84話 アンカー
「連絡したわ。ドリームランドで集合ということになってるけどこのまま連れてってもいいかしら」
「私に拒否権はないからね」
「あなたはどうする?」
シェリルが振り返り、ヒャッコ君に話を振る。
いつもだったら当然ついてくると思われたが、もっと重要な役割があるとその場に残ることを決意。
「俺はマリンちゃんに義父さんのことを伝えておくよ。こういうのは一方的にコールやメールで伝えてもわからないと思うから」
「そうね。私からパープルに話を通しておくわ。お願いできる?」
「任された。実際のところマリンちゃんとはあまり交流したことがないから俺が直接言って信じてもらえるか微妙なところではあるけどね。パープルさん経由なら話も通じることだろう」
なるほど。どちらかと言えば対立していた側だったもんね。
パープルが魔導書陣営に入ったという話は聞かなかったけど、マリン贔屓だったことを考えれば納得か。
っと、思考がどんどん前世寄りになってきているな。
シェリルはおばあちゃんだし、ヒャッコくんはおじいちゃん。
パープルおばあちゃんに、マリンお母さんだ。
これは『ハヤテ』にとって絶対。
前世に乗っ取られなようにしないと。
今の私はもうおじいちゃんじゃないんだから。
「今後とも召喚できるかわからないというデメリットはあるけどね」
「あら、召喚に対して拒否権はないの?」
「残念ながら」
ここで今の近況を話しておく。
【召喚】という状態異常に関して、こちらは抗えない。
常に<権限が足りない>という状況に陥る。
現状もそれによって行動が制限されている、と。
「なるほど。それじゃああまり役に立たないかしら?」
「自分ならこうするというレクチャーぐらいしかできないと思ってくれていいよ」
「スキルは?」
「普通に使える。しかし権能の方はどうだかね。レイちゃんは私のブログのファン、もとい幻影なので来てくれたが、ルリーエが反応しない。そのためかクトゥルフさんと連絡がつかない」
「本当に能力が限定されてるのね」
「だからこそ、AIのレベルを上げる必要があるのではないかね?」
「あ、今の昔の父さんっぽいわ」
「そりゃどうも。しかし口調を似せたところで今の私はアキカゼ・ハヤテではないんだよね。もちろん記憶は少し残っているが、それも今や薄らいでしまっている。かろうじて癖の強いキャラクターぐらいだよ、覚えているのなんて」
「父さんのフレンド周りはだいたい覚えてるってことにならない、それ?」
「それを言われたら弱い」
私のフレンドはどいつもこいつも癖が強いからね。
当然君もその中に入ってるからね、なんて喉元まで出かけた言葉を飲み込み。
女子中学生になって、そこら辺の配慮が備わった今の私に隙はないのだよ。
と、そんなこんなでタイムトラベル。
不思議と今の私にも『ハヤテ』だった頃のスキルが持たされている。
他のキャラクターではできなかったのに。
なぜかと思ったらレイちゃんが新たに書き込んでいたのだ。
いや、模写していた。
私たちの全力ミンストレルライフ!を、おじいちゃんのAWO散策日誌に。
「何やってるの、レイちゃん」
「|ー〻ー)こんなに状態の良い原典を見るの滅多にないので、嬉しくなっちゃって」
「君も書き込めるんだ?」
「|◉〻◉)幻影ですからね。まだまだ白紙が多いので、埋めていきますよ!」
今はその余白を使っているのだという。
そんなわけで私達はレイちゃん諸共【パッキング】されてドリームランドへ。
「そういえば、ドリームランドって地域がバラバラでくっついてるじゃない? 目的の場所までどうやっていくつもり?」
どこに向かうかも、集合場所がどこかも聞いていない。
魔導書陣営の拠点に赴くと、格好のカモとしてかられる可能性が高く。
シェリルおばあちゃんとて不用意にそういうところは選ばないだろう。
この20年で何かいい場所でも作れたのかな?
「今は【アンカー】というありがたいアイテムがあるの。これは先駆けて目的地にセットしておくことで、必要な時に発動すれば一瞬でその場所に到着できる優れものなのよ」
「へぇ、それって聖典側の技術なの?」
「いえ、魔導書よ。マーケット機能で販売されてたから買っちゃった。ポイント結構取られちゃったけど」
「なんか情報抜かれそうで怖くない?」
「確かにそういう機能もなくはないけど、狙った場所に一斉に集結できるのは便利だから気にしないようにしてるわ」
リスクがあるのは承知、と。
相手に情報を抜かれても諸共叩き潰せる強者の発言だな。
「ついたわ」
「一瞬だね」
「|◉〻◉)こたつワープを思い出しますね」
「こたつ?」
「レイちゃん、やっぱり君」
「|>〻<)僕は何もしりましぇーん」
それはつまり、一度記憶を消去され。
私同様うっすらとした記憶を持って生まれ変わったってことかな?
