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Atlantis World Re:Diverーバグから始めるVRMMOー  作者: 双葉鳴
『自称ライバル』<12日目・朝>

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91話 罵りフレンズ

「ハヤちゃん、ハヤちゃん! 私、食べたいものがあるんだ。今日はそれを作って欲しいな」


「なんだかリノちゃん、今日はやけにグイグイくるね」


「そんなことないよ?」



 腕を引っ張られながら、ファストリアを進む。

 あんまり自分の意見を前に出さないいうイメージがあった。

 食後だけやたら好意的な彼女は、今日やけに積極的に私を誘い出す。


 後ろをどこか澄まし顔でついてくる3人組。

 これが今日一緒に行動するメンバーというだけで気が重くなるのは私だけだろうか?


 ミルちゃんのグータラさはすっかりと形を顰め、お姉ちゃんはミルちゃんとモミジちゃんを見張ってる。

 ただならぬ関係なのかもしれない。

 知らないけど。


 そしてリノちゃんはまるでモミジちゃんから私を遠ざけたがっているかのようだ。

 それほど相容れない関係なのか。

 親の会社が競い合ってるからって、子供がそれに従わなくってもいい気もするんだけど。



「おばちゃん、くーださーいな」


「はい、いらっしゃい」


「リノさん。あなたは淑女としてのマナーはありませんの?」



 日常のやり取り。

 相手がNPCとはいえ、そういうやり取りを重んじるリノちゃんに対し、モミジちゃんは礼儀作法のなってなさを指摘する。

 確かにお嬢様学校の生徒にしては、少し心配になってしまう所ではあるが。



「ゲームの中までそういうのを求めないで! 私は遊びに来てるの! モミジのおかげで今日は最悪の気分なんだから、取り返さないと」


「あら、奇遇ですわね。わたくしもリノさんと出会って計画がご破産になって今とても気分が悪いんですの」


「じゃあ帰って寝たら? だったらお互い気分悪くならなくて済むし」


「そういうわけにもまいりませんの。約束事は遂行しませんと。それが天上院家の一員の振る舞いでしてよ」


「添乗員の間違いじゃない? 説明したがりの自称博識さん? こっちはそういうの求めずにインスピレーションでやってるから!」


「あら、言いますわね」



 うん、上手い例えもあったものだ。

 確かにジキンさんは形から入る。

 相手を枠にはめて、私を一方的に悪者にしてきた。

 懐かしいよね。

 また一緒にやりたいかって言われたらNGと言わせていただくが。



「|ー〻ー)なんだか賑やかですね」



 そこへ、レイちゃん登場。

 よかった、私に紐付けされてて。

 今回は周りに聖典陣営がいないからか出てきてくれた。



「あ、レイちゃん!」


「|◉〻◉)ノこんにちは」



 リノちゃんは仲間を見つけて喜んでいる。

 リアルに関係ない、数少ない仲間だからね。

 多分私もそのうちの一人だと思う。



「出ましたね、怪人サハギン」


「|◎〻◎)え、誰この人。初対面でスゴイシツレイ」



 だがモミジちゃんは「その顔は見飽きましたわ」と言わんばかりに鉄扇を突きつけた。臨戦体制である。



「待って、サハギンとはなんのこと? ちょっと鯛の柄のシャツ着てる変わった子ではあるけど、そんなに喧嘩腰にならなくても……」



 そう、今のレイちゃんは脱皮モード。

 着ぐるみモードではないのにサハギンであることを見抜く時点で、やっぱりジキンさんなのかな?

 ほぼ言いがかりに近いので、距離をとって私の背中に隠れてしまった。



「お隠しにならなくてもよろしいですわ。わたくし、AWOには少し詳しいんですの。ですわよね、ジョン」


「お嬢様。あまりお友達に失礼な真似をされては」


「よろしいのよジョン。一人、お友達じゃない方がいますの」


「それって私のこと?」



 リノちゃんが敵愾心をむき出しにして刀に手を添えた。

 あーもー無茶苦茶だよ。


 あとジョンて誰? ぼっと突っ立ってないで喧嘩を止めてよ。

 なんかどこかで見たことあるような顔立ちだけど。

 誰だっけ?


 あと勝手に仲間認定しないでほしい。

 ほら、リノちゃんが「ハヤちゃんは向こうにつかないよね?」みたいな顔でこっち見てくるし。



「お嬢様、旦那様からは例の家に無理な干渉はされないようにもうされていたのではないですか?」


「そうね。でも指を咥えて見ていた結果、どうなったかしら?」


「顧客を取られたままですね」


「そうよ、せっかく面白いゲームなのに、少し難しい説明が多いだけで遊ばないのは勿体無いの。だからこうしてご学友を誘って定住していただくべく勧誘をしていますの」


「嫌がっているように見えますが?」


「ジョン、あれは口では嫌と言っても、体の方は興味がある、という状態ですわ」


「なるほど。学びました」



 なんかこの人はAIのような対応をするなぁ。

 


「モミジさん、つかぬことをお聞きするんだけど」


「はい、なんでしょうかハヤテさん」


「そちらの方は? プレイヤー、にしては随分と傍観者を決め込む上にあなたの味方なイメージがするんだけど」


「お祖父様ですわ! 今は時間がなくて遊んでいられないとおっしゃるので、ログアウト時は執事としてお呼びしていますの」



 それ、怒られない?

 それとも本人がログイン時にログは見れないからバレなきゃ大丈夫の精神なんだろうか?

