58話 仲直りのプレゼント
「ハヤテはあたしが育てた」
「嘘つかないでミルっち。昨日会ったばかりで育てるも何もないでしょ。ハヤテは心の清いあたしの妹なの。育てたと言うならあたしの影響が大きいはずよ」
初手謎の奪い合い。
なんでお姉ちゃん達がそんなマウントを取り合っているのかといえば、おそらく今アキルちゃんの直面している面倒ごとに対して素早く察して仲直りに持って行った手腕を彼女達なりに誇ってくれているのだ。
そこは普通に友達で良くない?
師匠ヅラされてもね。
「えっと?」
「あの二人はいつもあんな感じなの。鍛治台を先に作っちゃおうか。おーい、二人ともこっちおいでー」
「ほら、ハヤっちはあたしを指名してくれた」
「ただ呼んでただけでしょ。家ではお姉ちゃん大好きって言ってくれてるもんね」
「|◉〻◉)愛されてますね」
だったらいいんだけどね。
どうにも功績を自分のものにしたくてたまらない欲の張り合いにしか見えない時点で嬉しくもなんともない。
「さてスキルは一つだけ外してー」
「生やすスキルはなんでもいいんだ?」
「欲しいと願ったものに形を変えるんだ。私一人で使う分にはこの卵一つで完成するんだけど、生産台関連は一人で完結しないでしょ? それで作ったものは基本的に販売、お客さんに譲ることが多い」
「うん、そうだね」
「その手のアイテムは基本的に4人以上必要な場合が多い。そこにレイちゃんも加わって五人。もし今回5人でそれが制作された場合、どうなるか私たちにも把握しきれてないんだよね」
「失敗もある?」
「それはない。ただ四人の時よりもグレードが上がる可能性もある」
「じゃあ一般のより?」
「設備が揃っているかもね。あ、それが確認出来次第調理台もパワーアップさせたいけどお付き合いいただける?」
「私は鍛治台を作ってくれるだけありがたいので、いくらでも協力するよ」
「やった」
一度心を許したのなら、話はスムーズに進んでいく。
こういう場合は一度相手側の立場に立って、相手の求めるものを優先させてから自分の要望を出すことで許可を取りやすい。
自分だけやって他の人には譲らないんだ? と心の狭さを皆に見せつけることができるからね。
同調圧力だって? 物は使い用ってことだよ。
まぁ前提としてミルちゃんが不満をぶつけてくれたのも大きくはあるけどね。
制作、そして随分と立派な鍛治用生産代が完成した。
気のせいか、それは一つの小屋だった。
「すごい! これだったら周囲の騒音を気にせず鍛治に専念できる!」
「嘘、四人だと台だけなのに五人だとお部屋もつくの!?」
「外に出たら普通に家立ってた」
「これ、調理用の台だと普通にテーブルセットも出てくるんじゃない?」
「その可能性は高いね」
新たな発見に興奮が隠しきれない一同。
そして当人であるアキルちゃんは。
「すごい、欲しいけど値段が高くて諦めてたあれもこれもある。流石にこんな場所を無料で使わせてもらうのは萎縮しちゃうかな」
「無料じゃないよ」
「え?」
私の返しに、アキルちゃんは目を丸くして驚いた。
「うん、無料じゃないね」
「お金、取るの?」
続くお姉ちゃんの言葉。
こちらの思惑をわかってますよって顔だが、果たしてどこまで真意を突き止めているのかね。
「お金は取らない」
「お金とっても良くない?」
「わかってないね、お姉ちゃん。お金をとったら私もお姉ちゃん達からお金をもらわなくちゃいけなくなるんだよ?」
「そこは姉妹割引で」
「軽くアベレージ10万以上は損してる計算になるけど大丈夫?」
今までの稼ぎではそれくらいあるだろう。
しかし食費で全損していいかとなると話はまた違ってくる。
「すいません、ナマ言いました」
「反省してるならヨシ! そう言うわけでお金は取らないけど、ここで生産したものには基本として料金を発生させて欲しくないの」
「うん、それくらいは。でも素材とかの費用は?」
「腕前を見るときまでは自腹。でも腕前を見て、私たちが気に入ったのなら全然採掘は手伝うよ? 素材の入手はそこでしてもらう感じでなんとかして欲しいな」
「そう言うことなら。でも、作るのはいいけど何を作ればいいの?」
手持ちの素材は銅や鉄。マーケットで購入した品質の低いものばかりであるという。
素材の量にもよるが、それだけで武器を作ることは不可能だと言われた。
「ならばアクセサリーはどうかな。髪留めとか」
「いいねー。ここは女子しかいないし」
「賛成!」
「|ー〻ー)僕の髪にアクセサリーが?」
「レイちゃんも海藻を巻き付ける以外のオシャレしたらいいんじゃないかな?」
「|◉〻◉)あれは別にオシャレじゃないんですよねー」
じゃあなんでワカメを髪に巻いてたの?
