表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

第四話 大地に降る祝福、怒りの矛先

――静かだった。


 ヴァルト城。

 夜の空気の中、アレクシス・ヴァルト公爵は黙然と書状を見つめていた。


 蝋燭の炎が揺れるたび、金の瞳が鋭く光る。

 彼の手元には、王都から取り寄せた出生記録。

 記された日付と名、証言と証拠――


 すべてが、ひとつの事実を指していた。


「やはり、リアナこそが、正妃の娘。…それを、ここまで虐げるとは…」

 


 アレクシスは椅子から立ち上がり、机の上の地図に視線を落とす。

 王都の印に、静かに黒の印章を置いた。


「準備を始めろ。王都に使者を送る。――我が妻を害した者たちへの“警告”だ」


 部下たちは無言で頷く。

 彼の怒りを感じ取っていた。

 公爵の剣が抜かれるとき、それは――


 “裁き”を意味する。


 


 *


 


 一方そのころ、リアナは寝台の上でそっと窓の外を見つめていた。

 空には満天の星。


 この場所に来てから、自分は毎日“人間として”丁重に扱われている。

 誰も怒鳴らず、叩かず、食事も温かく、本当に美味しい。


 (……ここに来る前の私は……)


 まるで、別世界のようだった。


 


 胸に手を当てる。

 そこには、淡く光を放つ《聖痕》。光は、ヴァルトの地に来てから輝いたもの。


「私に……こんなものが、あるなんて」


 誰にも見つけられなかった。

 いや、誰にも見ようとされなかった。

 だからずっと、リアナはただ泥にまみれていた。


 でも今は――


 「リアナ」


 ノックと共に現れたのは、アレクシスだった。

 彼はリアナの前で、真っ直ぐに彼女を見つめる。


 


「君に、話がある」


「……はい」


「君が、王都で虐げられていたことは、…悪いが調べさせてもらった」


「その理由も、真実も、すべて判明した。

君は……君が受けるはずだった恵みの全てを、“彼女達”に奪われたんだ」


 


 リアナの目が揺れる。

 でも、アレクシスは静かに続けた。


「だから、取り戻す。君の名も、立場も、尊厳も。

――そして、君を傷つけた者には、然るべき“報い”を」


 


 その言葉に、リアナの胸が痛くなる。

 アレクシスは自分のために怒っている。

 それが、たまらなく……うれしくて、こわかった。


「……私に……、それほどの価値は、あるのでしょうか……?」


「ある」


 一言。

 その声は、まるで誓いのように力強く。


「君が信じられないなら、俺が信じる。

君が誰より尊く、愛されるべき存在だということを――」


 


 リアナは目を伏せ、震える手で胸元の聖痕をそっと押さえた。

 もう、戻らない。あのころの自分には。


 “この人の隣にいる未来”だけを、見つめようと決めた。


 


 *


 


 そして王都。


 正妃レジーナの手元に、一通の封書が届いた。

 封蝋には黒い狼――ヴァルト公爵の紋章。


 内容は、簡潔だった。


「貴家の行った“重大な取り違え”の証拠が確認された」

「貴家の責任者に、王都での“公式な対面”を求める」

「公爵家として、“真の正妃の娘”を保護している」


 


 その瞬間――

 正妃レジーナの手から書状が落ちた。


「まさか……そんな……」


 フィオナは、母の顔が青ざめていくのを見て、背筋がぞくりとした。


 


 次第に、王宮に冷たい風が吹き始めていた。

 それは、すべての“嘘”を暴き出す風。


 そして――


 本当の祝福が、王国に背を向ける、第一歩だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