41話 魔導書『お爺ちゃんのAWO散策日誌《ネクロノミコン》』
食事を終えて、私たちはもりもりハンバーグおじいちゃんからダンジョンを案内されていた。
「こうやって実際に中を拝見するのは初めてです」
ハヤテ :随分と見違えたね
「あれから階層も増えまして。部屋は横に広げてましたが、階層を増やすことでやれることも大層増えました」
私がいた時は素材不足で1階層を横に伸ばすので精一杯だったもんね。
ハヤテ :素材の方はどうにかなったの?
「人がやってきたので、そこから一気に。20年という年月でようやくマーケットに出回ってくるように」
「当初は独占と秘匿が横行してたから」
ハヤテ :ありゃ
「誰もがお義父さんほど気前よくとはいかなかった弊害ですね」
「それでもここまで大きくできたのは叔父さんの努力の成果だよ」
「ははは、そう言ってくれたら嬉しいね」
ダンジョン内ではグラーキが通常エンカウントボスとして徘徊している。
えげつないな。これが一般モブ?
ハヤテ :使役モンスターも随分と増えたんじゃない?
「今ではイタクァやクトゥグアの飼育方法が盛んですかね」
ハヤテ :あれが飼育できる時代か
「私はよく知らないんだけど、その二柱はそんなに強いの?」
「自然災害が意志を持ってるようなものだからね。放っておくと拠点が活動停止になるレベル」
「うわー」
うわーでは済まされないくらい身内から怒られたものだよ。
何もかも懐かしい。
「それよりもハヤテちゃん」
ハヤテ :何?
「いい加減パッキングの中から出てこない?」
ハヤテ :え、無理じゃない? 強制ログアウトされるのがオチでしょ
おじいちゃん二人が成す術もなくログアウトさせたれたの見てるんだよね。
そうなる可能性が高すぎるし、わざわざ表に出る意味がわからないよ。
「いや、変身後の僕やグラーキ、クトゥグアを直視しても正気を保ってられてる時点で平気じゃない?」
ハヤテ :そうなのかな?
「きっとそうよ。ハヤテちゃんの今の姿をおじさんに紹介してあげたら?」
うーん、それはどうだろうか。
昔の私を知っている人に披露するのは少しだけ恥ずかしくもある。
いや、今後こっちにもくる機会もあるだろうし、少しくらいいいか。
私は意を決してパッキングを解除した。
ピコン!
<WARNING!>
意図しない方法でドリームランドへ侵入しました。
<正気度ロール!>
【確定的クリティカル!】
正気度ロールは免除されました。
ピコン!
<ドリームランドで初めて正気度ロールをクリアしたことにより称号『次元渡航者』を獲得しました!>
『次元渡航者』
ベルトや魔導書を介さずしてドリームランドに適応した存在に贈られる称号。
正気度ロールの成功率+25%
以降、ドリームランドでの滞在時間を24時間得ることができる。
一回のログインに対して24時間の滞在許可。
ログアウト後に入場すれば更に24時間の滞在許可を得られる。
残り時間は次のログイン時間に引き継がれる。
滞在時間の蓄積上限は30時間までとする。
「あ、称号生えた」
「称号って生えるものだったっけ?」
「まぁお義父さんなら」
「どんなものが生えたの?」
「『次元渡航者』って称号。正気度ロールの成功率+25%で、ドリームランドの滞在時間が一回のログインごとに24時間得られるものみたい」
「うーん、チート」
「正気度ロール成功率とか、ベルト持ちが全員欲しがるやつじゃないの」
「獲得方法はわかる?」
「パッキングされた状態でドリームランドに介入、正気度ロールを何回かやりこなしてパッキングを解除したらかな?」
「それ、クリアできる人がいないやつだ」
え、そんなことないでしょ?
私はできたよ?
