59話 ミスリルを求めて
「小屋しまうよー」
話し合いはまとまり、これから鉱石を取りに行くことが決定。
目標数は20個。
これだけあればこのメンバー+1個の髪留めを作れると聞いたからそれから先は作ってから集めようと言うことになった。
先に報酬を与えることで全員のやる気を引き出すパターンの場合はこの方がいいと教えた賜物だろう。
「この小屋、片付けちゃうんだ?」
アキルちゃんがもの寂しそうに言う。
「スキルをセットしておけばどこでも出せるよ」
「なお、このメンバーといるとき以外は無理!」
「生産台は少なくても四人以上の幻想武具が必須なんだよね」
お姉ちゃんが自慢げに言った。
私もそれに補足する。
一定数のメンバーがいないときは利用ができない。
ログインを強要するつもりはないが、セットしたプレイヤーが来ないことには満足に自分の遊びを選べばいと言うのは不便でもあった。
「あくまでこれはフレーバーアイテムだから」
「聞いたことのないものだと思った」
「やっぱりそうなんだ?」
先ほどの一件以来、アキルちゃんもミルちゃんも距離の取り方を覚えたように思う。
わがまま児童が二人。同じ空間に入れたらどうなるかは火を見るより明らかだ。
お互いの意見を知って、少しづつ歩み寄っている姿勢が見えるのは大きな成長だよね。
「そうなの、ハヤテ?」
「掲示板でも聞いたことないし、お母さんも知らないって。レイちゃんの齎した能力じゃないかって見解が」
「そういえばレイっちは知ってるって言ってたもんね」
「|ー〻ー)知ってるだけですよ」
プレイヤーが知らなくて、NPCが知ってる時点で仕込みだって言う話だよ。
少なくとも、この20年間未発見だったことを考えるに、間違いなくネクロノミコン関連。
そのネクロノミコンの大元が、前世の私が残したブログだもんなぁ。
みんなが知らなくて当たり前か。
あれはフレンドさんに向けたものでしかなかったから。
小屋がその場で小さくなって、その場に緑色の卵を五つ残した。
「おいで」
その一言でそれぞれの手元に卵が帰ってくる。
フレーバーアイテムは、手にしたプレイヤーに帰属する。
これを他社に渡せるのは、多分レイちゃんがその場にいる前提でスキルパーツの時のみ。
思い返せば情報の発信源はいつだってレイちゃんだった。
パッキング中でもその能力を発現していたことから察するに、パーティに参加させていれば問題なさそう。
「わ、戻ってきた」
「一度卵にした後はプレイヤーに帰属するから、他の人の手に渡らないんだ」
「この状態でマーケットに出せないんだ?」
「これって一度卵にしちゃうともうダメなんだ?」
「スキルパーツの時限定で、トレードまでだよね、レイちゃん」
「|◉〻◉)ですねー」
カマをかけつつ、それに乗ってくるレイちゃん。
やっぱりそう言うカラクリか。
仲間意識を高めるためのもので、それ以上の富を得るためのものではないと。
いや、十分ありがたいけど。
「不思議な体験だった」
「不思議な思いはこれからだよ?」
「そうなの?」
「そうそう」
「でもハヤテ、問題のモンスターが出てきたらどうするつもり?」
レイちゃん一人に戦闘を任せるのか? とお姉ちゃん。
「いつも通り、私たちはサポート」
「鉱石に反応するって話じゃなかった?」
「それなんだけど、アキルちゃんごと鉱脈をパッキングできないかなって」
「ハヤテ、それは……」
「あ、メガロドンごと封じ込めたみたいに?」
「メガロドン? 何それ」
「それは後で話すね」
話せば長くなるから。
アクアリアの話をするには事前条件があまりにも多すぎるからね。
「まずは【パッキング】について。これは【料理】から派生する調理した後の食事を封してお持ち帰り用にするものなのね?」
「うん【鍛治】にもあるよ。製品を制作した後は錆防止に密閉空間に入れる【梱包】がある。それと似たようなものなんだね?」
