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Atlantis World Re:Diverーバグから始めるVRMMOー  作者: 双葉鳴
『VR初めてのお使い』<10日目・昼>

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66話 消去したい記憶

『みんなー、聞いてくれてありがとー! 以上、フェアリーテイルでしたー』


「ヨシ、集音完了」



 マリン達の演奏が終わり、観衆が散り散りになるところでお姉ちゃんが周囲の音を拾う作業を終えた。

 ここから先はなんの練習もしていないぶっつけ本番。

 緊張でガチガチになる私がいる。


 無論、人に怯えてるわけじゃない。

 失敗を恐れてるわけでもない。

 ではなぜか?

 衣装が少し際どいからだ。


 スカートは慣れた。

 しかし丈の短いセクシーな衣装は話が別だ。

 私が望んだ布面積が多いアイドル衣装はお姉ちゃん達に「ナンセンス」の烙印を押された。

 だからって、マーメイドファッションはどうかと思う。


 貝殻のブラオンリーは流石に痴女の領域じゃない?

 パレオありとはいえ、それが雰囲気的に合っているとはいえ。

 お姉ちゃんが盛ったサイズのお胸だからこそ、それが合うというのは若干違うような気がするのだが。



「ほーら、笑って。そんなに不貞腐れてるとお客さん楽しんでくれないよ?」


「誰のせいだと思ってるの? こんなのただの痴女だよ」


「チッチッチ。ハヤっチハわかってないねー。こういうのはリアルじゃないアバターだからキレるんだよ。別にリアルで顔出し、実名でやれってんじゃないんだから」


「そうだけど……じゃあミルちゃんもやりなよ」


「なっはっはー! 私の体型でそのルックが似合うとお思いかね?」


「あきらめなよ、ハヤテ。ミルっちは幼児体型であることを気にしてるんだから。無理して着たって、指さされて笑われるだけだよ?」


「聞こえてるんだけどー?」



 お姉ちゃんはミルちゃんの非難の声を聞こえないふりで対処した。



「せめてインナーだけ! インナーだけ着させて! こんなの過激すぎて運営に通報されちゃう」


「いやいや、平気だって。あたし達はマーメイド。むしろこれくらいのルックスしてるプレイヤーなんてごまんといるから」


「違う意味で注目を浴びたくないんだよぉ!」



 アイドルとしてステージに立つのはよしんばいいとして。

 痴女としてデビューするのは違うって話をしてるんだよね。



「それよりも、私たちはなんてグループ名で参戦するの?」



 アキルちゃんがナイスな感じで話を逸らす。



「グループ名? 普通にミンストレルソングでよくない? メインは楽曲で。でもそこにハヤっちやアキっちのアカペラが入る感じで」


「うーん、無難」



 お姉ちゃん達がそこは冒険する気はないみたいだ。

 あくまでもゲームなんだから楽しもうって感じ。

 私は黒歴史を紡ぐ覚悟を持って歩もうっていうのに、呑気なものだ。

 そんな話、今初めて聞いたんだけど?



「アカペラって言ったって」


「大丈夫よハヤテ、お姉ちゃんを信じなさい。それに、ここで注目を集めればきっと場面は好転するって。みんなが奇異の目で見てこなくなる。どうせあたし達はこの中じゃ、名前も知らない誰かでしかないんだし。気負わずにいきましょ」


「そうだけどー」


「それじゃあ、レイちゃん。ステージよろしく」


「|◉〻◉)ノ はーい」



 ズゴゴゴゴ!

