39話 母を訪ねてSAN全離
「はい、そんなわけで。再び集まったわけですけども」
あれから一度別れて、再び集まったのはどう考えても『レッドシャーク』こと列車君関係があまりにも不可解であるということだった。
検証班、錬金班、戦闘班、調理班。
その全てが派生スキルを介しての怪異が身近に起こったということだ。
「しかし怪異ですか?」
私自体は感じたことがないので聞き直す。
「ハヤテちゃんは感じない? 何かに見られる視線というか」
「|◉〻◉)あ、僕です」
犯人は列車君だった!
というかスズキさんで慣れてる弊害か、そういう視線は気にならなくなってるんだよね。
「列車君、どうしてそんなことを?」
「|ー〻ー)イベントまだかなーって心配になってしまって」
「NPCがイベント進行を気にするものなの?」
「|◉〻◉)え、気になりません?」
「ハヤテちゃん、きっとこの子幻影候補者よ。だから今のうちからハヤテちゃんをマークしてると思うの」
「迷惑」
「|◎〻◎)そんな……」
私はハッキリ言った。列車君はその場にうずくまった。
「なんか昔のおじいちゃんとスズキさんを思い出すわね」
「それ」
「すっかり尻に敷かれてる感じがね」
「どこかの誰かと比べられるのはそれはそれで不快だよね」
「大人に混じっても物怖じしないくせにー」
それを言われたら弱いかもしれない。
「さて、それはさておき列車君はそんなに街を出歩いて平気なの?」
「|◉〻◉)平気とは?」
「皮膚呼吸。大変じゃないのかなって」
「|ー〻ー)そこはクトゥルフ様の加護があるから大丈夫ですよ」
「私がバッチリ加護してるからね」
「|◉〻◉)ほう、大したものですね」
「あ、先生。呼んでないのにまた勝手に来て!」
この、ちょっとクセのある子は先生。
列車君は少し硬い喋り方をするからすぐにわかるよね。
疎遠になってるらしいのは、その喋りや行動に違いによるのかも。
「それで、厳密には何をすればストーキングをやめてくれるのかな?」
「|◉〻◉)僕の故郷に帰るための伝手をですね」
「故郷ってドリームランドだっけ?」
「私、ベルト持ってるよ。これから行くけど連れて行ってあげようか?」
「|◉〻◉)いいんですか!?」
ということになった。
「あ、私はついていけないや」
「え、パッキングしてそれを持ち歩けばいけるんじゃないの?」
「私がついていけないのに!?」
それは話が変わってくるんじゃないの?
そう思っていると。
「多分、あの空間に入れる人なら大丈夫なんじゃない?」
「あー、そういう査定が?」
「圧縮調理で戦闘もできる」
「パッキング状態で外にパッキングできるものなの?」
内側から外に向けてできるのは、少し話が変わってくるような?
いや、これもイメージなのか。
そう思えばなんかできるような気がしてくる。
そしてここから先はドリームランド関連と聞き、一人、また一人と別行動を取るものだあらわれた。
あそこは選ばれた人しか行けないからな。
正気度の喪失もあるし、普通は好んで行く場所じゃないのだ。
「あ、私はそろそろしごとがあるので。ハヤテちゃん、畑のお世話いつもありがとうね」
「いえいえ。お仕事頑張ってくださいね」
ひよりさんがログアウトする。
それを皮切りに、シズラさんとパープルおばあちゃんがログアウトしていく。
お母さんは私を引っ張っていくのが役割だから、普通に連れてってくれる。
「ドリームランドか、僕は脱落組だからね」
「そうなの?」
おじいちゃんが珍しく愚痴を吐いた。
いや、いつも吐いてるので刺して珍しくはないか。
「ベルト維持が難しいんだよ。聞いていた話と違ってね」
一体誰からの情報だろうか?
