79話 絶対に見つけるからね(sideトキ)
「召喚システム?」
「ええ、それが新たに実装されたAWOのシステムよ」
お母さん言葉に、疾子は聞き覚えのある言葉を聞く。
ゲーム的に呼び出せるのはNPC。
だからどうしてそれで妹が失われるかの理由がわからない。
「それが実装されるとなんでハヤテがいなくなるの?」
「その召喚される相手が、今まで運営が黙認してきた同一生態データによるサブキャラクターを指すからよ」
「あ、もしかしてハヤテがサブキャラクター制作に引っかかっちゃった?」
「思いっきりね。それ以外にもデータ検証に複数サブキャラクターを運営するプレイヤーも少なくないのよ」
今回は運が悪かった。
だなんて理由では諦められない。
何せお母さんにとってはせっかく再会できた娘を奪われたも同義。
まだ10日しかお話しできていないのだ。
それが物言わぬNPCにされたら誰だって怒る。
感情の熱量の違いを早々に汲み取ったあたしは、これからはあまり妹をこき使う感じの発言は控えようと思った。
もとより、あたしにとってハヤテとは一心同体。
母にとっては愛する娘でも、自分からしてみたら半身。
ずっと一緒にやってきた、その存在が急にいなくなられて困惑してるのはあたしも同じだった。
だからこそ、問う。
自分と同じ境遇の存在を。
「そういう人から不満は出ないの?」
「思いっきりでてるわ。あくまでも助っ人は戦力ぐらいしか役に立たないから。中に人が入ってないのだから仕方ないわよね。トレードもできないし、今まで頼りにしていた部分で大きく劣るらしいの」
「パッチ当てれば良くはならないの?」
「プレイヤーとNPCの差ね」
「でもレイちゃんは普通に喋ってたしアイテムも使ってたけどなぁ」
NPCと聞いて思い出すのはあの珍妙なサハギン、レッドシャークのことだった。
あの基準だったら、全然助っ人として役に立つ。
しかしお母さんの反応は違っていた。
「あの子もおかしいと言えばおかしいのよね。どうして魔導書の所有者以外に同行して、その技能を披露したか。普通は所有者以外とは縁を結ばないものなのよ?」
「そうなの? お母さんの先生も姿見せてたよね?」
あたしは訝しむ。
幻影と呼ばれた存在はすぐにでも現れて、戦力として応戦する。NPCにしては会話が可能で、アイテムのトレードもできた。
「アイテムのトレードはうちの先生もできないのよ? だから、褒めてたわ。彼女は一体何者なのかと。私たちの知ってる幻影と一線を画す、そんな存在にしか見えなかったの」
「よくわかんない」
「謎の多い個体よ。だから懐いているというのだったら、もしかしてあたしちゃんにも所有権があるのかもしれないと思って」
「あたし? 所有権て?」
「ハヤテちゃんが持っているであろう魔導書の資格よ。何かステータスにそういう記載ない?」
「ログインしてから調べてみるね」
「そうね、メンテナンスが開けるのはお昼からかしら。それまでは宿題でもしておきなさい」
「うん。ハヤテは帰ってくるんだよね?」
あたしは不安そうに両手を握る。
お母さんは包み込むような優しさで不安を払った。
「そうなるようにお母さんも協力するわ。せっかく出会ったのに、まだ全然お話できてないのよ? ハヤテちゃん用の生態ロボットも用意してるのに。このままお別れだなんてあまりにも寂しいわ」
「生体ロボットって?」
「疾子ちゃんの生態データを用いたボディよ。いつまでもお魚さんボディじゃあたしちゃんの暴力に耐えられないから」
「あたしそんなに乱暴に扱ってないよ?」
「本人はそう思うでしょうけど、これ」
お母さんは真顔で支出表を見せつける。
そこには購入代金のほかに、修理費用などのデータが計上され、列挙する。
アップデート費用に比べれば修理費は微々たるものだが、その数が尋常じゃない。
一般的な収入の家族にこの金額の支払いは、相当に酷という金額が並んだ。
「これは?」
「ハヤテちゃんのお人形ボディに注ぎ込まれたお金よ。見て、こことかこことか、随分と修理費用が嵩んでいると思わない? たった10日で、疾子ちゃんの学費以上のお値段よ。お母さんびっくりしちゃった」
「あは、ははー」
あたしは笑って誤魔化し逃走を図るが、しかし回り込まれてしまった。
結局午前中の大半は宿題に充てる前に『ものを大切にする精神』を叩き込まれてしまったのだ。
