87話 101匹わんちゃん大行進
「( ゜д゜)よぉ、待ってたぜ。あんたの方から連絡をくれるなんて一体どういう風の吹き回しだ? どざえもん」
どざえもんさん!?
でもそこにいるのは確かに私の2Pモードで。
シェリル :どう言うことかしら?
アキカゼ・ハヤテ :わからないよ
もりもりハンバーグ:僕もお義父さんの色違いに見えますね
シェリル :私には別の誰かよ
:本当にあれはナイアルラトテップなの?
:今確認したけど、あの人はログインしてないのよね
もりもりハンバーグ:それを確認できる聖典の仲間が彼にいない
アキカゼ・ハヤテ :そこを突かれたか
:そして今、この空間が閉じ込められた
シェリル :ハンバーグ君のいるパッキングと似たようなもの?
アキカゼ・ハヤテ :もっと邪悪な何かだよ
:世界そのものが飲み込まれた
過去に体験したことがある。
世界が隔絶したあの感覚。
シェリル :確かに、急にメッセージ機能が使えなくなってるわ
もりもりハンバーグ:そんなことができる相手は
アキカゼ・ハヤテ :GM、ナイアルラトテップに違いない
:問題は、姿を偽ってぽかーん氏に何をさせたいかだけど
シェリル :確かこの時、魔道書陣営が裏で何かをしていたのよね
もりもりハンバーグ:僕は知らないんですよね
アキカゼ・ハヤテ :完全に引きこもりの思想じゃないの
:もっと表に目を向けないと
シェリル :普通に父さんの引退で代役を任された人が疲弊してたのよ
え、それ含めて私が悪いの?
ひどい言いがかりを聞かされた。
その横では、レイちゃんがまだ私のブログに書き足している。
何をしてるんだろうね。
私の知る限り、ブログは四章でおしまいなのに。
アキカゼ・ハヤテ :レイちゃんはさっきから何を書いてるの?
レッドシャーク :|◉〻◉)ブログの続きです
:五章がそろそろ書き終わります
もりもりハンバーグ:もしかしてこれ、僕たち閉じ込められてる間も時間は進んでる?
シェリル :そこのお魚さんの因果律はどうなっているのかしら?
アキカゼ・ハヤテ :そもそも、彼女はどこからこの情報を読み取っているのだろう?
もりもりハンバーグ:確かにおかしいですね
レッドシャーク :|>〻<)書けました! 美しい姉妹愛の1ページです!
彼女の感動巨編を読み上げる。
するとそこには私を失って失意に暮れる姉と、私とは似ても似つかない感情のこもらない『ハヤテ』との邂逅を皮切りに、芽生えていく姉としての自覚。
なまじ優秀だった『ハヤテ』と異なり、何もできない『ハヤテ』と接していくうちにお姉ちゃんは人間として成長していく、と記されていた。
そこまで聞けばいい話なのに。
そこには私が必要とされていない未来しかない。
それはちょっと困るな。
最初こそはミルちゃんやリノちゃんとは『付き合い』と言う観念も大きかった。
けど今は慣れて、楽しく感じ始めたところだ。
それを取り上げられるのは違うよね?
むしろ取り返すためにもこの事件を早急に解決しなくちゃ。
だって今、怒っていることそのものが怪異なんだから。
アキカゼ・ハヤテ :ナイアルラトテップを捕まえよう
シェリル :そうね。何をしようとしているのか、突き止めなくちゃ
もりもりハンバーグ:あ、席を立ちましたよ
レッドシャーク :|◉〻◉)新しい話が流れてきました!
そーれ、空間ごとパッキングだぁ!
シェリル :あっ
もりもりハンバーグ:あっ
レッドシャーク :|◎〻◎)あっ通信が途切れちゃいました!