「オクトさんたちが強制ログアウトした僕の姿を見て発狂しない精神力が求められるのか」
「ちなみにこれの前に50%の確率で正気度ロールを無効化できる『神格耐性』を持ってたのが大きいかな?」
「何それ?」
「列車君イベント報酬かな?」
「つまり、ゲーム開始10日以内でNPCからの信頼度50%以上、かつ2名以上の深海種族で料理のスキルを所持してることが条件として」
「理解はできるけど、実行できる人がどれほどいるのか」
「深海種族で、圧縮調理の獲得に、ルルイエからの興味を取得すれば獲得できるから簡単な方じゃない?」
「ここでルルイエが出てくる意味がわからない」
「列車君がどう考えてもクトゥルフ陣営なんだよね」
「そのイベントを発生できる人って、実はお義父さんだったからとかそういうことはありませんか?」
「そんなのわからないよ、私はただ普通に遊んで、なんなら料理しかしてないんだ。お姉ちゃんとその友達と一緒に遊んでただけなんだよね」
そう、それだけだ。
一般的な遊びの範疇だ。
私は一度たりとも前世のような奇抜な遊びはしていない。
模範的なプレイヤーのそれを逸脱していないはずだ。
「|◉〻◉)懐かしい気配がします」
「お、列車君がダンジョンに興味を示したね」
私のお披露目よりも先に、イベント発生。
というか、私が女の子になっても、もりもりハンバーグ君の態度は変わらなかった。
完全に前世と同じようなスタンスで付き合っている。
張り合いがない、というか。まぁ私もその方が気が楽だったり。
列車君が目指したのはダンジョンの1階層に設置された銅像だった。
そこには前世の私を模したものが、スズキさんと一緒に祀られていて。
ピコン!
<魔導書の断片を獲得しました>
<魔導書:|ブログ◇おじいちゃんのAWO散策日誌>
ブログ◇お爺ちゃんのAWO散策日誌『ネクロノミコン』
人の身でありながら異形や異界の者と友好的に接してきた手記。
そこには神格の召喚方法から退散方法までの記述が挙げられる。
閲覧した者の正気を失わせる記述もある。
深淵を覗き、暴き、そして掌握した人物の人生を描く。
「あ、断片出てきちゃった」
「魔導書?」
「列車君がクトゥルフの眷属の時点でね」
「やっぱりルルイエ異本なのかな?」
「ううん、どうもネクロノミコンらしくて」
「おや、じゃあ森のクマ君と同じ?」
「あれとは全くの別物。というか、前世の私のブログが特級呪物として魔導書扱いになってたんだよね」
ひどくない?
「あ、あのブログかぁ」
「あれは確かに魔導書の片鱗を持ってたけど」
「|◉〻◉)あなたが僕のマスターか」
「恐れながらもそうなるのかな?」
「|◉〻◉)よかったですね、妹よ。ご主人様が見つかって」
「|⌒〻⌒)はい!」
なぜか二人して和気藹々としている。
当初は不仲っぽい感じだったのに、不思議だね。
ピコン!
<シークレットクエスト:レッドシャークの帰還をクリアしました>
<クリア報酬として:魔導書の断片を獲得しました>
ああ、はい。そういえばこれシークレットだったね。
どうしよう、まさかクリアできちゃうとは全く思ってなかったよ。
あと普通に断片獲得しちゃった。
いいのかな、これ。
図書館を探す手間が省けたのはいいけどさ。
ピコン!
<続・シークレットクエスト:レッドシャークの夢が開始されました>
主人を得たレッドシャークには夢がある。
それは魔導書としての知名度を上げることだった。
手っ取り早くアイドルを目指したい。
それは他の姉妹たちの後を追うことだった。
<レッドシャークは特技:ステージ召喚を覚えた>
なんか生えた!
知らない、こんなスキル!
スズキさんの時よりパワーアップしてない?
いや、確かブログにも記載していたな。
スズキさんの知名度アップのためにCDデビューさせたことを。
まさかこれが自分の身に降りかかろうとは。
「また何か起きたの、ハヤテちゃん?」
「うん、列車君が今度はアイドルになりたがってるの」
「あぁ、お爺ちゃんならプロデュースさせてたしね。私もさせられたし、ハヤテちゃんもしてみる?」
嫌だよ。
お爺ちゃんならノリノリで応援してくるだろうけど。
まだこっちの心の準備がね?
「応援なら任せてくれ。今なら資金に余裕があるしね」
「まだ私の一存じゃそこまで決められないから!」
始めたての新人には色々と荷が重い。
この話は一旦持ち帰ることにした。
そして列車君は私という主人を得て、今まで以上に伸び伸びし始めた。
今まで通りの写真撮影はしないものの、私の趣味の料理に付き合ってくれたりした。
エプロン姿も似合ってるよ!




