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Atlantis World Re:Diverーバグから始めるVRMMOー  作者: 双葉鳴
『幻影と幻装』<10日目・夜>

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73話 世界を渡るモノ

「いやー、久しぶりのログインだー」



 感極まるように【トキ】は声を上げる。

 すぐ横では妖精の姿をした【ミルモ】がそれに倣った。



「つっても、まだ2日しか経ってないんだけどね」


「それ! AWOの時間があまりにも濃密すぎた!」


「二人とも、私、夜はお勉強の時間だって言ったよね?」


「またまたー。たまにはいいじゃん。明日のリノっちに任せてしまっても」


「トキちゃんはそう言うけどね? 大体徹夜して寝不足のままで迎える朝だよ? パフォーマンスは落ちると思うんだけど」


「お、言いますね? AWOでハヤテと出会って随分口達者になったじゃないの」



 【リノ】は顔馴染みの言葉に困窮した。

 実際にここでの対応とAWOでの対応は雲泥の差。

 感情をここまで表に出すこともなかったのだ。

 そういう意味でも、ハヤテの存在はリノの中で大きくなっていた。



「そ、それは。というか、こっちにはハヤちゃん来ないんだ?」


「ハヤテはWBOにアカウント作ってないしね。生馬の目を抜くほど慌ただしいログイン椅子取りゲームは新人には厳しいところでしてよ」


「人気サーバーは満席になるの早いもんねー」



 そうなのだ。WBOにおいてはログインの次に大事なのが入るサーバーによってやれることが異なるというもの。


 冒険サーバーはショップに割くリソースを大幅に減らし、探索マップが拡大している。


 一方で生産サーバーでは生産台の大幅増産、マーケットの拡大。探索範囲も生産に特化しているという明確な棲み分けができていた。


 プレイヤーに応じて遊び方が全く異なるWBOにおいて、この仕様がプレイヤーの衝突を緩める仕掛けになっている。



「今日は前回のクエストの続きでいいよね? モンスターの群れを間引きするってやつ」


「確かクエスト期間は7日だったよね? 受けたのはいいけど、途中でメンテ入って超焦った」


「それねー、AWOはメンテの間までって話してたけど、うっかりハマるところだったぜ」


「ねー、意外と面白かった」


「二人とも。クエストはいいけど食事は? 途中でEN切れるの目に見えてるんだから、買い足しとかないと」


「それはハヤテが……」



 【トキ】は振り返りざま、今まで通り妹にやらせればいいと口に出すが。



「トキっち、ハヤっちはこっちに来てないよ?」


「そうじゃん!」



 【ミルモ】の言葉で我に帰る。

 アカウントを制作していないということは、ゲームどころか冒険サーバーにもログインできないこと。


 WBOではサーバーごとにレベル規制がされていた。


 LV.0〜5   チュートリアルサーバー

 LV.5〜    メインサーバー

 LV.15〜50 生産サーバー

 LV.20〜50 冒険サーバー

 LV.51〜   エキスパートサーバー


【チュートリアルサーバー】

 新規プレイヤーに基本動作を教える場所。

 殆どアクティブモンスターばかりなので、レベルはすぐ上がる。

 初心者ほど先に行きたがるが、サブキャラ育成者ほど長く止まりたがる不思議な空間。



【メインサーバー】

 冒険の舞台となる場所で、メインストーリーを楽しむ場所。

 メインジョブやサブジョブを鍛える場合はここに来る必要がある。


【生産サーバー】

 メインサーバーでは補えない中級以上の生産を賄う場所。

 マーケットはどこでも使えるが、こっちのサーバーに店を持っていると他のサーバーにいる時でも自分の店の商品の並び替えができる商人専用サーバー。


【冒険サーバー】

 メインサーバーでは補えない強敵と稼ぎの良いクエストを揃えたサーバー(WBO一番人気)

 特殊ジョブの条件達成に指定されるモンスターがここにしかいないため、戦闘系ジョブの持ち主は自ずとここに足を運ぶことになる。


【エキスパートサーバー】

 冒険サーバーの敵が物足りない人向けのサーバー。

 課金コンテンツが充実しており、実質廃課金向けのサーバー。

 一度ここへ足を踏み込んだら、もう他のサーバーでは満足できない体にされてしまうとかなんとか?