ゴムがわりに髪を巻いてたのかな?
だとしたら独特なファッションセンスだと思う。
アキルちゃんはすぐさま制作に取り掛かり。
ものの数分で一つ作り上げた。
「へー、アクセサリーってこうやって作るんだ」
「髪留めは基本的にデザインに拘らなくていいから。制作はスキル任せにできるから、私が関わるのはデザインまでなんだよね」
あとは手順に沿って金属片をハンマーで叩けばいいだけらしい。
デザインによって強度は大きく変わるらしいが、そこは金属を変えて耐性を増しているのだとか。
腕前を披露して、私たちの関心をひいてからはアイテムストレージに眠っていた過去の作品を取り出しては自慢する。
職人とは基本自慢したくてしょうがない生き物なのだ。
私も同様、美味しくできた料理はみんなに食べて感想を聞きたいし。
アキルちゃんは特に過去にうまく行った作品を持ち上げてはうっとりすると言う拗らせた趣味を持っていて。
「あ、そうそう。過去にこう言うのも作っててね。これはなかなか快作だったんだー」
「めっちゃ綺麗!」
「あーこう言うの憧れるね」
「お姉ちゃんの赤い髪に映えそう」
「プレゼントしてくれる?」
「金額によるかなー」
「あはは、ごめんだけどこれは売れないよ。初めてここまでできた記念の品だし、あと制作費用めっちゃかかってるし」
「残念」
「そこはほら、今度からは作って貰えばいいわけだから」
「お、そう考えたら希望はあるのかな?」
「素材入手の難易度バカ高いよ?」
「そこはお母さんからのコネもある感じ?」
もりもりハンバーグおじいちゃんのクランは素材をゲーム内からかき集める特殊なクランだ。
その子供のルリおばちゃんも同様にそこに所属している。
なら子供のアキルちゃんはどうやって入手しているかなど、一目瞭然で。
「あ、わかっちゃう? これはお爺ちゃんから孫特約でプレゼントしてもらったものでー」
「なんて言う素材か聞いても?」
「確かアトランティス鉱?」
あー、あれか!
アトランティス人にツルハシ打ち込んで採掘した。
あれがここでくるかー。
でもあれって99%ビームサーベルが出るって仕組みの素材じゃなかったっけ?
1%をひいてるのかな?
