40話 ドリームランチ
マリン :えっと、つまりお父さんたちは
ハヤテ :さっきのおじさんの変身を見て強制ログアウトしちゃったと」
マリン :そうね、普通はそうなるわよね
ハヤテ :お母さん、まるで私が普通じゃないみたいな扱いやめて
マリン :あなたの成り立ちはすでに普通じゃないでしょ?
それを言われたら弱い。
しばらくしてもりもりハンバーグ君が現れる。
ここに来れる人にとっては見慣れた風景なので、いちいち気を使わず、変身したままだった。
「やぁお待たせ」
「さほど待ってません」
「|◉〻◉)お茶をいただいてました」
「この風景、お義父さんと一緒の探索を思い出すなぁ。あれから20年かぁ」
そう、私がこの世を去ってから20年。
突如寝たきりになるまで、楽しく遊んでいたからね。
まるで昨日のことのように思い出せる。
「そういえば、マリンちゃんの幻影もそのサハギンだったね」
「はい。先生って言います」
「|◉〻◉)ノ先生です」
「|◉〻◉)ノレッドシャークです」
「なんか増えた? いや、お義父さんの幻影は分身が得意だったね」
「えっと、これはなんて言いますか」
まさかドリームランドの参加資格のないプレイヤー(私)の発生させたイベントNPCとも答えられまい。
本来なら存在してはいけない、バグみたいな存在だからね。今の私は。
ハヤテ :お母さん、パーティに誘ったら?
マリン :その方が手っ取り早いわね
もりもり:お誘いいただきありがとう
マリン :詳しくは私の娘のハヤテちゃんから
ハヤテ :初めまして、いつもお母さんがお世話になっています
もりもり:あれ、マリンちゃんのところのお子さんはトキちゃんだった筈
:ハヤテ君は生まれてこなかった子供のはずじゃ?
マリン :実は、生まれてこなかった魂がずっと娘の中にいたらしくて
もりもり:続けて
マリン :発端は娘の訴えからでした
気がついたら、終わらせてなかった課題やら、入浴などを済ませていた。
最初は便利だからとか、そう言った理由で気にしないようにしてた。
けど、それが本来の実力ではない、不可解な現象として付き纏うようになって、怪異の原因を突き止めた。
もりもり:その結果が、ハヤテ君だった?
マリン :そういうことです
ハヤテ :そういうことです
マリン :おじいちゃん、真似しないで
ハヤテ :可愛い娘におじいちゃん呼びはやめてよね! 私はもうアキカゼ・ハヤテじゃないんだから
もりもり:待って待って待って
マリン :はい
ハヤテ :はい
フレンドチャットで会話中、突然の情報の渦に流されそうになっていたところを、もりもりハンバーグ君はなんとか踏みとどまる。
もりもり:ハヤテ君の中身はお義父さん?
マリン :99%そうかなって
ハヤテ :ちなみにアバターはお姉ちゃんのを使ってるので、こっちでは女の子なのでよろしく
もりもり:もう何が何だか
マリン :ちなみに、今のおじいちゃんはベルトなし、幻影なしでここにいます
ハヤテ :イエーイ
もりもり:待って待って待って
やっぱり理解は追いつかないよね。
触手の化け物が狼狽える姿はなかなかに面白い。
気色の悪さとグロテスクが勝る?
そこは慣れだよ。
「とりあえず、聖魔大戦のイベントを踏まずにこっちに来れる技術が確立されたと、そう思っていいのかな?」
「可能なのは今のところおじいちゃんぐらいですね」
ハヤテ :絶対そんなことないとは思ってる
「ちなみにお義父さん、でいいかな?」
ハヤテ :ハヤテちゃんでいいよ。こっちは生まれ直してるワケだし
「これもうお義父さんだよね? なんで今の僕を見て平気な顔できるのか」
「本人も割と開き直ってるんですよね」
ハヤテ :普通は正気度0になって強制ログアウトらしいよ?
私はここにオクトおじいちゃんとカネミツおじいちゃんがついてきたまではいいが、正気度ロールの洗礼を受けてログアウトしたことを話した。
「そうなの?」
「違法ログインへの制裁というか。じゃあなんでハヤテちゃんは無事なのか」
「ツッコミどころは満載というわけか。それで、こっちのサハギン」
「|◉〻◉)レッドシャークです」
「列車君て呼ばれてるみたいですね」
「この子のイベントを踏んで、目的地がドリームランド?」
「みたいですね」
「ファストリアにまだそんなイベント残ってたんだね」
もりもりハンバーグ君としても手垢のつきまくった最初の街に、もうイベントはないだろうと決めていた。
しかしそこから見つけてしまう洞察力に、私の内側へアキカゼ・ハヤテを見つけ出す。
「きっと開始何日以内に発掘する系のイベントだと思います」
「なるほど。それなら熟練プレイヤーは発掘不可能か。しかしそれすら発掘してしまった」
ハヤテ :まだ初めて9日目なんだよね
「ハヤテちゃん、発掘条件はわかる?」
ハヤテ :NPCへの信頼度かな? 私は生産系だから良くストアを利用するんだよね
「生産職……生産職?」
ハヤテ :なんでそこクエスチョンマーク浮かべてるの?
「これは実際に食べてもらった方がいいやつだよ」
ハヤテ :トレードだしますね
「はい、受け取りました」
「ハヤテちゃん、ちゃんとお金もらった?」
「え、ちょっと待って。これそんなにやばい料理なの?」
手数料無料でパッキングされた料理を受け取ったもりもりハンバーグ君は、お母さんからの注意にドギマギしていた。
「食材の流通が一切してない系です」
「あー」
「ごめん、普通に受け取っちゃった」
ハヤテ :別に減るもんじゃないしいいですよ
「食材は使えば減るの!」
「こういうところ、お義父さんらしいよなぁ。それじゃあいただきます」
パッキングされた封を解く。
中から出てきたのは芳しいメガロドンの蒲焼丼だった。
「おっと、これは返信を解かないっでいただくのは失礼か。ヤディス、グラーキたちへの躾をしておいてくれ」
「はーい」
ハヤテ :よかったら一緒に食べてもらっても大丈夫ですよ
「お、いいのかい?」
ハヤテ :作り手になってわかる、おいしく食べてもらえる嬉しさ。ヤディス君には前世でも世話になったからね
「やっぱりお義父さんですよね?」
ハヤテ :そうだよ。でも今はハヤテちゃんでよろしく頼むよ
「こういう強引なところも、懐かしいですよね」
ハヤテ :どうせ食べるんならみんな誘って食べようか
「もう、しょうがない子ね。きちんと私に売る分は残しておくのよ?」
「また取りに行くから」
「ならヨシ!」
「|◉〻◉)僕もご相伴に預かっても?」
ハヤテ :深海種族以外には少ししょっぱく感じるかも
「|◉〻◉)僕は美味しかったですよ!」
「|◉〻◉)なら平気だー。もぐもぐ」
「今まで気にしてなかったけど、サハギンてお米を噛み締めることってできるんだね」
「今更ですよ。先生はハンバーグとかよく食べますよ」
「ははは」
もりもりハンバーグ君は乾いた笑いを浮かべた。
ヤディス君は美味しそうに拙い箸使いでメガロドンの蒲焼を頬張っていた。
美味しいと言ってもらえてよかった。




