90話 リノちゃんのライバル
「おはよう、ハヤテ」
「おはよう、お姉ちゃん。お母さん。今は朝?」
あれから何れくらいの時間が経過したのかの確認をする。
あの空間だと本当に時間の経過がわからないからね。
「そうよー。今日は何をして遊ぶ予定かしら?」
「特に予定はないけどね。お姉ちゃんは何をしたい?」
「そうねー。覚えたいことが多くて決められないかな。ミルっちやリノっちが来てから決めると思う」
「そだね」
あれから街に帰り、出番が来るまで探偵さんと駄弁っていた。
どうやら彼はミルちゃんの中でソ連なりに大暴れしていたらしく。その中で、ジキンさんらしき存在を知覚していたらしい。
詳しくは聞かなかったけど、見ればわかると言っていた。
今時あんなコテコテのお嬢様もいない。
当時のアニメでもなかなかみない髪型だと。
髪型に特徴があるってことなのだろうか?
しかし彼女と。
なんで全員女の子になっているのか。
今から嫌な予感しかしないんだけど。
「お待たせしました」
「おはよー、ミルっち」
「ええ、おはようございます。ハヤっ……ハヤテさんは見つかったのですね。心配したんですよ?」
「なんだか今日のミルちゃん、よそよそしくない?」
お姉ちゃんは動じない。
もしかして、こっちが素?
あまりにも別人すぎる。
もしかして悪い夢でもみてた?
それぐらいの差だ。
「これはリアルのミルっちだね。ゲームの仲間でもこの状態なのは初めてみるよ」
「そうなんだ。でもどうして急に?」
「実は今日、リアルのお友達と遊ぶ約束をしてまして。急遽この姿で会うことに。それでなんですけど、あまり以前までの状況を詳しくお話ししていただきたくなく!」
あー、なるほど。
口裏を合わせてほしいのか。
「了解、いいよ。たまにはそう言うのもいいよね。お姉ちゃんもそれで平気そう?」
「むしろハヤテの方が慣れてないんじゃない?」
「私は目して語らずで押し通すよ。なんだったら今日初めて会ったでもいいし」
「その方にはお友達として紹介したいので、おしゃべりがあまり得意ではないくらいで」
「リノっちみたいな感じで行けばいいかな?」
「リノちゃんも結構喋るよね?」
「ハヤテさんの前でだけですよ」
「そうなんだね。普段どんな感じか、私は知らないから」
「ですね。そろそろ時間です」
ミルちゃんが周囲を見渡しながら今日誘った子の登場を待つ。
「その人はどんな特徴の子? この集まりに誘うってことは女の子ってことでいいんだよね?」
「ええ、そうですね。見ればわかる感じの、コテコテのお嬢様ですよ。私たちの通う学校はお嬢様学校ですからね」
「え、お姉ちゃんてお嬢様だったの?」
「こらそこ。らしくないとか言うつもりじゃないでしょうね?」
「わー、暴力反対!」
などと騒がしくしていると。
そこに金髪ツインテ縦ロールお嬢様が現れる。
いや、これただの縦ロールじゃないな。
だって尻尾ついてるし。
これあれだ、クォータービースト(犬)だ。
犬耳を縦ロールにしてるんだ。
すっごい注目浴びてるね。
始めたばかり? にしては随分と豪華なドレスを身に纏ってるし。やはりお嬢様。金に糸目をつけない感じだ。
「オーホホホ。みなさんお揃いのようですわね。わたくしはモミジ。ミルモさんのご学友でしてよ。本日はこちらのゲームにお誘いいただきありがとうございます」
「初めてお目にかかります。私はハヤテと申します。モミジ様」
「あら、こちらの子は礼儀がなっていますね。さぞ立派な躾を受けているのでしょう」
「あ、その子は」
「ハヤテは私の妹なの。初めまして、ではないわよね、モミジさん」
「疾子さんでしたか? そう、あなたの妹さんでしたのね」
「こちらではトキよ。モミジさん。リアルとゲーム、混同されたら困ります」
おやおや、まるで女学園に迷い込んだみたいな空気が流れてるね。私までお嬢様になってしまったみたいだ。
場違い感がすごい。
付け焼き刃の社交辞令でどこまでついていけるか。
そこへ、
「ごめーん、遅れちゃった。あ、ハヤちゃん見つかったんだね。心配したんだよー」
「リノちゃん。おはよう」
「おはよー」
リノちゃんと久しぶりの再会にハグをしながら会話を弾ませる。あまりにも長い時間あってないから、一ヶ月ぶりくらいの感覚だったけど。リアルだとまだ一日も経ってないと言うから不思議だ。