『何者だ!』
役目を終え、意気揚々と帰還するナイアルラトテップは帰宅を邪魔されてすごくお怒りのようだった。
「私だよ、ナイアルラトテップ。君、相変わらず杜撰な暗躍してるよね。もっと隠れて行動しなさいよ」
『アキカゼ・ハヤテ? 戻っていたのか!』
どざえもんさんに擬態していナイアルラトテップが、顔をバグらせながらも、その声色を換気に満たしていく。
ぽかーん氏に接触したのは消去法という可能性もあったが、あたりだったか。
この人だけ行動力がやたらあるもんな。
それ以外はあまりにも消極的。
ガチ勢はほとんど聖典に取られて、魔道書陣営はエンジョイ勢しかいない。
それが攻略が遅々として進まない所以か。
今にして思えば、私を失った後の彼の嘆きもわからないでもない。
だからといって、無理やりその気にさせるのは違うよね。
「私は今の時代の彼ではないよ。未来のアキカゼ・ハヤテと言ったところかな?」
『タイムリープ? なぜそんなことを』
過去のナイアルラトテップが神妙な顔つきをする。
人間の年月など彼ら神格にとってはほんの数秒とさして変わらない。
だからこそ、未来をも見通せるべき彼が自分の計画に破綻はないとコチラに向けて疑問視するのだ。
嘘をついてこちらを惑わそうとしているんじゃないか、と。
「他でもない君に頼まれたんだ。近い将来、ヨグ=ソトースさんがアザトースさんに向けて全面戦争を仕掛ける。他でもない君の手引きによって」
『そんなことあるわけが……』
「実際、起きたんだよ。私の生まれた世界では、君は盛大にポカをやって私にその尻拭いをしろとまで言ってきた。私は呆れてしまったよ。ただのプレイヤーに神格同士の痴話喧嘩の仲裁を求めたんだ」
『ふん、仮にそんなことが起こったとして、我が何をしでかすと言うのだ』
「それについては私から話すわ」
『よくもおめおめとこの空間に介入できたな、聖典の犬め』
「そう睨まないでもらえる? アザトースの傀儡さん」
『ぐぬぬぬ』
シェリルおばあちゃんはナイアルラトテップの一瞥すら涼しい顔で受け流し、皮肉に皮肉で返した。
つよい。
「ことの発端は単純よ。ドリームランドの土地という土地を私たち聖典が拠点化してしまったのが始まり。あなたはアザトースの顔色を伺って、いろいろ暗躍したんでしょうけど、望んだ結果が得られなかった。そのタイミングで、神格へのステップアップを終えたウィルバーウェイトリーが嫁探しの旅を始めた。見つけたお嫁さんがアザトースに与する存在で。あなたは結婚したければアザトースの陣営に入れ、塗装脅したらしいの」
『バカな! いや、仮にそうだとしてもわざわざヨグ=ソトースの息のかかってる相手に話を持っていくなど』
「あり得ないと思うわよね? 私だって信じられなかった。でも結果、そうしてしまった。その時のあなたの葛藤まではわからない。けど魔道書側が再びドリームランドの覇権を担うためにも、それが最良だと思ったのじゃない? 結果、世界を二分する戦いが勃発した。魔道書も聖典もその戦いに巻き込まれたのよ。あなたの葛藤の末の采配でね」
「それに関しては二柱の一瞥に耐えられるプレイヤーが存在しなかったというのが大きな争点だと私は思っている。誰も、かの二柱に進言できる者がいなかった。育っていなかったんだね。ゲームマスター。自由意志を尊重しすぎたね。私が去った後、イベントでもなんでもして魔道書のプレイヤーたちを育てるべきだった」
『まだ起こってもないことに対して暴言を吐かれるのは気分が悪いな。だが、それもこれも貴様ら聖典が我らを追い詰めた結果ではないか?』
「それを言われたら弱いわね。私たちも手探りなのよ。このエンドコンテンツのクリアがどこにあるのかを探しているの。手始めに判明している限りの意拠点を制圧したわ。その結果、全滅を招いたのだけど」
