85話 やらかしニャルちゃん
「と、言うことでいくつか話していただけないかな?」
「その前にドリンクをいいですか?」
「ドリンクなら私が出そう。ハヤテちゃんの時の技術とストレージがそのまま着てる。少し厨房を借りられるかな?」
「あら、その姿でも使えるのね?」
「パッキングが使えたんだ。いけるさ。ね?」
「|◉〻◉)なんで僕に聞くんです?」
「えっ?」
パッキングはできたよね?
ストレージも使える。
じゃあ料理もできるよね。
え、できないの?
いやいやいやいや。
すっかりできるつもりでいたけど。
じゃあなんでパッキングはできたんだろう?
結果、できた。
なんなら前世で手に入れたアイテムなんかも使えるので、これはこれで便利だ。
「ドリンクどころか興が乗って軽食も作ってしまったよ」
「変なのは入れてないでしょうね?」
シェリルおばあちゃんからの信用がない。
いつまで経っても過去を引き摺られてもね。
今を見なさいよ、今を。
「《《ドリームランド産》》の食材は使い切ってしまってね。料理で使えそうなものはなかったよ」
「少し、食べてみたくはありましたが」
「あなた、ゲテモノ喰いよ?」
「ははは、義姉さんは手厳しい。しかしチキンサンドか。妻の手作り以外でこう言うのを食べるのは久しぶりだ」
「今じゃ私も食さなくなったわね。メインはサラダね」
「覚えておこう。次あたりはサンドイッチを用意しておこう」
葉野菜たっぷりのね。
ちょうどド・マリーニ農園の野菜が残ってる。
でもそれを使うと色々問題があるからね。
気軽にタイムスリップしたって。
いや。
タイムスリップでもしないと痴話喧嘩は解消できないのか?
あの当時、私がログインしなくなった後まで私は飛べた。
曰く付きの食材で。
まぁその話をここで聞くんだけどね。
「レイちゃんにはお粥でよかった?」
「|◉〻◉)この姿は歯がないので」
えっ? この前バリバリ食べてたよね?
気のせいだったかなぁ?
「うん、少し脂っこいけど悪くないわね。VRじゃなきゃなかなか口にする機会はないけど」
「それはよかった」
「それで、ことの概要ですが」
もりもりハンバーグおじいちゃんがフレンドメールで私に送信する。
そこにはいくつもの言語で描かれた文章が綴られていた。
暗号化するほどに秘匿している文章であることはすぐにわかる。
私は懐からレムリアの器を出して、解読する。
話を掻い摘めば、シェリルおばあちゃんの言う通りナイアルラトテップの導きによるウィルバー君の引き抜き……なんだけど。
その前の前提条件がまぁまぁ複雑だ。
要点をまとめれば、ウィルバー君はヨグ=ソトースさんのもとで修行を積み、神格として位階を上げるほどの実力を得た。
そして次なるステップに進むために、お嫁さんを探しに行った。
力加減が苦手だった弟君は、ウィルバー君の後を注いで神格修行に励んでいた。
そこまではいい。
問題はここからだ。
見そめた相手が偶然アザトースに連なるもので。
ナイアルラトテップとしては妹(?)と結婚するなら、ヨグ=ソトースを裏切ってアザトース陣営にこい。
じゃなきゃ婚姻は認めないと余計なことを口にしたそうだ。
あの人本当に余計なことしかしないな。
ヨグ=ソトースがそんなことをしたらどう言う対応してくるか分かりきってるだろうに。
「まいった。本当に諸悪の根源がナイアルラトテップでしかない。あの人、もう少し社会に出たほうがいいんじゃない?」
「陣営ごとのルールもあるし、うちも追求できないのよね」
「こればかりは僕達でも手の出しようがなくて」
「問題が起きたのはいつ?」
「だいたい10年前かしら?」
「そこまで昔じゃないんだ?」
ズズッとジュースをストローで啜りながら。
私は手持ちのアイテムを出していく。
シェリルおばあちゃんは目を細めながら、一切説明をしない私に睨め付ける。
「一応聞くけど、それは? 気持ち悪い植物ね」
「ド・マリーニ農園の野菜でね。これを調理して食べると、なんと時間旅行ができる」
「タイムトラベル? その技術はあの偽父さんがログインしなくなってから利用不可になった技術よ?」
「おや、そうなのかい? でも列車は今まで通り使えるんだろう?」
「お義父さんがログアウトしてから、完全にその消息を経っていたんですよ」
「おかげで過去改竄が難しくなって」
「ドリームランドにも出るには出るんですが」
「二人の言い分はあれだね、素材的な意味合いだ」
「そうよ? あとは改竄チャンスによる陣営拡大とか、色々あるけど今は難しいのよ」
「なるほどね。ではこれを定期的にどちらかに卸す……あるいは調理したものをトレードすると言うのはどうだろう?」
「直接トレードでもいいですよ?」
「残念ながら、これらのアイテムはフレーバーなんだ。ド・マリーニ農園も、特定人物がいないと入れないし」
「その人物は?」
「ハヤテ、お姉ちゃん、ミルちゃん、リノちゃんの四人。この四人の幻想装備に紐づけられてる感じだよ」
「幻想装備?」
「義姉さんは知りませんでしたか。ハヤテちゃん周りで発現した幻影の関わってる装備ですよ。見せてあげてくれませんか?」
「レイちゃん、見せても大丈夫?」
「|◉〻◉)なんで僕に聞くんですか?」
「君公認の装備だと思ったんだけど」
どうしたんだろう?
今回のレイちゃんはずいぶんとはぐらかしモードだ。
もしかして今回の件、君が関わってたりする?
あの街で二人きりだった時は、ここまでお惚けた感じではなかったんだけど。
もしかしてシェリルおばあちゃんを前に萎縮してるのかな?