 マリン達の路上ライブとは異なり、かなり本格的なステージが出来上がる。

 そこの舞台袖に待機する私たち。

 これでもか! と注目を浴びて今から心臓が痛い。

 ゲームだからそんな緊張あってないようなもんだけど。



「うー、緊張する」


「観客はかぼちゃだと思いなさい」


「人が怖いとかじゃなくて、この格好が慣れないって意味だよ!」


「そこは、どんまい」


「絶対このことブログに書かないから!」


「大丈夫だよ、ハヤテちゃん。そこはうまい感じでフォローするから」


「アキルちゃんが裏切ったー!」



 私は咽び泣いた。

 そんな私を捨て置いて、ミルちゃんがさっさとステージを始めてしまう。


 今は恥ずかしがってるけど、始まってしまえばすぐにどうでも良くなるからと言わんばかりだった。



「皆さーん、今日はあたしたちの音楽を聴きにきてくれてありがとー」



 物怖じせず、ミルちゃんが呼びかける。

 さっきまで奇異の目で見られていたことなど忘れてしまったかのように呼びかける。

 さすが路上ライブをやって生きていこうってメンタルの持ち主だ。

 つよい。



「だれ?」

「さっきの妖精の子?」

「やっぱりあれ含めて演出だったんだ?」

「どんな演奏をするんだろう」

「ちょっと聞いてみようかな」



 道を行き交う人々は立ち止まり、わざわざ前に出てきたミルちゃんに注目する。



「私以外の路上ライブ?」

「ステージまでまで本格的」

「誰かプロデューサーがいるのかな?」

「わかんないけど」



 演奏を終えて次の場所に向かおうとしていたマリン達が足をとめた。

 私たちのステージに興味を示したようだ。

 そのまま言ってくれてよかったのに!



「|◉〻◉)ハヤテさん、またステージが出てきましたよ」

「気になるかい?ルリーエ。未来のライバルの登場にワクワクするね」

「|◎〻◎)別に僕は負けませんけどね」



 そこには前世の私の姿もあった。

 ルリーエを率いて、やたら焚き付けている。

 20年前と聞いていたけど、まだR⭐︎U⭐︎R⭐︎U⭐︎I⭐︎Eは結成してないのかな?

 私の知っている歴史と異なる。

 だが、随分と懐かしい景色を垣間見た。

 音楽がなる。

 お姉ちゃんのハープに、収音機能で集めた生活音がメロディを奏でる。


 私はそれに合わせて声を上げた。

 アキルちゃんが低音を担当し、上手くハモる。


 最初は穏やかに、やがて激しく。

 喉が枯れるほどに声を張り上げて。

 いつしかハーフマリナーの空中遊泳も交えて。

 ステージを飛び抜けてのアカペラを披露する。



「ラーラララー♪ ラララ、ラーラ、ラーラ、ラッラー♫ ラララー、ラララ、ラーラーラーラー、ラーラーラーラーラー♩」



 アカペラで、第一世代がこぞって遊んだRPGの戦闘BGMを口ずさんだりもした。

 これに気がつくプレイヤーはあまりいなかったが、前世の私には無事に届いたようだ。

 往年のRPGの名曲は、時を超えても胸を打つものだ。



「へぇ、これは。彼女は見た目通りの年齢ではないのかもしれないね」

「|◉〻◉)そうなんですか?」

「まだ確証じゃないけど、少し興味が湧いた。彼女達はなんてグループだろう。名前ぐらいは覚えておきたい」

「|ー〻ー)そういえば、まだ名乗ってませんね」



 ピコン!

 <アキカゼ・ハヤテの断片を獲得した>



 これが目的か。

 私が過去をなぞる気がなくても、レイちゃんがそれを許さない。

 まるで何かの因果に囚われてるように。

 私はその後も断片を獲得し、トータル10個になった時、異変が起こった。


 すると、空間がぼやける感覚があった。

 これで元の世界に戻れるのか?

 そう思った時。

 それは空間の中からぬるりと現れた。



<warning!>

 ティンダロスの猟犬Aが現れた

 ティンダロスの猟犬Bが現れた

 ティンダロスの猟犬Cが現れた

 ティンダロスの猟犬Dが現れた

 ティンダロスの猟犬Eが現れた

 ティンダロスの猟犬Fが現れた

 ティンダロスの猟犬Gが現れた

 ティンダロスの猟犬Hが現れた

 ティンダロスの猟犬 I が現れた

 ティンダロスの猟犬J が現れた


 いっぺんに来た!

 その数十匹。


 先ほど獲得した断片の数とまんま一緒。

 これには私たちも予想外。

 いや、普通に過去介入に関してはもっとしてるので、この程度でいいのという感想だ。


 恥ずかしいステージを終えて、それでおしまいと思っていた私たちは頭を殴りつけられた気分だった。



「ふむ、何かのトラブルかな?」

「|◉〻◉)参戦します?」

「放って置けないね。あたし達も参加するよ、ユーノ」

「えー、なんか強そうだよ?」

「それでも見捨てて置けないよ! それにいい演奏も聞けたしね」

「それもそっか」


 そして一般プレイヤーを巻き込んだ戦闘が始まった。

 私たちの音楽を伴奏にしながら。

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