 どちらにせよ、心臓がタングステンでできてることは確かである。



「祖父様もこちらのゲームで遊んでいたんですね。なんてお名前だったんですか? うちのお母さんもそれなりに顔がしれているから知っている方もいるかもしれませんよ?」



 今日、お母さんは別行動してもらってる。

 朝、お姉ちゃんに出会った時までは一緒に行動したけど、ミルちゃんが出てきた時に少し距離を置いたのだ。

 ほんのり様子が違っているのもあるが、とある人物から接触があったらしい。


 それが新たな保護者のエントリーであった。



「わたくしのお祖父様を知りたいだなんて珍しいですわね。名は確か、金狼と仰るそうですわ。ですわよね、ジョン?」


「その通りです、お嬢様」



 ああ、はい。なるほどね。

 ジキンさんが顎でこき使うわけだ。

 確定しちゃったよ、この子中身ジキンさんだ。

 疑う余地もないくらいに。


 しっかし、完全にAWO断ちをしている背景がわからない。

 そして寺井家はどこに行ってしまったのか。

 天上院家の出所も不明。


 金狼くんに何があったのかな?

 私が首を突っ込むところではないかもだけど。

 気にはなるな。


 今はリノちゃんの手前、あまり興味を惹かれるのも違うけど。



「聞いたことがありますか?」


「いえ、もしかしたら知ってる人かなと思いましたけど」



 ここはあえて知らないふりを通す。

 なんかやたら私のこと見てくるけど、もしかして鎌をかけられてた?

 あの人ならやりそうなんだよなぁ。



「ふふ、そうでしょう。引退されて結構経つと聞きます」


「皆が皆、いつまでもゲームに勤しんでられないんでしょうか?」


「リアルを蔑ろにしているわけではありませんが、情勢が見えていなかったのでしょうね」



 子供の語る話じゃない。

 


「そうですね。まだわからないことばかりですが、ご苦労されたのでしょうか?」


「そう、聞いております」



 ニコニコと、顔色を窺う会話。

 子供がするもんじゃないな。

 お嬢様学校なら割と普通?

 でもリノちゃんからじゃそんな感じしないし。

 やっぱり普通ではないよね。

 


「ハヤちゃん、もういいでしょ。今日は私と遊ぶんだから。ね?」


「はいはい。そういうわけなのでモミジさんごめんなさい。詳しい話は後日」


「ええ、その時詳しいお話を聞かせてあげてもよろしいですわよ。聞いても面白いお話でもありませんけど」


「その日も私と遊ぶんだよね? ハヤちゃんは私の元を去っていかないよね?」



 あれ、もしかしてこれ。

 私がモミジちゃんに取られると危惧しての行動だったりするの?

 まるで何人も仲の良いフレンドを撮られたみたいな必死さを感じた。



「大丈夫だよ。私は今日モミジさんと会ったばかりだもん。リノちゃんの方が友達歴長いから」


「だよね、よかったー」



 ぶっちゃけリアルで二日しか遊んでいないけど、その中でも濃密な時間を過ごしたからね。

 とはいえ、それ以外に濃密な時間を過ごした二人が、完全にペースを握られてる状態。

 リノちゃんの気持ちもわからなくもないのだ。


 なのでまずはご機嫌とり。

 ミックスジュースを作り、みんなで飲んだ。



「ごめんなさい、有り合わせのものしかなかったから、これで。お口に合えば良いんだけど」


「ハヤちゃんのジュースなっらなんでも当たり。おかわりはある? 戦闘の後にも飲みたいな」


「そういうと思って、リノちゃんには数個予備のパックがありまーす」


「わーい」


「ふふ、本当に仲がよろしいんですのね」


「羨ましい?」


「ええ、本当ならわたくしが先にお友達になるはずでしたのに。少し出遅れたのを悔やんでしまうほどですわ」


「うーん、それは少しおかしな話よね」



 リノちゃんとモミジちゃんの話に。お姉ちゃんがつっかかる。

 なぜ、私に対してそこまで興味を抱いているのか。

 どうして、初対面なのに私がモミジちゃんに対して興味を示すのかが疑問であるようだ。



「あら、何かおかしなことでもありますか?」


「モミジさん、ハヤテのことを今日知ったのよね? でもリノちゃんを牽制してまで抑えたいと思ってる。までであって1時間も経ってないのによ。これは不自然よ」


「そうでしょうか?」


「それはハヤテにも言えるけどね?」


「そこ、気にしちゃうんだ?」


「気になるわよー。うちの妹が初対面の人にホイホイついて行ってしまったら、お姉ちゃんは心配だもの」



 それはそうだ。

 最近姉としての自覚を始めたお姉ちゃんからしてみれば、私はどこに行ってしまうかわからない状態なのである。

 ログイン中にしか合えないのだから尚更だ。

 なのでここは


「大丈夫だよ、犬のクォータービーストなのに髪が思ったよりサラサラだったのが気になっただけ。これはきっと手入れにそれなりに気を使ってる証拠だもん。手入れしてなければ『薄汚い野良犬』みたいになってるけど、そうじゃないからきっとお手入れ頑張っててすごいなって」


「なにか言葉の端に悪意を感じ取りましたけど。ですがそうですね、ハヤテさんからは見た目以上に『わんぱく』さを感じたのも事実。まるで生まれる性別を間違えてきてしまったかのような『クソガキ』感も否めませんわ。嘆かわしい限りですが」


「ハヤちゃん、やっぱりモミジのこと嫌いでしょ? 普通初対面であんな感想出ないよ?」


「わからないけど、なんかこう……相容れない感じはあるよね」



 リノちゃんとヒソヒソ話をする。

 向こうが匂わせをしすぎるからカマをかけてみたけど、普通に乗ってきたので今世は距離を置こうと思う。


 だってこれ、絶対振り回されるやつだもん。

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