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第三話 聖痕と、偽りの姫

 ――それは、柔らかな淡い光だった。


 リアナの胸元に浮かぶそのしるし。

 それは、ただの痣などではない。魔物を退け、土地を祝福する者にのみ与えられる、《聖痕》。

 


「……すぐに、彼女のもとへ案内しろ」


 低く押し殺したような声。

 だが、その眼差しには静かな焦燥がにじんでいた。


 アレクシスはリアナの部屋の扉を開けると、すぐさま彼女のもとへ膝を突いた。


「着替え中に…すまない」


 着替えの途中で侍女が突然部屋を出て行ったため、輝く聖痕がはっきり見えていた。


リアナは驚き、戸惑ったように首を振る。


「ご、ごめんなさい……あの、私……何か、失礼なことを……」


「違う」


 その一言に、リアナの肩がびくりと揺れた。


「それは……祝福の《聖痕》だ。正妃の一族の血を継ぎし者、その中でも選ばれた者にのみ与えられる印だ」


 リアナは呆然とする。


「……でも、私は……お義母様の子ではなくて……お義母さまを傷つけた、……卑しい、愛人の子どもで…」


「本当に、そうだと……思っているのか?」


 その声は、どこまでも静かだった。

 けれど、その奥に燃える怒りの火が、はっきりと感じられた。


「――誰が、君をそんなふうに扱ってきた?」


 アレクシスはリアナの手を取り、傷だらけの指先をそっと撫でた。

 その優しさに、リアナの目に涙が滲む。


「君に宿った聖痕は、偶然なんかじゃない。

それは、この国の……いや、世界の祝福の証だ」


 アレクシスは立ち上がり、部下に厳しく命じた。


「すぐに記録を洗え。王宮での出生記録、侍女の名、すべてだ。

――彼女の過去を覆い隠し、彼女を害した者たちを、必ず見つけ出す」


 リアナは、目の前の男が本気で自分のために怒ってくれていると、はじめて知った。


(どうして……この人は、こんな私に……)


 その理由が、わからなかった。

 でも、ひとつだけ確かなことがあった。


 この人は、私を「人間」として見てくれている。



 *


 


 一方、王宮――


 正妃・レジーナは眉間に皺を寄せていた。


「……どういうことなの。最近、祝福の加護が弱まっている?」


「はっ。畑の作物の育ちが悪く、神殿の聖職者たちも“力の流れに乱れがある”と……」


「そんなはずはないわ。わたくしのかわいいフィオナには“あの印”があるのですもの」


 フィオナはそっと胸元を撫でる。

 そこには、王宮に伝わる聖なる紋様を…無理やり模して刻ませた“印”があった。


 ――ただの偽物。飾りのような彫り物。


 聖痕のある聖女は、一族の中で常に出るわけではない。


 聖痕がなくとも正妃の一族がその地に存在するだけでも、魔物を遠ざけ、土地を豊かにすると言われていた。


 だが、特に力の証として聖痕は、権威づけには十分でーー今までは周囲を欺けていた。

 リアナが聖痕を表すまでの十数年間、真実は眠っていたのだ。


 だが今――

 偽りの姫の運は、確実に傾き始めていた。



(まさか……あの女が、本物の……?)


 フィオナの顔に、冷たい汗がにじむ。



 次第に、誰もが“何かがおかしい”と感じ始めていた。


 


 ――本物の祝福を持っていたのは、誰だったのか。


 ――真に、神に選ばれた者は、誰だったのか。


 


 真実は、すでに辺境の地、ヴァルトに現れていた。

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