心なしかみんなからの視線が痛い。
「そうなんだ? 詳しくは知らないけど。頑張って」
「どこかの誰かが吹聴したおかげでな」
「まぁまぁ、うちのハヤテちゃんを攻めたところでどうしようもありませんよ」
「それはそうなんだけどなぁ」
「と、いうわけで、ハヤテちゃん。自分ごとパッキングできる?」
「やってみるね」
お店や調理場を指定するのと同じようにパッキングを試みる。
パーティリーダーはお母さんに変更。
「なるほど、こういう状態なのね。じゃあそのまましまっちゃうわ」
私たちは個包装された袋ごとお母さんのストレージにしまわれた。
そして今、パーティチャットに誘われて二窓しながらもう一つの世界をのぞいていた。
ハヤテ :ここが、ドリームランド
「銀の鍵があるから、いつでもいけるのよ。どこかの誰かが調べてくれたおかげよ」
ハヤテ :その人には感謝だね!
オクト :…………
リーガル:…………
カネミツ:…………
なんでみんな黙り込むんだろうなぁ。
「ええ! ここからアーカムに飛ぶわ。列車君のお仲間はそこにいると思うのよ」
「|◉〻◉)楽しみです」
「|◉〻◉)僕が先導してあげますね」
「|ー〻ー)遠慮します」
「|◎〻◎)なんで!」
「はいはい、茶番はそのくらいで。アーカムへご案内しまーす」
かくて何も知らない一行は発展途上の社会へ足を踏み入れた。待っているのは聖か魔か。
向かう者たちはそれも知らずに歩みを進めていく。
オクト :何このナレーション! 縁起悪いなぁ
カネミツ:聞いた話じゃ、アーカム特有の演出だって
リーガル:俺はこっちに来ないからなぁ
ハヤテ :誰からの情報だったんです?
カネミツ:うちの父さん
あー、探偵さんか。
あの人もあの人で迷惑な存在だったよね。
特にドリームランドに来てからはしょっちゅう絡まれたもんなぁ。
「これはあんまり気にしても仕方ないかな。先生、出番だよ」
「|ー〻ー)はいはい」
本当に顔パスなんだ。
そして列車君は……
「|◉〻◉)ここが僕の故郷……あれ、おかしいな。僕こんなところで暮らした覚えは……あれ?
まさか場所が違うなんてことある?
「場所が違うのかな? どこか別のところに案内してみる?」
「俺が知ってる場所は海とは程遠い山だが平気か?」
リーガルおじいちゃんが割って入る。
ドリームランドに直接来れる数少ない人員だ。
案内された場所とは、恐怖山脈だった。
確かそこって、ダンジョンのある?
「おや、懐かしい顔だ。今日は珍しい人に会うな。マリンちゃんも久しぶり」
もりもりハンバーグ君!
変わらないねぇ!
相変わらずダンジョン作りをしてるようだ。
「ハンバーグおじちゃん。今日はこの子の故郷探しを手伝ってるんです」
「赤いサハギン、というとお義父さんの?」
「クトゥルフの幻影はみんなこの子なんですけどね」
「|◉〻<)」
「そういえばそいうだったね。ヤディス、お客さんだよ」
「マスター、グラーキが暴れた」
「ああ、しょうがない。ごめんね、少しトラブルだ。神格召喚!」
まるで流れるようにその身を化け物に変え、トラブルの対処にかかるもりもりハンバーグ君。
ハヤテ :慌ただしいったらないね
オクト :正気度喪失によりログアウトしました
カネミツ:正気度喪失により、ログアウトしました
ハヤテ :あれ?
とか言ってる側から、強制ログアウトをする身内が出てしまった。
「ハヤテちゃん、どうしたの?」
ハヤテ :おじいちゃんたちログアウトしちゃった
「え、なんで?」
そんなの私が知りたいくらいだよ。
でも犯人はもりもりハンバーグ君だと思うな。
結構気持ち悪い、グロテスクな見た目してるもん。
リーガルおじいちゃんが耐えられたのは、単純に魔導書陣営だったからだろうね。
私はなんでだろ?
ナイアルラトテップを前にしても物おじしなかったのもあるのだろうか?
わからないことばかりである。




