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Atlantis World Re:Diverーバグから始めるVRMMOー  作者: 双葉鳴
『ミンストレルソング』<10日目・朝>
44/168

44話 レア個体

「なんか今日のフィールド人多くない?」


「それ思った」


「今日は平日だったよね?」


「普通に夏休みでもあるから」



 ファストリアの外、フィールドマップはそれなりに混雑していた。

 昨日の今の時間と比べて、やたらと人の姿を見た。

 


「珍しいねー、最近までは全然見かけなかったのに」


「AWOで遊ぶ同年代ってあまりいないと思ってた」


「見た目が若くても同年代ってことはないはず」


「あー、うちのお母さんもこっちじゃ見た目若い方か」



 私を作った時に、そう言えばお母さんと一緒に活動してたもんね。

 お姉ちゃんが思い出したように呟いた。



「私たちと同じくらいの時に作ったアバターらしいからね」


「えー、会いたい!」



 見た目の若い母親を一眼見たいとねだるミルちゃん。

 君のお母さんだってこのゲームで遊んでるでしょ?

 それとも彼女は1からアバターを作り直してる?

 ひよりさんの件もある。

 昔からのアバターを使ってる人は案外少ないのかもしれないね。


 と、そこでみんなには伝えてない件を私は思い出していた。



「そういえば、お昼のログインに、お母さんにこっちくるよ。親戚の子度と一緒だけど」


「へー」


「女の子?」


「かもって話は聞いてる。まさかこのメンツに男の子は連れてこないでしょ」



 困っちゃうでしょ、君たちだって。



「あたしたちの美貌でメロメロになっちゃう?」


「すぐにハヤっちに胃袋掴まれちゃうの間違いでは?」


「うん、ハヤちゃんのご飯は美味しいし」


「ちょっと、二人とも、それはなくない?」



 お姉ちゃんがポーズをとって参っちゃうなーって振りをした。

 しかしすぐにリノちゃんがからツッコミが入る。

 そこにミルちゃんが合流して、お姉ちゃんを攻めた。


 お年ちゃんにそんな魅力なんて魅力なんてあるわけがないと、ひどい言葉責めである。

 お料理を褒めてくれるのは嬉しいけど、お姉ちゃんをいじめてまで強調しなくていいからね?

 これログアウト後に私がひどい目に遭うやつだから。


 そして騒いでる最中であろうともエンカウントは起こるのだ。


 周囲が凍りつき、ハンマーで砕いたかのような描写と共に戦闘フィールドへ放り込まれた。

 この演出のおかげで、モンスターを奪い合わなくていいのはAWOのいいところだよね。


 世界は置き換わり、固定された空間にモンスターが躍り出る。



「スクリンショットぉ! 見えた! ボール二体! なんかひとつは属性が違うのかな? 水色っぽい」


「見ればわかるよ」



 ミルちゃんがスクリーンショット係を買って出て、見ればわかる情報を私に教えてくれた。

 もっとこう、耐久とか、弱点属性とかそう言うのを教えて欲しいな。

 ボールはボールでしかないと言われたらその通りなんだけど。



「耐久は?」


「今のあたしには見えなかったぜ!」



 それはおかしいね。

 前回は抜けたのに。

 たまたま震わなかっただけ?

 それとも舐めてかかってミスったか。

 まぁ所詮はボールなので、そこまで心配する必要もないか。



「威張ることか!」


「くるよ、リノっち」


「チェインするから斬ったらこっちにパスね?」


「あ、そうか」



 そのまま連撃の姿勢を解除し、構え直すリノちゃん。

 戦闘メインの子にとっては、この仕様はあまり嬉しくないかもね。



「待って、水色のどこかに行こうとしてる」


「逃げようって気かぁ!?」


「アイテム置いてけ!」



 そこまでムキにならなくたって、と思うが。

 前回はここから30発入れてようやくドロップしたのを全員が思い出していた。



「先にこいつから叩こう」


「合点! スキル発動【斬撃】」


「ナイスパス! 【パッキング】」



 私は水色のボールを周囲ごとパッキングしてしまう。

 メガロドンですら封印できた技術だ。

 ボールくらいどうってことない。



「お姉ちゃん、パス!」



 すかさずマーメイドモードで尻尾ビンタ。



「へーい、こっちこっち! ミルっち!」


「はいよー! この体格じゃ乗っかるだけで精一杯だー! ハヤっちパス!」


「乗っかるだけでもカウントされると思うよ、はーい、お姉ちゃん」


「だってさ、ミルっち」


「ならダーイブ!」



 そんなこんなで29チェイン。

 


