表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Atlantis World Re:Diverーバグから始めるVRMMOー  作者: 双葉鳴
【ハヤテの章③】ゲーム内生活10日目【AWO】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/251

74話 こそこそアルプちゃん

「おや、困り事かな?」


 

 失意に暮れる【トキ】の耳に届いたのはどこか飄々とした女の声だった。

 友達のものではない。

 しかし聞き慣れた、友人のものである。

 黒い髪を靡かせ、くびれた腰つき。

 10人いればその10人が目を奪われる日の終着点がそこにあった。

 それにしては周囲からの反応は皆無だ。


 まるでその場に突然現れたかのように、周囲はこちらの騒動に耳を傾けない。

 不自然な光景だった。


 先ほどまでは自分たちもその雑踏の一部。

 だが今は?

 まるで切り取られた空間の中で話をしている感覚に陥った。



<アイディアロール>

トキ  :失敗

ミルモ :失敗

リノ  :失敗



「誰?」


「トキっち知ってる人?」



 当然、二人は知らない。

 初めて会う人物だ。


 しかし【トキ】には覚えがある。

 何せこの少女に導かれて【トキ】は『Atlantis World Online』に赴いたのだから。


 しかし、名前が出てこない。

 顔は朧げながらに覚えている。

 喉元まで出かかった言葉は、口元で消えていく。



<知識ロール>

 トキ  :成功

 ミルモ :失敗

 リノ  :失敗



「親友である僕を忘れちゃったかな? トキ君」



 向こうは自分を知っている。

 そこでようやく、時の中で記憶がはっきりと浮かび上がった。



「アルプちゃん。どうして?」



 それは別れたきり、ずっと音沙汰になっていた学校のクラスメイトの存在だった。

 だがその前後の記憶がない。

 クラスメイト、幼馴染。

 そのどれかであったという記憶以外の結びつきが欠如していた。



「ああ、よかった。覚えていてくれて」


「あれから、私の望みは叶ったよ。その件に関しては感謝している」


「こちらこそ。計画が大きく進んだ。全て君のおかげさ、感謝するよ」


「計画……? 一体なんの計画を立てていたのか聞いても?」


「構わないけど……ここでは人目が多いね。少し静かな場所に行こうか」



 黒髪の少女【アルプ】が手を振るう。

 それだけで、世界から音が消えた。

 否、消えたのは音だけではない。

 自分たちの足場がなくなってしまったかのような錯覚に陥った。

 まるで宇宙空間に浮かんでいる感覚。

 だが不思議と呼吸はできていた。


 【トキ】と【アルプ】以外がその場からかき消えてしまった。

 そこには先ほどあった町並みも、プレイヤーの全てがいない。

 たった二人だけの空間が形成されている。



「ミルっち、リノっち!」


「ログアウトしてもらっただけだよ。別に殺してはいない」


「どうしてそんなことするの?」


「少し、鬱陶しかった。それだけじゃだめかい?」


「私の親友だったのに」


「ではこうしよう。少し妬けてしまった。トキ君の親友は僕だけでいてほしかった。それではだめかい?」


「えっと」



 自分たちはそういう関係であったか?

 時は必死に過去を思い出す。

 しかし【アルプ】に関する記憶はなんら思い浮かばない。

 本当に目の前の存在は自分の知り合いなのか?

 不安だけが胸の奥から去来する。



「アルプちゃんはあたしに何をさせたいの?」


「やってもらうことは完了した。随分と前倒しで事が進んだ時は思わず笑ってしまった。盟友め、あれほど口ではそこまでやる気がないと言っておきながら。蓋を開ければこれだ」


「その盟友というのはハヤテのことを言ってるの?」


「そうだな。本人は否定しているが、そのハヤテだ。僕の用がある本人はいっそ快い返事を返してくれないがね。いっそ君を人質にしてやる気を出させるという手も考えたものさ」



 ゾッとする。

 語りかける口調はフレンドリーさそのものなのに。

 扱い方が親友に対するそれじゃない。

 まるで自分が生贄にされてもなんの感情も湧かずに処理しようとする恐ろしさを感じた。



「|◉〻◉)えいやー!」



 ズブッ!



「アッヅ!」



 が、そこへ。

 気が抜けたような掛け声と共に【レイ】が飛び出してくる。

 【アルプ】は完全な不意打ちをお尻で受け止めて、その場でもんどり打って転び回った。



「|◉〻◉)大丈夫ですか、トキちゃん。僕がきたからにはもう大丈夫ですよ」



 シュッシュッと三又の槍をスイングする【レイ】。

 そんな様子を見て、先ほどまで体を硬直させていた恐怖は完全に消え去っていた。



「レイちゃん! ログアウトさせられたんじゃ?」


「|◉〻◉)ノ僕もよくわかってませんが、トキちゃんの持ってた幻想装備に呼応して空間を繋げてくれました」


「この装備に、そんな力が?」


「まいったまいった。そうか、盟友め。そんな仕掛けを施していたか。ここなら邪魔が入らないと思っていたが、油断ならないものだ。いや、これは誘い出されたか。全く、何年経っても手を煩わせてくれる」