キレた制御不能の神格が暴れ回ってゲームがリセットされてしまったらしい。
ドリームランドの時間は逆行した。
けど、長い年月を生きる神格の気持ちまではリセットできず、何かにつけて戦争をしてしまう。
なので過去その物を無かったことにしたい。
けどその手がかりごと消失してしまって二の足を踏んでいるとシェリルおばあちゃんは説明してくれた。
それはゲームとしてどうなんだ、と思わなくはないけど。
運営やGMすら手を焼く自由意志を持つ上位存在を野放しにしたのがそもそもの発端な気がするよね。
『それならば先ほどの男に試練を与えたところだ。我とて何もしていないわけではないのだぞ?』
「でも確か、あの人リアルで体調崩して数ヶ月ログインしなかったはずよ」
『は?』
「あーあ。あまり圧力かけすぎると一般プレイヤーは体を壊しちゃうんだよ。やっちゃったね」
『貴様は持ったではないか!』
「父さんと他のプレイヤーを比べちゃダメよ。この人はちょっと心の造り方がおかしいの」
シェリルおばあちゃんが断言する。
もりもりハンバーグおじいちゃんまで頷いてるし。
えぇ、みんなして私のことそんな風に思ってたの?
軽くショックだ。
それはそれとして。
私という存在が特別なのだと再認識している。
特別視してくれるのは嬉しいけど、人外として見られるのはまた別というか。
「何はともあれ、だ。シェリルは聖典側に掛け合って。ナイアルラトテップ。君は負担をかけない程度の試練を与えるようにしておきなさい。本当。死んだ後まで頼られるだなんて思いもしなかったんだから、こっちは」
『今の貴様は本当にアキカゼ・ハヤテではないのか?』
「今の私は『ハヤテ』そっくりの名前をつけられた女の子さ。この姿はそうだね、未来で実装されたシステムにすぎない。考えた物だよ。ごっそり抜けた第一世代を傭兵として再利用するなんてさ。ただ、そこに入る人工知能が拙い。私はそこに入るAIとして未来の君に採用されてしまった。この事実を覆したい。できるね?」
『何を言いたいのかわからないが。とりあえず気に留めておいてやろう。そんな行動などしないとは思うが、念のためにな』
そう言って、ナイアルラトテップは立ち去ろうとした。
『おい、この空間はどうなっている? 帰れないのだが?』
言われて気がつく。
私はパッキングを開封した。
そして同時、ナイアルラトテップが消える。
これで一件落着かと思われた矢先、ティンダロスの猟犬が大量に現れた。
その数実に101匹以上。
何かの映画かな?
よくこの空間に入ったねって感じ。
実際それくらいの歴史改竄をしたのだと思えば、実にわかりやすい。
「うーん、一体どうしてこんなことに」
「どうやら向こうから素材が来てくれたようね」
シェリルおばあちゃんはほくそ笑む。
もりもりハンバーグ:僕も戦います。ダンジョン素材欲しいですし
君もそういうやつだったね。
りょうかしながら開封する。
「( ゜д゜)で、これは一体なんの茶番なんだ?」
ずっとそこにいたぽかーん氏が大量のティンダロスの猟犬を前に呟いた。
「マスター、狩り? 狩り?」
「( ゜д゜)よくわかんねぇが。腹いせにぶっ飛ばそうぜ、サイ」
「ヒャッハー!」
ぽかーん氏もサイクラノーシュ君もやる気だね。
では私達も参加しようか。
「|◉〻◉)六章のネタが受信されました!」
「早く始末して帰るよ!」
それからいかに早く討伐するかを競い合う。
結局終わったのはレイちゃんが六章を描き終えた後だった。
その内容から、完全に私の存在が忘れられてることを示唆している文脈で綴られて心が壊れそうになったものだ。
なーんで、誰も真剣に私を探してくれてないのか。
これがわからない。