「トドメ! スキル【居合】からの【斬撃】」



 リノちゃんの必殺の一撃で水色のボールは絶命した。



「ヨシ、逃げない方もやっちゃおう!」


「おー!」



 それから数分しないうちにもう一匹のボールもしばいて、私たちのリザルトが始まる。




 《バトルリザルト》

 戦闘時間00:04:32:09


 【ボール型/ノーマル:1】

 【ボール型・特殊/水圧:1】


 ▶︎チェインアタック:30HIT(+30%)

 ▶︎バインドサポート:+100%

 ▶︎ラストアタック :+500%


 <獲得ランクポイント>

 ハヤテ_3000

 トキ _3000

 ミルモ_3000

 リノ _15000

     


 ☆ドロップ

 命のかけら

 命のかけら


 ★レアドロップ

 スキルパーツ(青)




「なんかポイントめちゃくちゃもらえてない?」



 みんなそう思うよね。

 今回のバトルは少しおかしい。

 ボールは倒したところで稼げるのはせいぜいが150ポイントぐらい。

 これはチェインをした前提で、しなければ10ポイントにしかならないのだ。


 このポイントは冒険者ランクを上げるのに必須。

 最底辺のFからEに上げるのに大凡3000ポイント集める必要があるのだが。

 今の一回の戦闘でもうEに上げられてしまうほどの大盤振る舞いっぷりだった。


 そして最後に、通常ドロップに比べて出難い『命のかけら』を複数ドロップした点か。

 高騰が続いて買えないプレイヤーが運営にクレームを入れて、急遽出現したお助けモンスターとしての導入にしては不明瞭な点が多すぎる。

 その最たるものが獲得ポイントが高さに起因する。


 これは本当にお助けモンスターなのか?

 まるで序盤じゃ出くわさない中盤のエネミーに遭遇してしまった違和感しかない。

 駆け出しの私たちでも倒せる弱さで助かったのが唯一の救いか。


 こんなことは二度とないと思いたいが、だからこそ、このフィールドが賑わっていた理由も判明したな。



「それ! あとドロップ見た? 一回の戦闘なのに『命のかけら』めちゃくちゃ落ちてた!」


「これはガッポガッポですな」


「もしかしてみんな、この水色のボールを探しにここのフィールドに集まってきた?」



 ミルちゃんが笑いが止まりませんなーという顔をしている横で、リノちゃんが察した。

 いい観察力だ。将来探偵になれるよ。



「今は命のかけらが高騰してるからね」


「となると、それを買い占める業者か」



 それを聞いて馬鹿笑いをしていたミルちゃんも渋い顔をした。



「業者って?」


「素材を買い占めて値段を釣り上げてプレイヤーに売りつける悪徳業者だよ」


「あー、ワンブリにもそういう人いた!」


「あいつら、どこのゲームにも湧くからね。AWOにも出てきたか」


「そいつらが湧くとどうなるの?」



 お姉ちゃんが何もわからない顔で聞いてきた。

 これにはミルちゃんも苦笑い。



「市場が冷え切る。生産系プレイヤーはプレイヤー間のマーケットを主戦場としてるからね。そこから人が消えると、一気にゲームから人がいなくなる」


「やばいじゃん!」



 うん、生産職にとっては本当にピンチ。

 特にバトルスキルを持ってないと高い値段でも買わなくちゃ満足に遊べなくなるから。

 自給自足をできる人って限られてるんだよ。

 プレイスタイルって本当に人それぞれだから。


 遊ぶ時間が合わなかったり、そのままログインしなくなったり。

 色んな理由でゲームから人は去っていく。

 フレンド間の冷え切りなんてのは序の口もいいところ。


 けど市場価格の高騰はこの街限りの話じゃないんだよね。

 だってログインしてる全てのプレイヤーに起きてることなんだから。



「そればかりじゃないけど、生産系が立ち退いた街は本当に人がいなくなるよ。だってそこでは美味しいご飯もドリンクも置いてない。人が居つかなくなったら本当におしまいだよ。そこは何もないから、次に行こうってなるでしょ?」


「ハヤっちはやめないよね?」


「私の料理は趣味だよ。でもシズラさんは頭抱えてるかも。今後ドリンクも値上がりしちゃったりして」


「それは困る! おばちゃんの料理もドリンクも全部美味しいから!」


「あたしたちが業者から街を守るよ!」


「「「「おー!」」」」



 本当にフィールドに沸いたプレイヤーが業者かどうかもわからないまま、私たちは義憤に燃えるのだった。

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