94話 狼のじいじ
結局、モミジちゃんと金狼おじいちゃんペアはチェインを達成できずに無駄に疲れて終わった。
言わんこっちゃない。
「あれあれー、どうしたのかなぁ? さっきまではあんなに威張り散らしてたのに。ねぇどうしたの? モミジさーん?」
「大変、リノっちが拗らせてる!
ミルちゃんは気が気じゃないと言わんばかりだ。
それに比べてお姉ちゃんは「活き活きしてきたね」と他人事だ。
確かにこんなリノちゃんは初めて見る。
「リノちゃん、それまでにしよう。私たちのバトルはちょっとモミジちゃん達には高尚すぎたんだよ。他の手を考えよう?」
これ以上は時間の無駄だと提案したら、リノちゃんも溜飲を下げてくれた。
「これ、助け舟に見せかけた煽りじゃなくて?」
「変わりねぇぜ」
モミジちゃんは冷や汗を垂らす。
まさかここまでストレートな煽りを喰らうとは思ってなかったみたいな顔をする。
油断しちゃったね。
ここではこれが普通だよ!
「気のせいだよ」
「残念だったね、うちのハヤテはこれが素だよ」
お姉ちゃんは自慢するかのように紹介した。
やめてよ、そんな不名誉な自慢。
矛先がこっち向くでしょ!
ああ、こんな時に【★フェイク】があればなー。
なすりつけできるんだけど。
「ではリーダー、このお荷物さんを交えてチェインの練習をしましょうか」
「リノっち、ここぞとばかりにあたしに責任負わすのやめて!」
「ふふふ、なんのことかなー?」
めっちゃいい顔してる。
そんなにモミジちゃんのこと嫌いなんだ?
まぁ、私も? 好きか嫌いかでいえば苦手な方だけど。
「これは手痛いですわね」
「まさか強すぎることがここでは痛手になるとはな」
「ここではいかに効率よく倒して稼ぐかが肝だからね!」
「場所を変えませんこと?」
「そうだね。ここで稼ぐのは難しいもんねー?」
リノちゃんは終始笑顔だ。
こんな姿初めて見る。
普段から真さん舐めてきたんだろうなーって態度にここまで出るものなんだ?
あんまりストレス溜めすぎると美容にもよくないしね。
ファストリア近郊から少し外れてセカンドルナ方面。
ここでは緑色のスワンプマンが現れた。
「こいつはちょっと硬いね」
「当たり前のように色違いが出ますのね。ジョン?」
「見りゃわかんだろ。初見だよ。こんな気持ち悪い色のやつ、出てたら騒ぎになってる」
「ですわよね?」
なお、四発で倒せるので雑魚であることは変わらない。
勢いよく飛び出した金狼おじいちゃんが瞬殺した後にこっちを見てきた。
そんな顔で見たって復活しないからね?
私のストレージにはスキルパーツがぽこじゃが溜まっていく。
いつもなら、ここでスキルパーツをトレードする流れだけど……あいにくと今の私はトレード機能を使えない。
どうしよう、困ったなー。
本当は幻想武器を渡したいんだけどなー。
わざとらしいフリをして見せたら、リノちゃんから「渡すなよ、絶対渡すなよ?」みたいな圧が飛んで来た。
今日は流れで一緒に遊ぶことになったが、今後もお付き合いしたいわけじゃないとその目が訴えている。
これは筋金入りなやつだね。
フレンドになったら逃げられないのにさ。
そんなわけでチェインを結んで素材を確保。
「魂のかけら? なんじゃこりゃ」
「初めて見るものなのです?」
「データベースを検証しても出てこねぇぞ? 本当にこれ俺の知ってるゲームか?」
「モミっちの召喚AIは賢いんだねー? データベースの検証もできちゃうんだー?」
お姉ちゃんが察していながらも尋ねていく。
モミジちゃんはここまであからさまに擬態を解いてるのに気づかないのかと驚いて見せたが、そのまま演技を続けさせた。
まさか身内の、それも曽祖父を子供の遊びに突き合わせてるなんて知られたら目も当てられない。
何せここにいる全員はお嬢様学校の生徒なんだ。
見る影もなく無惨な姿がそこにあった。
やれやれ、私くらいだよ?
