37話 居酒屋シズラ②
もうすでにお腹いっぱいみたいな頃合いで、続いてパープルおばあちゃんの料理が出る。
三番手を見越してか、汁物が多い。
パープル:続いては私のお料理を召し上がれー
オクト :ラーメン……だいぶガッツリ系だなぁ
濃厚味噌、ちぢれ麺。
チャーシュー四枚、なると、しなちく、海苔、煮卵。
これのどこにメガロドンが使われてるのか、初見じゃわからない。
まさに技術の集大成である。
リーガル:豚汁……豚はどこだよ、もしかしてメガロドン? じゃあこれ海鮮系なのか?
お次は豚汁、の見た目をした海鮮汁。
これまた大根、人参、牛蒡などの具材がどっさり。
汁と具材の比率おかしくない? みたいな見た目をしている。
これを知るものと言い張るのはいささか無理がある。
相変わらずどこにメガロドンが使われているか、一切わからない風貌だ。
カネミツ:全部重い系の代表格みたいな面構えをしているな
ひより :でもこれ、結構スープは軽くてするする飲めちゃいますね
パープル:お、わかるー? 見た目だけ重そうにしてあるけど、飲み会の締めにちょうどいい重さにしたの
リーガル:なんて嫌がらせに特化したメニューだ
オクト :食べる側に覚悟を求められる料理だよね
カネミツ:気にしすぎだといいが……美味いんだよなぁ
リーガル:EN満タンで口に入れるのも億劫だが
ハヤテ :大丈夫? 私の料理食べられそう?
四番手であるのにメニューを変える気が一切ない私である。
よもやこんなメニューの後に出して大丈夫なのか、ちょっとだけ心配だ。
最後に四番手の私の料理が運ばれた。
ハヤテ :メガロドンのパッキング包みあげ、メガロドンの蒲焼、それと吸い物をご用意しました
パープル:見た感じは普通のお料理よね
ひより :子供達は喜んでいたお料理ね、でも大人のあたしたちは?
オクト :実食開始と行こうか
それぞれに緊張が走る。
今までの試練みたいな料理を乗り越え、全員がお腹いっぱい。
空腹の時に食べる前提の料理を前に、審査員はどんな采配を下すのか。
それは私にもわからない。
パープル:ハヤテちゃん
ハヤテ :はい
パープル:これ、やばいわ
何がどうやばいのか、詳しい説明を欲しいところだ。
オクト :え、EN100%を貫通してどんどん口に入っていくんだけど? こわっ
カネミツ:今までの料理とは体系が違う? いや、うまさのレベルは平均的だが、これは……ううむ
平均的? それは他のと比べて美味しいの?
私相手だから言葉を濁してる?
そりゃ素人が作ったんだしまずいって言われても仕方ないとは思うけどさ。
ハヤテ :つまり、味は普通だけど別の力が加わってきている?
ひより :バフがついたね
ハヤテ :料理してればバフって乗るものでは?
パープル:そうね、でもそれはステータスにつくものなのよ
一般のバフは、せいぜいHPやSP、ST、ENに関与するもの。
特殊素材を持ちいれば空のAPや地のEPなどのような特殊ステータスに介入できる。
けど深海素材は、全く別の場所にバフがついた。
オクト :種族にバフがついた
マリン :詳しくは種族特性にね
ハヤテ :なるほど、つまり?
マリン :領域圏外で空中遊泳が可能になったわ
ハヤテ :それは別に最初からできるのでは?
マリン :えっ
ハヤテ :えっ
店の中が静まり返る。
あれ、もしかして今私、失言した?
マリン :ハヤテちゃん、怒らないから詳しく教えて
ハヤテ :はい
マリン :料理食べる前から、ファストリアで空中遊泳とかできたりした?
ハヤテ :できたので、てっきりそういうものかと
マリン :あー、はい
:だいたいわかった
:これ、ハヤテちゃんが取得してる権能が料理に感染してるだけだ
感染……
まるで悪いことに巻き込んでるみたいな言い分じゃないの
オクト :権能……つまりドリームランド関連?
マリン :まず間違いなく
パープル:でもオクトさん、ハヤテちゃんはまだ始めたばかりよ?
魔導書もページも発見していない。
つまりは神格降臨による権能を支えるのは定義に反する、そう言っている。
確かにおかしいんだよね。
まるで私には、前世の能力が備わっているかのような感覚があった。
初めて作ったアカウントに、ナイアルラとテップが介入してくる時点で、どこかおかしいのだ。
怖がらなかったのも、そこに関わってくるのか?
まるで生まれ直すことに失敗した私の能力がそのまま引き継がれているような。
ハヤテ :もうログインしない方がいいのかな?
オクト :そこは関係ないよね
パープル:確かに不思議ではあるけど、ハヤテちゃんには関係ないことよ
ハヤテ :でも魔導書関連の怪異がお姉ちゃんを襲うことになったら、私は責任感じちゃうよ
シズラ :もう十分に巻き込んでいる気がするのは気のせいかしら?
水底の街はそこそこに正気度を持っていく作りになっていたと、ブログを読んだシズラさんは感想を述べた。
えっ、それはちょっとショック。
先生 :|◉〻◉)むしろ手遅れ?
ハヤテ :呼んでない人が来た!
マリン :呼んでないから帰っていいよ
先生 :|◎〻◎)グエーーー
いつの間にか空間に侵入してきた真っ赤な鯛型サハギン、通称先生はその場で爆発四散した。
店内を汚さないでよ、もう。
ハヤテ :さっきのは?
マリン :私の幻影
お母さんは随分とユニークな幻影を飼っていた。
まぁどう見てもスズキさんの影響を受けてる個体だよね。
懐かしさと鬱陶しさが半々の複雑な気持ちになっている。
シズラ :列車君と似たような装いだったわね
ハヤテ :やっぱりあの人そっち関係なのかな?
オクト :写真で見る限りではね
リーガル:あれ、人によっては存在すら見えないんだよな
えっ?
それは新たな情報だ。
ハヤテ :見えない人の特徴は?
リーガル:聖典のベルト持ちは見えないらしい
オクト :確実に魔導書関連じゃないと存在を確認できないか
パープル:むしろイベント発生条件もそっちに偏ってそうよね
ハヤテ :全く記憶にないよ?
列車君は急に話しかけてきたしね。
それ以外でページ関連のイベントは発生してない。
だから私は怪異が向こうからやってきたのだと認識しているのだが。
マリン :とりあえず、ハヤテちゃん
ハヤテ :なぁに?
マリン :深海食材は定期的に買い付けるわ
オクト :ついでに君の作った料理も買い付けよう、色々と検証が捗るからね
ハヤテ :お値段は?
マリン :今回の塊でアベレージ10万はどうかしら?
いいの? メガロドン一匹で2000個は取れちゃうけど。
それだけで2億だ。
ちょろい。
いや、ある意味で素材を独占できているからこその高額な値付けか。
市場に溢れたらそれこそ価値が暴落しかねない。
いくら入手が容易いとはいえ、それは今だけの価格か。
オクト :では腹ごなしも済んだことだし、検証の続きといこうか
ハヤテ :このままパッキングでの移動?
オクト :そうしてもらいたいところだが、マリンはそのままついて行かせよう
マリン :ハーフマリナーですからね
ハヤテ :他に水中が得意な人は?
私の質問に、お母さん以外の全員が視線を横にそらした。
検証班とは名ばかりの集団である。




