65話 突発的アイドルバトル
「幻想スキルが鍵を握る、ねぇ」
そうぼやくお姉ちゃん。
「そうだったらいいなって発言だったんだけど」
「いや、それしか考えられないよ。それを踏まえた上で、今何がセットしてあるか。今まで何を覚えたかを明るみにする必要があるわね」
「おー」
私は「その通りだ」とお姉ちゃんの提案に拍手する。
私からは特にめぼしいものはない。
ただ、セットから外した調理台とテーブルセットがあるくらいだ。料理教室を入手しちゃった後ではねぇ。
演奏(1)
自動演奏(1)
鍛治小屋(1/5)
料理教室(1/5)
異界侵入(1/4)
「次はあたしか。まぁハヤテとそうそう変わらないんだけども」
音律自在(1)
二重奏(1)
鍛治小屋(1/5)
料理教室(1/5)
異界侵入(1/4)
「お姉ちゃんのは音楽に幅を持たせるのだね」
「絶対音域の仕業じゃないかって言われてるあれだね」
「絶対音域?」
「音がドレミファソラシドで把握できちゃうやつだね」
「おー、すごい」
お姉ちゃんの特技を知って、アキルちゃんが絶賛する。
今日出会ったばかりなので、幻想スキルも、なんだったらスキル構成も知らないからね。
よくその状態で遊べると思ったものだ。
けど今は改心して過去をあらためてくれている。
これから直していけばいいからね。
「そんじゃあ次はあたしだねー」
満を持して、とばかりにミルちゃんが躍り出る。
拡大撮影(1)
妖精眼(1)
鍛治小屋(1/5)
料理教室(1/5)
異界侵入(1/4)
「およ、何か知らないやつが生えてる?」
「報連相は大事だよ、ミルちゃん」
「いや、さっき気がついたんだって!」
「それって今の撮影による影響で生えたやつ?」
「多分そう!」
要領を得ない。普段ナァナァで過ごしてきた皺寄せがここで出ちゃった感じか。
これに関しては、私達にも非がある。
子供だからで許してきたが、今度からは厳しく躾けないと、こっちにまで被害が出そうだ。
「|◉〻◉)僕も出したほうがいいですかね?」
「できればでいいよ」
続いてレイちゃん。
ステージ召喚(1)
マイクスタンド(1)
調理台(1/4)
テーブルセット(1/4)
鍛治小屋(1/5)
料理教室(1/5)
「あれあれー? あたしが知らないスキルがあるぞー?」
先ほど追及されたのが頭に来たのか、告知漏れに対する反応を素早く見せるミルちゃん。
対してレイちゃんは特に悪気もなくステージを披露するつもり満々だ。
「|◉〻◉)見せましょうか? 僕のアイドルステージ?」
私だけが知っている、彼女の晴れ舞台。
っていうか、それって幻想武器によるものだったの?
ってちょっと待って。
もしかして幻想武器って……私が解放したギミックだったりする?
レイちゃんの記憶を呼び覚ました、だからじゃなく。
魔導書の幻影として覚醒させた結果、この世に新しく刻まれた?
だとしたら私は特大の戦犯じゃないか!
いや、違うな。
魔導書と幻影はこのゲームの根幹に根ざすシステムだ。
私が悪いわけじゃない。
ただのきっかけを作った。
その結果、たまたまこのアイテムが産みでた。
仕様。これは仕様!
必死に自分に言い聞かせ、責任の所在をGMに投げ捨てる。
前世から培ってきた処世術で心の安寧を取り戻す。
「こんな街中でステージを?」
「いや、確かにそれは悪目立ちしちゃうね」
「|◉〻◉)分かりませんか? 木を隠すなら森の中と言います」
「それは他にアイドルがいたら、隠れることができると言うやつだよね?」
そんなふうに話していると、そこには若かりしマリンが、特設ステージを召喚して、マイクパフォーマンスをする瞬間だった。
『みんなー、今日はあたし達のステージに来てくれてありがとー』
「! 急にアイドルのステージが?」
「さっきまで誰もいなかったよね?」
「まさかレイちゃん、これを予想して?」
「|◉〻◉)ふふふ、どうでしょうか?」
いや、彼女は知ってたな。
知っていて、この場所に導いた。
ここで私たちに何かをさせるために来たんだ。
彼女のアイドルになりたい願望のためか?
それとも私に魔導書のオーナーとしての断片を獲得させるためか。
何を考えているかまでは定かではないけど。
「って言うか、あの人。どこかで見たことあるな」
お姉ちゃんは件のアイドルを見ながらぼやく。
そりゃ見慣れてるはずだよ。
実の母親だもん。
いまだに同じアバターで遊んでるんだからすぐわかるよね。
いや、こんなに濃い日々を過ごしてると親の顔なんて霞んじゃうか。
普段見慣れてるお母さんとマリンの姿は違うからね。
「あれ、お母さんじゃない?」
「あ! そうだよ。うちのお母さんだ! 本当にアイドルやってるー。ミルっち、カメラ回して!」
「とっくに撮影開始!」
楽しいことにはとことん意欲旺盛なミルちゃん。
そういう星の下に生まれてきたのかな?