だとしたって強運にも程がある。
これは結構な数をもらっているな。
「孫特約といえば、あたし達もあるよ。ね?」
なぜかここでお姉ちゃんが張り合うように見せびらかした品が。
そう、スキルチェンジャーである。
「うちのお爺ちゃん、精錬の騎士のクランマスターをしててね。特約でもらったんだ」
「スキルチェンジャー! 一個20億はくだらないって言うあの!?」
「えっ、あたし達5個づつおねだりしちゃったんだけど?」
金額を後から知らされたお姉ちゃん。
5億のプレゼントをされて得意げにしていたら、私も知らない本来の金額を提示されて表情を青くさせていた。
お爺ちゃん、孫の前で見栄張って……
「100、億?」
「お爺ちゃん1億だって言ってたもん!」
「きっと孫の前で見栄を張ったんだろうね。もしかしてアトランティス鉱も?」
「それはなんて言ってもらったの?」
「入手難易度以外は珍しくないけど、いっぱい余ってるからあげるって、10000個」
あー、はいはいはいはい。
あれって単価1000万は下らなかったはず。
20年でどこまで入手しやすくなったかは知らないけど、相場によっては100億どころの話じゃないな。
「この話、もうやめよっか?」
「そうだね、あまりにも心臓に悪いもん」
「う、うん。親のコネが太いことだけ覚えとけばオッケー」
「ちなみにトキちゃんとハヤテちゃんのお爺ちゃんはわかったけど、ミルちゃんのお爺ちゃんはどこで何をしてる人なの?」
まるで自分より実家が細い相手を探すような目つき。
下を探して安心したいのかな?
このメンツでやめておいた方がいいと思うけどなー。
全員上位クランの血筋だよ?
「あたしもあんまりよく知らないんだよね。えっと、誰々を偲ぶ会のマスターをしてるって」
「もしかしてアキカゼ・ハヤテを偲ぶ会?」
「それだ!」
「トップクランじゃないの!? 実家の太さで行ったら一番よ?」
「今日お休みのリノちゃんとこのお爺ちゃんは『餓狼の遠吠え』っていうクランのマスターさんをしているらしよ?」
「あー、なんだかうちのお爺ちゃんが小さく見えちゃう」
そんなことは絶対にないと言い切りたいが、今の私がそれを言うのはお門違い。
そして今一番大切なことはそれじゃない。
実家自慢をしたところで、有利など取れないと言う現実を知るところからだ。
「それって実家がすごいのであって、アキルちゃんがすごいわけじゃないよね?」
「それを言われたら弱いけど」
「あたし達はまだ始めたばかりで偉くもなんともないから気にしなくていいよ」
「そう言うこと!」
「なので、これからみんなで凄くなっていこう? 実家を頼らなくてもやってけるようにさ」
「さんせー!」
「まずは実家越えか。できるかな?」
「やらずに諦めるなんてもったいないよ。と言うことで、これはパーティメンバーの印として配られまーす」
アキルちゃんが仲直りの印として制作した髪留めを全員に配り、つけてもらう。
その上でアキルちゃんが何かをうんうん唸っていた。
「やばい、作り直したい。全員が装備してるの見て、もっと手の施しようがあったんじゃないかって! でもそれをするのに金属耐久度が足りないし、あー素材! 素材があればなー!」
結局はそこに行き着くんだよね。
凝り性のところは料理も鍛治もそう変わらないのかもしれない。
あの素材があれば、あの調味料があれば!
そう言う事情はどこにでも通じるものだ。
「ちなみに要り用の素材はどういうの?」
「ミスリル! それもインゴットが大量に!」
「ミスリルなんてここら辺で取れたっけ?」
「隠しスポットがあるの! それが今日行こうと思ってたダンジョンなんだけど。手伝ってくれる?」
「お代はグレードアップした髪留めでいいよ?」
「私は作りたいだけだから! 全然それで!」
話はまとまった。
実際に作ってもらった髪留めは、私たちからすれば普通に可愛くオシャレなものだったが。
職人からすればまだ手の入れようはあると言うものだった。
お互いが納得した上で、採掘に向かう。
そこにはさっきまでの不満などどこにもなかった。
今度はそれで何を作ってもらうか。
皆はそこにしか興味が向いていないのである。
仲直りは成功かな?
やっぱり一度自分の得意分野を披露した方が話が丸くおさまりやすい。
何年経ってもそこら辺は変わらないものだ。