なんで一般人のブログから幻影が生まれるんだと思ったらそういうことか。
彼女は本当に何も知らないのだ。
突然そんな記憶を思い出した。
いや、実際にブログを見て知った気になった可能性も高い。
「そういうことにしておくよ」
「父さん、もういいかしら?」
「開封してくれていいよ」
ーーここは悪夢の眠る魔都、アーカム。
「あ、どこか場所聞く前に説明してくれた」
「|◉〻◉)不思議な場所ですねぇ」
「今や中立地帯よ。ヨグ=ソトース一派がお引っ越ししたからね」
「え、ダニッチ村はもうないの?」
「あるにはあるけど、人間に管理されてるわ。それを条件にここを中立としたんだから」
「なるほど」
村はあるけど、眷属達は全員そっちに行った感じか。
「神殿は?」
「残されたままなのよ。それがまた厄介でね。村人は迷宮化することで収益を出してるわ」
「村人がダンジョン化?」
「村長はもりもりハンバーグ君よ。あの人は祀ってる神格が邪悪なだけで別に見境なく襲ってくるタイプでもないでしょ?」
「だねぇ」
祀ってる神様は見境なく襲ってくるけど。
それがないってことはうまく制御できてるのだろう。
「彼とはここで待ち合わせしてるの。そして同時にダンジョンアタックがより活発化するわ」
「どうして?」
「ダンジョンマスターが不在の時の方が極悪化しないからよ。あの人すぐ修復してるんだから」
「盗人的発想!」
「私は参加しないけどね。あそこのダンジョンは難度が高すぎると以前から聖典陣営で問題になっているのよ」
「今は歩く災害のクトゥグアとイタクァをペット化するのが流行っていると聞いたけど?」
「そんな流行あの人の中にしかないわ」
辛辣ぅ。
でもあれに関しては同意かな。
放流モンスターのグラーキと違い、あの二柱は陣営関係なく永続で拠点を氷結・延焼を引き起こす。
あんなのペットにしてダンジョンで飼ってるもりもりハンバーグおじいちゃんがおかしいだけだと早く気が付けてよかったな。
やはり一度常識人から話を聞いて正解だった。
とはいえ、異常者の話も今回は重要。
神に謁見するっていうのはそういうことだ。
常識だけでは説明できないことのオンパレードだからね。
そんな時。
ピコン!
<幻想武器が【アンカー】のスキルを獲得しました>
セットしますか? コスト:5
日に3回まで使用可能
セットできる対象はまだ誰も設定されていません
「えっと、アンカーのスキル覚えたんだけど?」
「何を言ってるの?」
「レイちゃん、何かやった?」
「|◉〻◉)ちょうど僕たちの冒険を三章まで書き終えたところです」
つまり?
一章でスキル関連
二章でパッキング、水圧調理関連
三章で幻想装備か
四章は何かあったっけ?
だめだ、時間跳躍しか覚えがないな。
いや、これを書き込んだおかげでこのボディに入った時の恩恵が増えるのか。
今はまだ権限が足りない状況。
使える物はなんでもありがたく使わせてもらおうか。
「どうやら、私に意思決定権が与えられたようだ。使える回数は日に三度。今回登録できるのはシェリルのみだね」
「じゃあ、夜は確定で来てくれるの?」
「今のところは。でもそれだけじゃダメだと気がついているよね? 私の精神は一つしかないんだ」
「残念ね。もりもりハンバーグ君に紹介するのが今から惜しくなってきたわ」
「なんだい、君らしくないね」
「時にはセンチメンタルに明け暮れる日もあるってだけよ。私も歳をとったものね」
「年齢は聞かないでおくよ」
「そうね、そうしてちょうだい」
あれから20年。
もう当時の私と同じくらいか。
夫婦仲は良好。
子供達は元気に巣立ったのだろう。
あそこはどこか子供達と疎遠になってた印象が強い。
と、今はもう他人なんだ。
首を突っ込む必要もない。
ーー邪悪なる使徒、もりもりハンバーグ。
この地を混沌の暗黒時代に突入させた張本人が今、アーカムの地に降り立った!
「きたみたいよ」
「彼もすっかり有名人だねぇ」
自己紹介兼インターホンとしてもこの都市のナレーションは活躍してくれるのか。
「君は紹介なかったけど?」
「なぜか聖典陣営には反応しないのよ」
「正義を贔屓するのか」
「父さんの偽物はそこを痛く気に入っていたみたいだけど?」
「探偵さんね。あの人もこっちきてないかな?」
「お亡くなりになったと聞いたけど?」
「いや、転生して着てないかなって」
「あぁ、なんかあり得そうね」
「お待たせしました」
「ええ、それじゃあ早速討論会を始めましょうか」
「そんな堅苦しくしなくてもいいじゃないか」
「お義父さん、でよろしいんですか?」
「中身はハヤテちゃんだよ。なので君もそう扱ってくれ。この側じゃなかなかに難しいだろうが」
「ではそうさせてもらおうかな。うちの孫が世話になったと聞いて。ルリから感謝の言葉が送られてきたよ。そこも含めてありがとうございます」
「彼女は生真面目が過ぎる。けどね、根はいい子なんだ。信じて待ってあげなさい」
「そういう親目線を持って同年代に接してるの?」
「多少そういうところはあるかな? なぜかみんなからママ扱いされてるんだよね。不思議」
「ははは、妙に大人びてるところに惹かれるんでしょうね。孫もまた遊びたがってましたよ」
「それはよかった。でもその前に。私が元の肉体を手にするための作戦を始めようか」
「|◉〻◉)神格仲直り大作戦ですね!」
言ってやった、とレイちゃんが胸を張る。
ことはそんなに簡単な話じゃないんだけどね。
まぁ本人にとってはそう言うスケールの話なんだろうな。
やっぱり君、ルリーエじゃない?




