45話 噂と真実
まずは素材の確保から。
ゲーム内時間では時間経過がリアルより早い。
事前にご飯を食べたのもあってか、ENの消費は緩やかで。
日が傾く頃には『命のかけらも』それぞれに100個ほど集まっていた。
これではどちらが業者かわからないくらいの稼ぎである。
偶然かどうかわからないけど、あれから水色ボールは現れた。
本当にレア個体かどうかはわからないが、もう冒険者ランクもCに上げられるほど。
上げないけどね。
私たちは特にランクを上げてどうこうするタイプじゃないし。
「これで当分はお肉料理に困らないね」
「でもこれ、【錬金】スキルを失敗したら『骨粉』に化けるんだよね」
「そうなの? 数を揃えてもダメなの?」
「今お肉が高い理由がそこにあるからね。全部が全部成功したら、そこまで高騰しないんだよ?」
私は『骨粉』の方が手に入らなくてマーケット頼りなんだけど。
他の人はそれはいくらでも手に入るからマーケットで価値がつかないんだよね。
だから市場に流れない。
本当に世の中ってうまくいかない。
シズラさんからはお肉と骨粉を交換するのだけはやめとけって言われてるから、完全に手詰まり状態。
失敗すればいいのに、なぜか成功するこの幸運が憎くて仕方ないったら。
駄弁りながらファストリアへ、露店街では『命のかけら』買取合戦が起こっていた。
やっぱりあの人たちはここに素材を集めに来た業者だったのかもしれない。
「お姉ちゃん、掲示板の方で何か噂ある?」
「どこ調べればいいのかわからなくない?」
横に並んで歩きながら、お姉ちゃんが頼りなさげな返事をする。
「なんか雑談系でもいいから」
「よしきた」
私たちはシズラさんの屋台で休憩しながら賑わいを遠巻きに眺める。
買取はそこら辺の屋台でも行っていたのだ。
平均アベレージの為せる技である。
「シズラさん」
「あらお帰りなさい」
「この騒ぎは一体?」
「あなたたちは外で珍しい色したボールに出会わなかった?」
「あったよね?」
「うん、いっぱいアイテムドロップした」
「そのドロップ品を安く買い叩きたいプレイヤーが集まってきてね」
「平日の朝から?」
「世間は大型連休だからね。全員が全員お休みというわけでもないけど、新規プレイヤーのお父さんたちが頑張っているのでしょうね」
あー、どこも大変なんだ?
それとなく、フレンドチャットで呼びかける。
一度設定したら部屋ごとに呼びかけるだけでいいのでお得なのだ。
ハヤテ :それって私達の保護者会も?
シズラ :それはないわ。誰も心配してないわよ、あなた達のこと
それはそれで酷くない?
シズラ :実際、私たちもあなた達がそこまで弱いとは思ってないし
ハヤテ :それは認めてくれてるって感じ?
シズラ :実際にあなた達のご両親が認めている時点で手出し不要なの
立場が弱いのを責めてくれるなと言われてしまった。
まぁうちのお母さんはこのゲームじゃ相当に有名人だしね?
内緒話はそこで途切れる。
お姉ちゃんが帰ってきたからだ。
「とりあえずハヤテに言われた通り雑談をさっと洗ってみたけど」
「うん、それで?」
「大体どこも水色のボールの情報は書き込まれてなかった」
「え?」
「それは変だね。あの個体が大量にドロップするって話じゃないの?」
「レア個体だったらと思ってたけど、あれは一体何だったんだろう?」
「じゃあ本当にボールから通常ドロップするって話だったの?」
「そうみたい」
え、じゃああの個体は一体何者?