「そうだね。ちなみにこれ、プレイヤーごと取り込めちゃうって最近判明してね?」
「は? えっ」
「普通はこんな反応にもなるよ」
呆れた目でお姉ちゃんが見てくる。
「実はさっきアキルちゃんの目の前からミルちゃんを取り除いたのも【パッキング】によるものだよ」
「そう言う仕掛けがって、普通はそんな巧みに使えないよ!?」
アキルちゃんはこのゲームをやり始めてから半年だという。
周囲にこのようにスキルを拡大解釈するプレイヤーはいなかったらしい。
じゃあ知れてよかったじゃない、と説明を続ける。
「つまり【梱包】スキルは空間ごとプレイヤーも含めて閉じ込められると?」
「少しコツはいるけどね。それとこんなテクニックもあるよ。まずは実践してみるね」
私はこの場にいる全員を【パッキング】
その上で、ストレージから事前に【パッキング】しておいた料理を開封。
すると出てきたのは少し大きめな料理だった。
これはミルちゃんによる発見だった。
「え、何これ! 私今閉じ込められちゃってるの?」
「閉じ込めましたー」
「最初は驚くよね」
「でも数回やられると慣れるよ。パーティチャットだと二窓できるから」
「多少の要望はハヤテに通せるし」
「ねー」
こっちが昨日今日でどのような体験をしてきたかを知らしめる。
それはアキルちゃんにとってさぞかし不思議体験だったことだろう。
そして、今日以降はそれが当たり前になる。
私たちと一緒に遊ぶ限りはね!
「なるほど、こんな面白い毎日を送っていれば、私のわがままに振り回されるのはたまったもんじゃなかったね。ごめんね?」
「だからー、それはもういいっての!」
「ミルちゃん、一応言動を直そ? 年上だから」
「あはは、大丈夫。先に失礼な真似をしたのは私だし。そう言う風に接することでしか偉ぶなかったのも本当だから。ミルモちゃんだっけ?」
「ミルっちでいいよ」
「じゃあ、ミルモちゃん」
「硬いなー」
「ドワーフだから硬いくらいは慣れてる。でも叩いて伸ばして少しづつ柔らかくするよう努力するね。今はミルモちゃんで許して欲しいかな」
「しょうがないなー」
ミルちゃんは距離の詰めかたがバグってるから仕方ないよね。
それが良いところでもあるし、悪いところ。
全員が全員、お姉ちゃんみたいなタイプならいいけどね。
「さて、安全策も通達したところでレッツゴー」
「でもハヤっち、途中でお腹空いたら……」
ストックはない。けれどついさっきあることが判明していた。
それは家事専用の小屋を出現させている間、他のスキルを発動できないか? と言う思考実験の賜物で。
「それは大丈夫。調理台、鍛治小屋発動中でも出せたよ」
「えっ」
「それってつまり?」
「合体して調理台を出現させてる間も、セットしたスキルは使用可能ってことだよね」
なんなら合体中でもセットの入れ替えが可能だったりする。
フレーバー帰属アイテムの有用性をここに見た。
「大発見じゃん!」
「つまり調理中もリノっちも戦闘が?」
「あー、そこはどうかな? リノちゃん武器として使いたがってたし」
「あ、そうか。あたし達みたいにスキルのみで戦ってないもんな」
「えっ、お姉ちゃんあのハープは弾いてる振りだったの?」
やべっと言う顔。
ちなみにミルちゃんも私から視線を外してる。
この二人、吟遊詩人はロール。つまりそれっぽく振る舞っていることが判明した。
結局はラクして楽しみたいだけと言うことが露呈してしまったな。
「そういえば【演奏】スキルから【自動演奏】が派生したけど、もしかしなくても?」
「持ってる」
「バレちゃったね、トキっち」
「まぁ別に咎めはしないけど」
「ハヤっち、好き」
「はいはい」
そうやって抱きついて好意を見せれば私が許すと思ってるようではこの先ひとつも場は好転しないよ?