発言も行動もお嬢様なのは。
「|◉〻◉)ノ」
「はいはい。レイちゃん無言で袖引っ張らないの」
お前も仲間だろって言われてる気がした。
君に言われたくないんだよねぇ。
「セカンドルナって言えばあそこも寄ってく?」
「もちろん」
「面白い農園があるんだよねー?」
「農園? セカンドルナにか? ああ、領主の土地とか?」
昔の記憶を探りながら必死に思い出そうとする金狼おじいちゃん。
けど渡す達の足取りは、何もない空間に向かった。
そこで幻想装備を捧げる。
「あら、いらっしゃい。見ない顔も一緒なのね。でもいいわ、ここに来れるってことは耐性持ちということでしょうし」
「こんにちは、イースさん。今日も農園のお手伝いに来ました」
<アイディアロール>
ハヤテ :確定的成功
トキ :失敗
ミルモ :失敗
リノ :失敗
モミジ :成功
ジョン :成功
その時農園の一部が盛り上がり、覗き込むような気配を感じた。
目を配らせるも、そこにはのどかな畑が広がるばかりである。
しかしこちらを注意深く覗き込み視線が気になってどうしようもない。
<正気度ロール:成功0/失敗10喪失>
ハヤテ :確定的成功
モミジ :失敗
金狼 :成功
喪失 100→90
<モミジは幻覚症状を引き起こした>
「あっ、何! 今あちらの野菜がこっちを見て! 目があって! あ、ああああ!」
「モミジちゃん、気をしっかり持って! ジュースを飲んで落ち着いて、ね?」
「ありがとうハヤテさん。すごく落ち着い……」
受け取ったコップの中には粒のようなものがあり、口の中で弾けるたびに甘い蜜が広がった。
その正体を確かめようとして意識をコップに向ければ、それが先ほど目があった野菜の目玉のようなものだと気がついてしまう。
「あああああああああああああああああああ!!」
<正気度ロール:成功0/失敗5>
モミジ :失敗
喪失 90→85
<モミジは意識を失った>
「きゅぅ」
「あっ」
「お嬢!」
「ホラー耐性ありそうだけど、案外なかったね」
「普通ある方がおかしいというか。あたしたちもちょっとキモいなって思ってるし」
「でも気絶するほどかなー?」
「耐性があってよかったね」
「|◉〻◉)僕のおかげですね」
「そういえばレイちゃんが今の姿になったのもここだったよね?」
「じゃあ、もうちょっとパワーアップさせちゃおうか?」
「賛成! ブログの執筆、私担当だから。派手なの頼むよ?」
そう言えば今回はリノちゃんが担当だ。
私はしばらくブログも執筆できないし、お姉ちゃんに頼むしかないな。
どうしよ。
それはさておき、金狼おじいちゃんに話を通してこれからすることに協力をしてもらう。
「で、俺にティンダロスを倒してくれってか?」
「ティンダロスではないね。シャドウのハウンドタイプだよ。真っ黒の」
「一番面倒なやつじゃねーか。フラッシュ・バンの巻物持ってきてねーぞ?」
普通に【★光源操作】使えばいいじゃないのさ。
それとも使えない理由があるのかな?
「別にできないなら無理して戦ってくれなくていいですよ?」
リノちゃんは良かれと思って言ったのだろうが、それが金狼おじいちゃんの魂に火をつけてしまった。
あーあ、いいの?
モミジちゃんに内緒で勝手に正体教えて。
まぁ、今の世代的には誰? ってくらい昔の人だけど。
「騙してて悪いな。俺は金狼。ジョンとは世を偲ぶ仮の姿だ。本当は孫のモミジが心配でついてきちまったジジイなんだ」
「そうだったんだ」
「「な、なんだって~ーー!」」
納得するリノちゃんのすぐ横で、大袈裟に驚いてみせるお姉ちゃんとミルちゃん。
知ってたくせに、と言わざるを得ない。
そして畑に肥料をまいて開戦!
イースさんもバイオリンで参加してくれてるよ!
金狼おじいちゃんはそのポテンシャルでリノちゃんが苦戦したシャドウ・ハウンドを簡単に屠ってしまった。
私たちはバックミュージックで場を盛り上げたけど、それでも本当に一瞬で終わっちゃったよね。
時間にしておおよそ30秒。
当時は20分くらいかかったことを思えば瞬殺もいいところだ。初めて役に立った、は言い過ぎだけど。
やっぱり上級プレイヤーは戦闘でこそ役に立つよね!
「え、すごい。普通に見えなかった」
「今のは霊装を使ったのさ。うちの孫娘はスキルに固執しちまってな。こういう外付けのスキルをよしとしない曲がったところもある。祖父としちゃあ、もう少し融通聞かせてほしいもんだが、それも含めて可愛いのよ」
「開幕惚気ですか?」
「ジジイの特権だ。それと、うちの家族がそっちに迷惑かけてるらしいな。そういう真似はするなって躾けてはいたんだが、どうやら手違いがあったらしい。そっちはもうあのゲームに関わってないんだろ?」
「お父さんは担当を外されたって。でも、モミジちゃんは全然お話し聞いてくれなくて」
「あのバカ息子め。道を外しやがって。あとできつく説教しておいてやる。だから今日のところはうちの孫に対する気持ちを胸にしまってやってほしい。本当はもっとまっすぐな子なんだ。変に責任感が強くてな。俺の親父を思い出す」
「モミジちゃんは女の子ですよ?」
「それくらい堅物で頑固だって話だ。女の子でそれは辛いだろ? だから友達といっぱい遊んでほしいんだ。ジジイとしてはその姿さえ見られりゃ満足だな」
「そこはモミジちゃん次第かな?」
「だな」
金狼おじいちゃんは優しく微笑んだ。
それからモミジちゃんが気絶から復帰するまでの間。シャドウ・ハウンド型を何体も屠った。
その仲睦まじい姿を、みるちゃんがじっくりねっとり撮影していた。
きっとブログの記事には突然のNTR! モミジ発狂! と乗るに違いない。