「あらリノさん。堂々と遅刻とは大したものですね」
「げ、天童院紅葉! どうしてここに!」
「おあいにく様。今回はミルモさんからお誘いいただいて参上したのですわ。まさかここにあなたが参加していたとは思いませんでしたが」
「お姉ちゃん。リノちゃんとモミジさんて何か因縁が?」
「単純に会社の系列が同業で、競い合ってるみたいなの。どっちが優れてるとかはないんだけど、子供ウケがいいという理由でやたら目をつけられてるみたいでね」
「そうなんだね」
御愁傷様というかなんというか。
しかしこの子……探偵さんが言ってた特徴そのものなんだよなぁ。ジキンさんとランダさんを足して二で割ったみたいな性格。
ますますジキンさん要素が増していってる。
「あらハヤテさん。わたくしの顔をまじまじと見てどうなさいましたの?」
「いえ少し。知り合いに特徴が似ていたもので」
「ふふ、運命的なものを感じますわね。わたくしも、今あなたにどこか懐かしさを感じていますのよ?」
やっぱりこの子……いや、まだ断言する時ではないな。
「さぁ目くるめく戦いの旅路へ参りましょうか」
「あの、モミジさん。少し待ってくれる?」
「あらトキさん。まだ何かご用がありまして?」
「出かける前に、今日の目標を決めておこうかなって。無目的に動き回るのは時間の無駄。それぞれ何をしたいかを出し合って、多数決でそれを決めるという遊び方をしてるのよ」
「ふむ、一理ありますわね」
シャッと鉄扇を広げて口元を隠す。
いちいち大袈裟なリアクション。
けど様になっているのが悔しいな。
それから話し合い、リノちゃんとモミジちゃんは戦闘&金策をしたい。私は畑のお世話と料理。お姉ちゃんとミルちゃんは音楽活動をしたいと極端な意見が出た。
「ハヤテさんはお料理が得意なのですわね。てっきり写真撮影などに興味がおありかと」
「なんでそんな風に思うんですか?」
「勘です」
ピシャリと言い放った。
やっぱりこの人ジキンさんなんじゃ?
またはランダさん。
でも探偵さんはジキンさんだって言い切ってたからなぁ。
カマかけしあったんだろうか?
あの二人はそういう意味で仲はいいものなぁ。
「モミジさん。うちの妹は料理がすごく上手なのよ。私も教わり始めたところなの」
「あら、それは楽しみですわね。それで、これからどうします?」
「そうだね。まずはみんなの好みを聞いて食材を買い足す。あとは音楽活動をしながら、戦闘で時間を消化。お腹が空いたら街に帰ってお食事とかでどうですか?」
「全員の要望が含まれてて大変結構。ミルモさんもそれでよろしくて?」
「ずっと気になってたんだけどさ、なんでモミジが仕切ってるの?」
「あら。これは選ばれたプレイヤーによる采配でしてよ。二流運営会社をお父様にもつリノさん」
「売り上げはうちの会社の方が上だもん!」
「資金力では天童院の方が上。サービス開始が少し早いくらいで威張らないでくださいまし。まだまだここから巻き返していきますのよ?」
「やっぱりモミジさんのご両親は?」
「ええ、ゲームの運営をしてますの。神ゲー、Earth Project Onlineの開発権運営でしてよ。本当はミルモさんもそちらにご招待しようとお呼びかけしていたんですが。どうしても本日はこちらに約束事があるとおっしゃいまして。わたくしの要件はこの後。午後からに回そうと思いましたの」
え、これもしかして引き抜きされかけてるの?
通りで姿をこっちで見ないわけである。
しかし『Earth Project Online』なんて聞いたこともないけど?
地球再計画? みたいなものだろうか。
リアルを知らない子供達に、第一世代が歩んだ外の世界を体験させるとか、そういうのかもしれないね。
子供が求めてないのに、そういうのを体験させることが学習になるとか、押し付けもいいところだろうに。
何はともあれ。
逆にこっちに引き抜き返せば……いや、中身がジキンさんだった場合、こっちに未練とかないだろうしなぁ。
探偵さんほど求められてないという意味では本当に好き勝手生きてるのがよくわかった。
それはともかく、ミルちゃんを奪われると撮影係を新たに探さなくちゃいけない。どうにかして、諦めさせないと!