「うわっ。キレッキレのダンス! 歌もうまっ」
「お母さんの意外な特技だねー」
「ハヤテちゃんとトキちゃんのお母さん、綺麗だねー」
「んふふ、ありがとう」
実の母親が褒められると言うのはなんだか照れ臭くもある。
私もお姉ちゃんも、妙なむず痒さを感じていた。
「|◉〻◉)それで、どうです? みなさん。僕たちもステージで対抗しませんか?」
「うーん」
「まだ衣装もないしねー」
「いや、そんな時の幻想武器ってこと?」
「あ、所持者の願った形に再現するんだっけ?」
「最大5個までか」
「衣装とマイクと、あとは?」
「|◉〻◉)賑やかしのサイリウムとかですかね」
「そこまでは用意できないよ?」
「え、これ私も参加する流れ?」
少し苦手意識を持つ集団行動。
半ば無理やり参加させられた挙句、さらにアイドル活動までやることになり、ようやく危機意識を覚えるアキルちゃん。
大丈夫、私も若干不安だよ。
「ボーカルはハヤっちとアキっちね」
「決めつけは良くない!」
「そうだそうだー」
私とアキルちゃんは強い意志で反論した。
「いや、でもハヤテ。実際音楽系統のスキルが充実してるのってあたしとミルっちだけなんだよ?」
「|◉〻◉)……」
「レイちゃんも! それでアイドル活動をやるとして、じゃあ歌は誰が?」
「私は地味だし」
「え、ハヤテちゃん自意識低すぎない? 地味さ具合では私も負けないよ?」
「それは性格の問題! 二人は十分美人だし、実際ハヤっちは歌がうまい」
「そんなことない気がするけど」
「証拠!」
ミルちゃんが突きつけてきたのは、過去にブログに掲載した私たちの合唱だった。
あの時はなんだか楽しくて口ずさんでしまったものだ。
ミルちゃんの音楽と、お姉ちゃんの統率力。
それが一つになっていた。
私だけじゃないと言う安心感が緊張をほぐしてくれたのだ。
それを全員で視聴して、私以外の全員が「なんでこんなに美声を持ってて自信がないんだ、こいつ?」みたいな顔をする。
「なんだよー、自信がなくて悪いかよー」
「これはスパルタで行くしかないね」
「ハヤテ、覚悟を決めなさい」
「|◉〻◉)マスターの、ちょっといいとこ見てみたい!」
「ハヤテちゃん、私も覚悟決めるから、一緒に頑張ろ?」
なぜかそう言うことになった。
ぐぅうう!
私は生産職なのに!
アイドルになるつもりなんてこれっぽっちもなかったのにぃ!
解せぬ!
「そこであたし達は、あらためて敵のリサーチが不足していることに気がついたわ」
「敵って、お母さんだよ?」
「今は敵だよ、ハヤっち。特に過去から元の世界に戻るためには、ここでアイドルコンサート勝負で勝つ必要が出てきた」
「そんなルールないよ? 元の世界に戻るのはここの世界にしか存在しない食材でお料理を作ることだから。アイドル関係ないから」
「わかってないね、ハヤテ。今のあたし達はアウェイ。ここで実力を証明することによって、周囲に話しかけやすくすることって大事なことなんだよ?」
「わかってないのはお姉ちゃんだよ。なんでわざわざ歌う必要があるの」
「それを聞いちゃう? もちろんそこにあたしの幻想スキルが関わってくるからだよ。知ってた? ここにきてから遠巻きにあたし達に関与してくる人って限られてるの」
「えっ」
それは知らなかった。
なんだかんだでよくみてる。
だからって私はアイドルはやらないからね?
「たとえば?」
「ハヤテがマーケットに出品できたインゴット。あたし達も当然出品した。けど、誰も買い手がつかなかったの」
「私だけ、その現象を引き起こせた?」
お姉ちゃんは頷く。
理由は定かではない。
だが、因果関係は知っていた。
シェリルは前世での娘だった。
そしてマリンは孫だ。
私以外にその関係性を知っているのは……この世界にいまだに根付く神格、それに連なるNPCか。
レイちゃんをそっと見る。
「|◉〻◉)b」
サムズアップなんかしちゃって。
本人が乗り気だからって、私たちを巻き込む必要はないと思うけどね。
けど、まぁ。
それが元の空間に戻るための近道だって言うのなら。
一肌脱ぐしかないのかなぁ。
とほほ。