ありそう。
お父さんの前にも出てこなかったし。
「|ー〻ー)んー、ちょっと何言ってるか分かりませんね」
「お義父さん、この子どうしちゃったんですか? 前回より真面目さが抜けてますよ?」
「どうも聖典陣営の前で緊張してるようだ」
「私が悪いの?」
「ここからはパーティチャットで、大丈夫かな?」
「何をするつもり? そちらの要件を飲むにしたって」
言うが早いかパッキング。
ーー南無三! 聖典希望の星は邪智暴虐なる魔導書のトリックにハマってしまった!
「ひどい言われようで草。ああ、とここからパーティを開いて……」
<権限が足りません>
「おっと、権限不足ときた。もりもりハンバーグ君、頼めるかい?」
「一応申し開きの言葉は考えておいてきださいね?」
「そう言うのは得意だとも」
パーティ編成は彼に任せる。
シェリルおばあちゃんはパッキングの中。
そしてここには魔導書陣営。
さっきまで知らんぷりをしていたレイちゃんが、急にイキイキし出す。
「|◉〻◉)ふぅ、息が詰まるかと思いました。あ、脱いでいいですか?」
「着ぐるみの話かな?」
「|◉〻◉)です。ちょっと聖典陣営の本元で脱ぐには僕の肌はデリケートすぎるので。その間はこの着ぐるみでカバーしてたんですよ」
「そう言う問題だったんだ?」
「|◎〻◎)とてもデリケートな問題なので。常に吐きそうでした」
それはそれは。
あれは惚けてると言うより、余裕がなかったのか。
顔を見てれば大概のことはわかっているつもりでいたけど、私もまだまだだな。
そんなこんなでパーティ結成。
のちパーティチャット。
<もりもりハンバーグさんがパーテュチャットを立てました>
<もりもりハンバーグさんがアキカゼ・ハヤテさんを招待しました>
<もりもりハンバーグさんがシェリルさんを招待しました>
<もりもりハンバーグさんがレッドシャークさんを招待しました>
もりもりハンバーグ:お手数おかけしました
シェリル :本当よ。何かするなら、事前に話すのが礼儀よ?
アキカゼ・ハヤテ :ごめんね。どうもうちの子、聖典の気配に弱いみたい
レッドシャーク :|◉〻◉)敏感肌ですいません
そこで私はうちの幻影が聖典の前では萎縮し過ぎてしまうことを話した。
その上で幻想装備の馴れ初めを話す。
シェリル :なるほど、そこのお魚さん専用の装備がそれなのね?
アキカゼ・ハヤテ :専用というには複数人専用っぽいんだよね
レッドシャーク :|◉〻◉)うちのマスターがあまりにもやる気がないので
:周りを巻き込めばやる気出すかなって
シェリル :誰に似たのか、ずいぶんと悪どいわね?
もりもりハンバーグ:新時代のベルトシステムか
シェリル :複数人が集まらないと実行できない権能にどんな意味が?
アキカゼ・ハヤテ :それは私もわからないけどね。けどそこにフレンドシステムを当て込めば
シェリル :なるほどね、ログインできない時でも実行はできると
アキカゼ・ハヤテ :実際に私が召喚されてできるのを確認した限りでは
私は初回状態でスキルを完全に再現できたことを話す。
しかしプレイヤー限定のコールやメッセージ、フレンド登録、トレード機能などが機能しないことを話す。
シェリル :早速過去改竄の道が途絶えたじゃない
アキカゼ・ハヤテ :だから順序を踏むんじゃないの。これは今日明日で終わるミッションじゃないよ?
もりもりハンバーグ:ええ、まずはお義父さんの復活が先です
シェリル :成功報酬がそのアイテムということね。まだるっこしい話よね
もりもりハンバーグ:だいたいナイアルラトテップのせいで、お父さんを責めるのは筋違いですよ
シェリル :そうだったわ。私ってすぐ父さんに疑いをかける癖がついてるようだわ。治さなくちゃ
アキカゼ・ハヤテ :その前にいくつか検証をしておきたいんだよね
シェリル :検証?
アキカゼ・ハヤテ :うん。例の素材。フレーバーだから調理に使っても減らなくてね
:だから実際にどれを食べれば何年かこに飛ぶか、また未来に飛ぶかの検証
:成功報酬はそうだね、ティンダロスの猟犬の素材でどうだろうか?
もりもりハンバーグ:僕はありがたい話ですね。義姉さんはどうします?
シェリル :乗るわ。どの道その料理を取引するという話だしね
:前もって検証できるのはありがたいわ
:どうせ父さんのことだから何も検証してないんでしょ?
アキカゼ・ハヤテ :食べたら時間跳躍する料理なんて気軽に振る舞えるわけ無いじゃない
もりもりハンバーグ:それもそうだ
シェリル :そうね、知らない間に振舞われたら、私でも怒るわよ
アキカゼ・ハヤテ :そうだね(3敗)
レッドシャーク :|ー〻ー)もうすでに振る舞い済みですもんね
アキカゼ・ハヤテ :しー、レイちゃんお口チャックで
レッドシャーク :|◉〻◉)あ、今のは聞かなかったことにしといてください
:ちなみに、今のお料理には?
アキカゼ・ハヤテ :ジュースはそうだね
もりもりハンバーグ:え?
シェリル :は?
レッドシャーク :|◉〻◉)ですよねー
こうして私たち寄せ集めチームは、どこに行くかもわからない時間旅行の旅に赴いた。
途中でシェリルにしこたま怒られたけど。
旅は道連れっていうじゃない?
この程度で怒っていたらナイアルラトテップのやらかしについていけないよ?