「さっき自分の口から出した言葉も忘れてる?」


「AWOの居心地は良かったからねー」


「どうしよう、ハヤテがいる想定で話進めてた」


「そう言うことだろうと思ったよ。先にマーケットでお買い物して行こう」


「ゲッヘッヘ。蓄えはたくさんあるもんねー」


「え、いつそんなに稼いだの? 稼ぎが少ないから美味しいクエストをやろうってこれ受けたんだよね?」



 たくましい妄想力を持つ【ミルモ】の発言に【リノ】は訝しむ。

 確かに他のゲームでは序盤とは思えないくらい稼げたけど、WBOでそんなに稼げただなんて話は聞かない。

 メンテに入る前も、開けた後も【リノ】の所持金残高は減少していないからである。



「なにってハヤっちの持ってきたクエストが」


「ミルっち、あたし重要な事態に気がついた」


「どしたん? 急に真面目な顔して」


「今浮かれてるの、全部AWOの話だ。あたしたち、WBOでは特に稼げてないし、なんなら金欠だ!」


「な、なんだって〜!?」



 そんなおバカな二人に、リノはゆうつそうな顔を向ける。

 ここに【ハヤテ】がいたのなら、もう少し気苦労は減るだろうなぁ、だなんて。


 どのみちアカウントを作ったとして生産サーバーに引き篭もることは目に見えているだろう。

 けれども【ミルモ】も【トキ】も自分の都合で引っ張り出すに違いない。

 そのとき、自分はどちらの味方についてあげられるか。

 そんなことで悶々と悩むリノだった。



「え、嘘。WBOのポーション高くない?」


「相場の変動は特にしてないよ?」


「ハヤっちのポーションが安かった?」


「フレンド価格とは言ってたよね。そもそも被弾すらしなかったから使い心地も知らないけど」


「ハヤテのパッキング、おかしい性能してたもんね」


「お荷物が三人いる状態で、被弾を考えなくて良いってだけで随分助かったのを覚えてるよ」



 【リノ】はもしWBOで同じことができていたら、当分困らないで済むんだけど、と二人の顔をじっくり見ながら言った。


 被弾の原因である二人はそっと視線を逸らした。

 戦闘中に楽器を鳴らすと言うのは、ヘイトを非常に買いやすい行為なのである。

 何度それで【リノ】が攻撃を空振りしたか。

 両手足の指の数だけでは足りないほどに、煮湯を飲まされている。



「ハヤっちの作るご飯がまたおいしくて」


「ねー、次はどんなの出てくるんだろうって毎回楽しみだった」


「やっぱりハヤテ、ここに連れてこようよ?」


「うーん、でも絶対別行動すると思うんだよね?」


「システムが悪いよ、システムが」


「サーバーを分断しちゃってるからねー」


「リアルと同じ時間帯でやってるから、時間によって人数が偏るんだよねー」


「なので私たちの都合で冒険サーバーに連れてくるのが一番難しいと思うんだけど、そこんところどう思う?」


「そっか、こっちにはレイちゃん居ないもんね」


「|◉〻◉)僕がどうしました?」


「あれ、レイちゃん?」


「|⌒〻⌒)はい!」



 一堂が硬直する。

 どうしてAWOのNPCであるレッドシャークがWBOの世界にいるのか。


 世界に何かの思惑が流れ込んだのを知覚できるものは誰も居なかった。



「|◉〻◉)皆さんの姿が見えたので、懐かしくなっちゃって声をかけに」


「懐かしい?」


「|◉〻◉)はい。だって最後に会ってから多分かれこれ30年は経過してると思います。姿も変わっちゃって、最初誰か気づかなかったんですけど。名前を見て、やっぱり皆さんだって」


「ここ、AWOじゃないんだよ?」


「|◉〻◉)?」


「ごめんねレイちゃん。ここはあたしたちが遊んでたAWOの世界じゃなくて、WBOっていうまた異なる世界でね?」


「|ー〻ー)よくわかんないですけど、僕の寝所がこの街と繋がったので、起きてきたんですよ」


「起きてきたって、ずっと眠ってたの?」


「|◉〻◉)そこ含めてよくわかってないんですけど。これ、配っておきますね」



 レッドシャークの手から渡されたのはスキルパーツによって作られた幻想装備だった。


 当然、その中に【ハヤテ】の姿は確認されず。

 こればかり持たされても、肝心の【ハヤテ】がいないのでは、どうしようもないという感情が渦巻いた。


 兎にも角にも、これは一大事だと【トキ】は察する。


 どうしてWBOとAWOが繋がってしまったかはわからないが、これは世界を震撼させる大事件に違いないとさっそくログアウトをしようと思い、コンソールに手を滑らせて、本来ならログアウトできるボタンが消滅しているのを察する。



「ねぇみんな、ログアウトできる?」


「え、できるけど」


「もしかしてトキちゃんは?」


「あはは、あたし……どうやらログアウトできなくなっちゃったみたい」



 引き攣った笑みで【トキ】が答える。



「「えーーーー!!」」



 いつもの冗談だろうと【ミルモ】は観察するが、その困惑ぶりから本当にログアウトできないのかと察して【リノ】と一緒に叫ぶこととなった。


 今まで通り遊ぶのなら、特に困りはしないだろう。

 WBOにはHPが消失しても女神像前で復活できる。

 死亡が=消滅、ログアウトにならない。

 だからミスっても心配はないが、もしこのままログアウトできなかったら絶対社会問題になる。


 そこが心配でもあった。



「|◉〻◉)なにやらアクシデントが起きたようですね。僕でよければ力になりますよ?」


「ハヤテに連絡したいのだけど」


「|◎〻◎)マスターにですか? どうかなぁ? 疎遠になって30年も経ちますが」


「そんなに経ってるの? ハヤテがレイちゃんを放り出すなんて信じられないんだけど」


「|⌒〻⌒)マスターは最期の時まで僕と一緒にいてくれましたよ。けど、それから30年、ずっと一人で寂しくて休眠活動に入ってたんですよね」


「休眠活動? ちょっと待ってレイちゃん。あなた、あたしたちと出会ってから何年後のレイちゃんなの?」


「|◉〻◉)かれこれ100年は経ってますね。それがどうかしました?」


「えっ」



 なんでそんな未来の存在が、他のゲームにやってきて、堂々としてるの?

【トキ】は頭がどうにかなりそうだった。

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