はこことは違う世界から来ているよ」
信じてもらわなくてもいいが、とニヒルに顔を歪ませたローブ男は、しかしやっぱりコーヒーを一口飲んで渋い顔をした。
「嗜好品とは基本的に甘味であるという私に植え付けられた常識が一瞬で崩れ去る飲料だな、このコーヒーとやらは」
「異世界の味、ということにしておいてくれ」
実際にはこの世界の嗜好品も甘味が多いことは注釈されることはなかった。
「なるほど、この世界の嗜好品は苦く酸っぱい。今後の参考にしよう」
「いや、コーヒーが苦みと酸味を楽しむものであるだけだ」
「さて、それで私の用事というのはだね……」
「いきなり話をぶった切るな」
まあ私にとってはこちらが本題なのでな、とやはり一切悪びれることもなくローブ男は続けた。
「端的にいうと、勇者を探している」
「…………勇者?」
それは、あれだろうか。
古き良きRPGなどにある魔王を倒す主人公のあれだろうか。
「私の世界は今、非常に困った状況にあってね。で、本来ならば我々の世界のことだ。我々の力で何とかするのが道理というものなのだが如何せん戦力が足りないのだよ。
それでだ。我が国の王が伝説にある勇者召喚の魔法を試してみようと藁にもすがる思いで実行。結果として私は君の前に現れたということだ」
「それは、つまり、あれか?」
「ああ、つまりだ」
――私と契約して勇者になってみないかい?
今回の版権ネタ
古き良きRPG……ドラ○ンクエストである。勇者だし。
私と契約して(ry ……本来は魔法少女を造るための営業文句