「お尻大丈夫?」



 若干涙目の【アルプ】に【トキ】は同情の声をかけた。



「慰めは不要だとも。それよりも君は今の自分の境遇をどうにかした方がいいんじゃないのかな?」


「ログアウトできないのってアルプちゃんがやった事なの?」


「ああ、君には【ハヤテ】に頼み事をしやすくするための人質になってもらいたくてね。しばらくの間は不自由な真似をさせてしまうが命までは取らないと約束しよう」


「じゃあ、約束事が終わるまで、あたしはゲームの中?」


「そういうことになる。しかし彼がその約束を飲んで倉田のなら、無事解放しよう」


「別に解放してくれなくてもいいよ」


「え゛っ?」


「えっ」



【アルプ】は本気で理解できないと【トキ】を見る。

【トキ】もまた。どうしてこんな最高の環境をわざわざ手放さなきゃいけないのか、本気で理解できないと聞き返した。


 なんならこの環境を『ずっとゲームで遊べる、ラッキー』ぐらいにしか思ってない。

 自分が不在の間、ハヤテが勉強もしてくれる。

 むしろ最高では? などと考えていた。



「|◉〻◉)トキちゃん……僕としてはみんなと一緒に遊びたいのでずっとこっちにいられるのはちょっと」


「ああ、うん! AWOでも遊びたいよね。でもここにいる【アルプ】ちゃんが解放してくれないからなー、困ったなー」


「そうだよ、お魚君。彼女は僕の大事な人質さ。むしろAWOに出向かれては困ってしまうんだ」


「|◉〻◉)あ、ごめんなさい。話聞いてませんでした」


「………ッ!!」



【レイ】は話そっちのけでアイドルステージを展開し、アイドル衣装を纏ってサイリウム芸を分体に踊らせて場を盛り上げる練習をしていた。

【アルプ】の眉間に血管が浮かび上がる。

 普段はどこかクールな【レイ】は、ことここにおいてはっちゃけ倒しているようにさえ見えた。

 なんあらこちらが素なのかもしれない。



「レイちゃん、流石にそれは失礼だよ」


「|◉〻◉)だってこの人のお話って自分勝手で、且つ中身が何もないんですもん。お話聞くの疲れちゃった」


「ごめんねアルプちゃん。レイちゃんもうおねむだって」


「|ー〻ー)すやぁ」


「あ、もう寝てる! 寝るのはやっ! はやわざかな? どう思う? アルプちゃん!」


「いい加減にしろ!」




 ぶわり!

【アルプ】の肉体が隆起し、弾ける。

 本来なら飄々とした態度を崩すことの方が珍しい【アルプ】、もとい【ナイアルラトテップ】はその正体をあらわにし、威嚇した。


<正気度ロール>

レイ  :確定的クリティカル

トキ  :確定的クリティカル



「わ、アルプちゃんが化けた」


「|>〻<)こわーい」



 全く怖がっていない。

 なんなら正気度が削れた感覚もない。

 見慣れた風景。

 それぐらいの対応をされて、思い至る。


【アルプ】はずっと【トキ】を【ハヤテ】の器としか思っていなかった。

 だが違うのではないか?

 以前出会ったときは器になるかも怪しいほど、脆弱で脆いという感想しか持てなかった。


 だが今はどうだ?

 完全に『神格』に対して耐性を持っている。

 彼女もまた【アキカゼ・ハヤテ】の因子を引き継ぐものなのではないか?

 ずっと【アキカゼ・ハヤテ】の代わりはいないものだと思っていた。

 だが違った。

 ずっと見逃していた。



「興が逸れたな。今日はもう帰る」


「|◉〻◉)ノあれあれ? 僕たちに恐れをなして逃げ出しますよ?」


「レイちゃん、あんまり威嚇しちゃダメだよ? アルプちゃん、すごく怖い顔してる」



 すごく怖い顔。

 普通ならば恐怖に慄き、命を乞う風貌をしているのに。

 少女【トキ】からすればその程度でしかないのだ。


 格が下がった。

 まるでそう言われてるかのように【ナイアルラトテップ】は笑いだす。

 人間の発生期間とは異なる音が、空間にこだました。

 その音を【トキ】はAWOに内包されているはずの【収音】スキルで拾い集める。



「いいね、アルプちゃん。君、音楽の才能あるよ!」


「何を言っている? 我が音楽? そんなくだらないことに勤しむ時間など……」


「時間ならいっぱいある。そうでしょう? ここはゲームのなかだよ。楽しまなきゃ。そうだ、あたしは今暇だからさ、アルプちゃん一緒に演奏しようよ。レイちゃん、幻想武器のストックまだある?」


「|◉〻◉)あるよー。はい」



【レイ】の差し出した卵は彼女の手元で犬の首輪に変形した。

 名前のところには『あるぷ』と書かれ、これがナイアルラトテップのための幻想武器であると、そう言われてる気分だった。



「ふざけるのも大概にしろよ!」


「|◎〻◎)あっ」



 それはナイアルラトテップの触腕に弾かれ、あっという間にぐずぐずになる。

 だがそれは何事もなかったように卵の形に戻り。すぐさま首輪の形状になる。

 そのばで飛び上がると、ナイアルラトテップの首と思われる場所に装着された。

 隙を与えぬ二段構えとはこのことか。


 名前のところには『ぽち』と書かれていた。

 まさかの格下げ宣言である。



「うがーーーーーーー!!」


「あはは、アルプちゃんが怒った」


「|◉〻◉)沸点低いですね。これだから上から見下ろすタイプの神格は嫌いなんです」


「そんなこと言わずにさ、このゲームの中で一緒に音楽をやる仲間なんだから」


「我を! 勝手に! 仲間に! するなぁあああああああ!」



 それから何時間も攻防を繰り返すが、どれだけの攻撃を繰り出しても【トキ】と【レイ】がダメージを受けることはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