そんな時、雑踏が割れる。
誰か有名な人でもきたんだろうかと私たちも身構えていると。
人垣が割れて出てきたのは、見知った顔だった。
「|◉〻◉)こんにちは」
「列車君じゃん!」
「この人が?」
リノちゃんだけは苦手そうに距離を取る。
「よーっす、列車君。元気してたー?」
「|ー〻ー)ぼちぼちですね」
「こんなところで珍しいね」
「|◉〻◉)今日はどこも混んでまして」
逃げてきたらしい。
「列車君も災難だね。ここで休んで行きなよ」
「|◉〻◉)いいんですか?」
リノちゃんをチラッと見る。
あまりよく思っていないことはその態度で一目瞭然だ。
「こっちきてこっちきて。一緒に座ろ!」
お姉ちゃんが強引に誘い、列車君が椅子に座る。
その時、湿った鱗がビチャッと椅子を湿らせる音がした。
リノちゃんはますます表情をこわばらせた。
「ごめん、私……」
やっぱり一緒に遊ぶのは難しい、とリノちゃん。
それはそうだ。
「|◉〻◉)あ、やっぱり嫌ですよね。ごめんなさい」
「えー、リノっちどうしたの?」
「ノリが悪いぞー」
この二人は、一緒に冒険をしたから耐性がある。
けど列車君はその見た目と悪臭からあまり親しみが持てないと多くのプレイヤーが思っているのだ。
「無理を言っちゃいけないよ二人とも。リノちゃんは初めて会うんだから」
「そっか。列車君は面白いやつなんだけど、知らなきゃ無理か」
「水の中では大活躍だったんだよー。私はそこで泳ぎ方とか教わったもんね」
「そ、そうなんだ」
「そうだ、列車君。パッキングされて、以降フレンドチャットでやり取りしてみては?」
「|◉〻◉)僕はどっちでも大丈夫ですよ」
「それ、ナイスアイディア!」
「ごめんね列車君」
私はその見た目に嫌悪感が出るなら、いっそ隠して仕舞えばいいと列車君をパッキングしてしまう案を提出。
満場一致で私は列車君をパッキング。
以降、フレンドチャットでのやり取りをした。
<ハヤテさんがリノさんを招待しました>
リノ :ここがパーティチャットかー
ハヤテ :いらっしゃい
トキ :リノっちも来たか
ミルモ :これで四人集勢揃いだね!
レッシャ:|◉〻◉)あの、僕ここにいていいんでしょうか?
ハヤテ :大丈夫だよ、ここは女子の集まりだし
ミルモ :そこ、大丈夫なところだったの?
トキ :聞く人が聞いたらダメなところだよ
ハヤテ :列車君て決めつけたけど、実は女の子だった最近知ってね
リノ :その人、女性なんだ?
レッシャ:|ー〻ー)こう見えて。実はこれきぐるみなんです
ミルモ :おもろ! 今日一のジョークだよ、それ!
トキ :すっごいビチビチしてるけど、え? きぐるみなの?
レッシャ:|◉〻◉)今はまだ脱げないけど、脱げる時が来たら見せるね
ハヤテ :中身はすっごい美少女だったり?
トキ :これは絶対中身気になるやつだ
ミルモ :何とか頑張って、今日脱げない?
ハヤテ :ミルちゃん、ブログのネタにするつもりでしょ?
ミルモ :バレたか……
リノ :ふふ
リノちゃんがようやく笑ってくれた。
少しでも列車君が馴染んでくれたらいいけど、こればかりは人によるからとしか言えないからね。
「それで、この後の予定なんだけど」
「あ、そうだね。稼いだお金で楽器買っちゃう?」
レッシャ:|◉〻◉)楽器、ですか?
「そ、実は私たちは音楽活動をこのゲームでやろうと思っているのでーす」
「でーす」
お姉ちゃんに続いてミルちゃんがドヤる。
「列車君、じゃ悪いか。もっと女の子っぽい名前にする?」
「いいね」
「それ考えよう。こっちはイメージで決めちゃったから」
「正式名称はなんていうんだっけ?」
レッシャ:|◉〻◉)レッドシャークです。かっこいいでしょ?
「見た目鯛だけどね」
「どこにもサメ要素なくて笑う」
「二人とも、失礼でしょ」
レッシャ:|ー〻ー)慣れました。どうせ名前負けしてるって言われますよー
「ほら、拗ねちゃった」
「ごめんて列車君」
「女の子っぽい名前といえば、レイとか?」
「イはどこから来たの?」
「AWO七不思議!」
お姉ちゃんとミルちゃんは揚げ足取りの達人かな?
言われたリノちゃんは顔尾を赤くしていた。
レイ :|◉〻◉)いいですね、気に入りました。今度から僕はレイです
「いい子! 絶対いい子だよこの子。仲良くしようね、レイちゃん!」
「よかったね、レイちゃん」
「何だよもー、みんなしてノリが悪いぞー」
「わかってないね、トキっち。むしろあたし達が悪者になることによって二人の仲を進展させたっていうね?」
「なるほど、必要悪?」
「もう、そういうことでいいよ」
リノちゃんはわかりやすいくらいにムスッとした。
「ところでこのアイテム、一体なんだろうねー?」
みんなで集まって、あの水色のボールが落とした『スキルパーツ(青)』について検証する。
レイ :|◉〻◉)あ、それは
「知ってるの? レイちゃん」
レイ :|ー〻ー)何でここにあるのかはわからないけど
それは色によって組み合わせることで全く異なるアイテムに変わるアイテムらしい。
本来なら深海フィールドのレアドロップらしいそのアイテムは……
レイ :|◉〻◉)それで僕は舞台衣装とか作りましたね
私たちにとって理想のアイテムを作る物だと判明した。