半ば折れつつ、探索を始める。
「|>〻<)僕は泳ぎながら進みますね」
「スカートの中、見せないようにね」
「|◉〻◉)!」
「そうじゃん、普通に歩いてで良くない? エンカウントはまた別なんだから」
「|///〻///)そうですね」
レイちゃんは自分がいつものサハギンスタイルじゃなく、中身の人型モードだと今更ながらに理解して恥ずかしがっている。
と言うか、本当に不本意だったんだろうね、今の状態。
ミルちゃんの記憶を叩き込む角度が悪かったのかな?
それはさておきダンジョンへ。
中は少し埃っぽくて薄暗い。
足元は岩が隆起したかのようなゴツゴツしたもので、ほんのりと湿っている。
油断すれば滑って転びそうだ。
奥の方からひんやりとした風が入ってきて、肌を通って流れていった。
「ダンジョン、くるの初めてかも」
「WBOにはなかった?」
「あったけど、ここまでリアルじゃないから」
「だねー」
「みんなは普段はワンブリ民なんだ?」
「あ、うん。なんか長期メンテ中でね。じゃあその間AWOで遊ぼうってこっちきてるんだ」
「私が先に遊んでたのを、お姉ちゃんが後からね」
「へぇ、ハヤテちゃんはいつから始めてたの?」
「今日で10日目くらいですね。なのでちょっとだけ早いくらいです」
「10日目でこれなのかー」
アキルちゃんの表情が青ざめてるような気がしてるけど、きっと気のせいだな。
暗くて表情が見えてないのをいいことに先に進む。
薄暗い穴倉を、私たちはアキルちゃんの先導により進む。
地図は頭の中に入っているのだとか。
その上で地図情報を共有してくれた。
今自分がどこにいるのかわからなくなったら本末転倒だもんね。
今まではそう言う配慮にかけていたことを反省して、今は積極的に打ち出してくれている。
ルリ :うう、アキル……こんなに成長して
マリン :よかったね、ルリちゃん
だなんて時折入るノイズをやり過ごして。
ついに私たちはミスリルと思われる鉱脈の前にやってきた。
ここまで一度もエンカウントしてない。
だからモブはいないんじゃないか?と言う油断に大きく繋がったのだろう。
「じゃあ、念のため」
私たちごと鉱脈を【パッキング】
そこでツルハシを振るうアキルちゃん。
同時、
「待って! 何かくる!」
真っ先に気がついたのはミルちゃん。
妖精の直感、ナビゲートフェアリーによる導き。
周囲の空間が張り付いて、砕かれる。
それは巨大な手の形で顕現した。
「撮った! シャドウ/ハンド型! 耐久10000!」
これ、影の大陸にいたやつと同じじゃない?
耐久が尋常じゃないのも含めて強敵だ。
なんでこんなのがセカンドルナとサードウィルの中腹にいるのさ。
ならば影の箱も同様に……あぁ、だめだ今の私は天空の試練を受けてない!
称号スキル★光源操作を持ち合わせていないので、普通に対処できない。
かろうじて空は飛べるけど、前世のつもりで動き出すと、痒いところに手が届かないのがなんとも歯痒くある。
「うそ、ハヤテの【パッキング】内でも遭遇するの?」
「|ー〻ー)戦闘は任せてください」
「レイっち! 頼める?」
「|◉〻◉)あんなやつ秒殺ですよ!」
「よっしゃ! 勝てる! 勝てるよ!」
「私たちはバフを撒いておこう。アキルちゃん、その状態から自分の周囲に【梱包】かけられる?」
「やってみる!」
アキルちゃんは無事【梱包】に成功。
私はそれを素早くストレージにしまい込んで臨戦体制を整えた。