しかしお昼まで少し時間はある。
AWOには入れない。
だったら、メールでリノっちやミルっちなどに連絡をとっておくほうがよさそうだ。
しかしお昼からとなるとリノっちは塾で不在。
ミルっちとだけ行動を共にするのは如何にあたしであろうと不安が大きい。
で、あれば。遊び慣れてるWBOでこちらの事情を話してしまうこととする。
そして、今のハヤテの現状を一緒に遊んだみんなに教えなくちゃいけなかった。
「どしたん、トキっち、話聞こか?」
開幕したり顔のミルっちに、あたしは少し安堵した。
ここには突然訪れた非日常はなく。
いつもの日常があったから。
だからこそ、今から話すことで日常が壊れてしまわないか、非常に気が重くなる。
「一時期はどうなることかと思ったけど、無事ログアウトできてよかったね! トキちゃん」
リノっちの発言に、あたしも心配をかけてしまったことを詫びる。
「ありがとね。みんなが掛け合ってくれたから、こうしてまた遊ぶことができたよ」
「その割に浮かない顔だよね。そういえばハヤっちは? まだAWOやってるのかな?」
「かもね。まだまだ遊び足りないって感じだったし」
すぐにハヤテの議題を出してきた。
皆が皆、あたし以上に頼っているのだ。
だからこそ、忘れて生きるなんてできない。
あたしは意を決して、妹の現状を伝えた。
「う、うん。そのことなんだけどね」
「何やら浮かない表情だね。本当に何かあった?」
ミルっちがいつも以上に直感を働かせてくる。
この子はたまに鋭い。
あたしも油断ならない相手なのだ。
普段あんななのに。
「実はあれからハヤテが意識を取り戻さなくて。今まで起きてはいたんだけど、完全に寝たきりになっちゃったの」
「えっ」
「それって大変なんじゃない?」
「そういえば、あれからお父さんたちが急に消えちゃったけど、それと関係があるの? お父さんたちは無事に帰ってきたけど」
「リノっちのお父さんからいくつか事情は聞いたと思うけど、あれって結構な綱渡りだったんでしょ? あたしも事情は詳しくないから知らないけど、だからハヤっちも普通に遊べるって勝手に思ってた」
「あたしもだよ。だからね、もしかしたらどこかにハヤテの記憶が引っかかってるんじゃないかって。それでお昼から探しに行こうってことになったの」
「ごめんだけど、私お昼は」
リノっちが挙手をする。
「うん、そこまで付き合わせるつもりはないから大丈夫だよ」
「なるほどね。あたしは平気。もちろんハヤっち捜索隊に参加するよ!」
「ありがとう、ミルっち」
「そうだ、お昼ならアキルちゃんもログインするかもだから協力願ってもらおう」
「でもあたし、フレンド交換してないよ?」
「えっ」
あの場でフレンド登録した相手が、ハヤテしかいないことに今になって気がつく。
「お。お母さんに聞いてみるね」
「トキっち。もしかしてだけどトキっちも?」
「ハヤテがいなくなるなんて思わなかったんだもん!」
「フハハ、同志よ。とりあえず、向こうにログインしてから探そうか。それでこっちなんだけど」
ミルっちが今後WBOのログインをどうするかと尋ねてくる。
「うん、ハヤテが元気になったら改めてかな?」
「今イベント中なんだよね。それがこれ」
「コラボキャンペーン……AWOと? こんな偶然あるの?」
「もしかして、その影響で? でもこっちでもAWOのアイテム使えたし」
「コラボの内容は?」
「AWOのプレイヤーを召喚できるってやつ。要は向こうで作ったアカウントを、こっちに呼び出せる機能みたいだね」
「それ、確かAWOにも実装されたやつだよね? 確か
「それで、ハヤっち呼べないかな?」
「試してみる?」
「そうだね。AWOにも同様の機能が実装されたっていうんなら、試してみる価値はあるよ!」
あたしたちは早速新システムの召喚を試みるも……
「あ、イベント踏む必要があるやつだこれ」
「そんな上手い話ないかぁ」
「でもこれなら、私はお昼の時間まで付き合えるよ」
やらない手はない。
あたし達はお昼時間ギリギリまでWBOのイベントを踏んだ。
お昼ご飯になっても帰ってこないあたしを心配して出張っていたお母さんだが、ハヤテ復活の手がかりを探すためと言われたらそこまで怒らなかった。
それはそれとして、宿題に一切手をつけてなかったあたしにはお小言を告げるのだった。
とほほ。




