36話 居酒屋シズラ①
「あの、お母さん? 食べさせるのは別にいいんだけど。まさか夜中にこっそりログインするのは流石に想定外というか。私もログイン権使い切っているんだけど」
「あなたがログイン権を無視してログインできることは確認済みよ」
なぜかお姉ちゃんが寝静まってから、私はAWOへのログインをお母さんから急かされていた。
パッキングご飯の催促ならいつでも受け付けているのだが、なぜか平日朝から集まれる人は少なくて、急遽ログインという形になる。
というか、うちの主要メンバーの関係者全員集合じゃない。
なぁに? まるで私が何かをやらかしたみたいにさ。
「みんな、ここよ、ここ」
「シズラさんまで?」
まさかの情報源は信じて託したレストランのオーナーで。
ちょっと裏切られた気持ちになりながら、仕方ないかと居直る。
「ごめんね、ハヤテちゃん。あの技術は私だけで抱えておくには手持ち無沙汰というか」
「そういうことだ。もしこれが明るみになれば」
「なれば?」
「アイテムを持ち帰るが非常に楽になるからね」
お爺ちゃんが過去の苦労の数々を思い出し、唸った。
アイテムの持ち帰りはまさに命懸け。
そういう時代だったのもあるけどさ。
「それで、みんなは私のご飯を食べにきた、だけじゃないんだよね?」
「メインはそれで間違い無いんだが」
「まだあると?」
「今回赴いたNPCの住む街に行きたい」
「ハヤテちゃんの出会ったサハギンタイプのイベント出現条件の割り出しを行いたいなって」
「だからこんなに急遽なんだ?」
イベント出現条件が、遊んだ日数による可能性が高いのなら、その日のうちに検証を行なってしまいたいと言われた。
「そしてその技術がドリームランドでも応用できるのなら」
「そっちのアイテムの持ち帰りが容易と?」
「だったらいいなって話。実際は自分の目で見てみるまでは内容はわからないからさ」
お母さんの会話にお爺ちゃんが混ざる。
「なるほど」
「と、いうわけでパーティを組もう」
「これって人数上限あったっけ?」
「ドリームランドが開放される前は6人。開放後は無制限になったよ」
「全然知らなかった」
「ハヤテちゃんはパーティ行動をしなかったじゃない」
「そうだったっけ?」
「そうそう」
昔のことを話題に上げられ、そうだったろうかと思い出す。
今や私は女子中学生。
昔の記憶も曖昧だ。
感覚だけは昔のままだが、どうも記憶は薄れつつある。
所詮過去の記憶など、そんなものだろう。
「じゃあパーティ加入申請だしたので了承してくださーい」
全員からOKが出て、そのままパーティチャットを開放。
全員を招待する。
ハヤテ :パッキングしちゃいまーす。シズラさん、お店ごとしちゃっても?
シズラ :休業中だから大丈夫よ
ハヤテ :じゃあ、遠慮なく
【パッキング『パーラーシズラ』】
私は自分ごと室内をパッキングした。
続いてメガロドンの食材をパッキングしたアイテムを料理班に手渡す。
解体した後なので、ちょっと大きめな肉の塊になっている。
重さは感じず、コンビニでコロッケを持ち帰りした時ぐらいの重量。
ゲーム要素はこういう時にありがたいね。
マリン :これが噂の食材ね
今回は私の料理を食べるだけではなく。
料理スキルを持っている人が作った場合の味覚検証となっている。
私の他に、お母さん、おばあちゃん、そしてシズラさんだ。
他にも一人女性アバターのプレイヤーはいるが、どうも食べる専門であるらしい。
ハヤテ :ひよりさん、こっちきて大丈夫だったんですか?
ひより :夜ぐらいはできるわよ。畑のお世話まではしてられないけど
なるほど。
リアルが忙しいと聞いていたから長期ログインが難しいだけど、こういう飲み会には顔を出せるらしい。
ちなみに畑はそのまま私に任せるように言われた。
とてもありがたいね。
今回集まってもらったメンバーは7人。
ヒューマン代表 :オクト お爺ちゃん
ハーフビースト代表 :リーガル お爺ちゃん
エルフ代表 :カネミツ お爺ちゃん
クォータービスト代表:パープル おばあちゃん
ハーフマリナー代表 :マリン お母さん
フェアリー代表 :ひより おばさん
料理人は私、シズラさん、マリンお母さん、パープルおばあちゃんだ。
シズラ :ミルモちゃんのあの反応の仕方を見るに、妖精系列にも美味しさは伝わる可能性が高くてね、呼んだの
ハヤテ :でもミルちゃんはバカ舌だからなんでも美味しいってお姉ちゃんが言ってたよ?
ひより :あたしはそれなりに美食家だから信じていいわよー
そういうことらしい。
まずはシズラさんからメガロドンの三色盛り。
メガロドンの唐揚げ(甘辛餡がけ)
メガロドンの串焼き(塩・タレ)
メガロドンのサラダ(胡麻ドレッシング和え)
オクト :あぁ、いいね。深みのある味わいだ
:エールに合う
カネミツ:私はお酒をあまり嗜まない方だが、これは程よい苦味の中に旨みがあって美味いな
:白飯が欲しくなる
シズラ :ご飯はハヤテちゃんのお料理にもついてきますのでそれで
カネミツ:ふむ、それもあったか
ひより :相変わらずシズラちゃんのご飯は美味しいね
:ハヤテちゃんのはこれより美味しいと聞いて今から心配よ
シズラ :種族特性がどう出るか見ものよね
パープル:たまにはこういうのもいいわねー
続いてはうちのお母さんの料理が並ぶ。
居酒屋メニューとはガラッと変わった様相。
和の趣がある、そういうメニューだ。
メガロドンの天ぷら(蕎麦、大根おろし、七味セット)
メガロドンの煮付け(甘辛タレ掛け)
メガロドン粥
まるで飲み会の後の締めに食べる様相だ。
大人向けの会食に出てきてもおかしくはないんだけどね。
一部の大人にクリティカルヒットしていたのが面白い。
オクト :ちょっと酔った後の締め料理に見えるけど、気のせいだな、うん
リーガル:エールを早々に出したのはこれを出すためか?
マリン :お先にエールを出したので、こういうのも欲しがるのではないかと
カネミツ:痛いところをつかれたね
オクト :まるで僕たちに向けた皮肉だ
ひより :和食だなんて食べたのいつぶりかしら?
:家では洋風や中華が主流でしたから
リーガル:冷凍食品で作らせるとどうしてもそっちによるんだよな
シズラ :あー、だねぇ
パープル:わかるわかる
マリン :子供の頃は深く考えたことなかったんですよねー
パープル:お母さんに習わなかったら和食って滅んでたんじゃないかしら?
そんなバカな。




