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Atlantis World Re:Diverーバグから始めるVRMMOー  作者: 双葉鳴
『AWOパッキング同好会』<9日目・夜>

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35話 家庭別食卓事情

「|◉〻◉)お姉ちゃん、ご飯までに宿題しちゃいなってお母さんが」


「ぐぬぬ」



 ログアウト、したらすぐに夕飯というわけでもなく。

 VR社会で暮らす人々は、時間に余裕を持ち過ぎて仕事を多く回したがる性質を持つ。


 お母さん世代は特にそれが顕著で。

 第一世代だった私からすると「生き急いでない?」と感じてしまうのだ。

 今は第四世代ってことにはなっているけど、なんだかんだ第一世代を引きずって今に至る。



「ハヤテ、一生のお願いがあるんだけど?」


「|◉〻◉)え、精神交代ならしないよ? したら電源落とすってお母さんが」


「悔しいです!」



 宿題に対してあまり意欲を見せないお姉ちゃんに、私は発破をかける役割を得ていた。

 私の行動はログで監視されており、あらゆるインターフェイスから介入され放題という、あまりプライベートがない状況。

 電源を落とすというのは、今入り込んでいるお人形のお喋り機能が停止することを意味する。


 私という存在は現実社会に生まれてこなかったわけだからね。

 今まではお姉ちゃんの中で矯正していたわけだけど。

 ずっと強制するのはお姉ちゃんのためにならないからと心を鬼にしているのだ。


 さっさと終わらすなら私が中に入って片付けてしまった方が早いのは理解しつつね。

 地頭はいいんだからさっさとやって仕舞えばいいのに、と思わなくもない。


 姉は多動症とでもいうべきか。

 一つのことに集中する時間があまりに短く、他のことが気になって仕方がない性質を持つ。

 ネット社会にVR技術。それが当たり前にある生活空間だからこそ、同時に何でもかんでもやる性質が培われていった。


 けどそれは、一つのことに集中しずらいというデメリットも抱えていて。

 まぁ多感な時期にある子供に落ち着けというのは大人の勝手な都合の押し付けではあるけど。



「できたー! 早速リノっちに報告しなきゃ!」


「|ー〻ー)ブログのこと?」


「それ以外に何かある? あたしはそれを話したくてうずうずしてる時に急にお勉強差し込まれて気落ちしてたんだからねー?」



 したりというが、絶対長話に突入してお勉強ぶっちぎってたのは確かでしょ?

 お母さんはそれを見抜いてるんだよね。

 夕飯まで余裕があるという言い訳まで作って時間を確保させたのに、お勉強もしてなかったら目も当てられない。


 別にお勉強なんて休み期間中に終わらせて仕舞えばいいだろうにと思いつつ、こうまで口を酸っぱくしているのは単純に姉が休み最終日まで残しておく性質があるからだろう。


 その時は私が何かしなかったのかって?

 火事場の馬鹿力でなんとかしたに決まってるじゃない。


 お姉ちゃんの「寝ている間に妖精さんがやってくれた!」のセリフのほとんどが私の介入によるものだよ。

 この人本当にズボラだから見ていて心配なんだ。


 なのでこうやっておしゃべりできる機会を私は確かに喜んでいる。

 しかしコール姿勢に入ったお姉ちゃんの表情は芳しくない。

 自分の傑作を見せびらかすという、割と誰にでも理解できる行為が無駄に終わったみたいな顔で居心地悪そうにしている。



「|◉〻◉)リノちゃんはなんて?」


「まだ塾だってー」


「|ー〻ー)リノちゃんも頑張ってるみたいだね」


「お勉強なんてしなくたって大人になれるのにねー」


「|◉〻◉)お勉強は社会で生きていくために必要なことだからね」


「ちなみにハヤテはお勉強して社会で何か役に立つことあった?」


「|ー〻ー)ノーコメントで」



 ここで答えてもいいけど、この姉はそれをズルに使おうという腹づもりだ。

 まるで問題集の答えを最初に見てわかっているふりをしている。

 でも理解はしてないのですぐに回答に行きつまり、答えのページを見るのを繰り返す。


 その問題を解くまでの過程が楽しいんだけどね。

 そこを省略してしまいがちだ。

 ゲームなんかで試行錯誤せずに掲示板で先人の工夫を流し読みできる時代に生まれたら仕方がないとはいえ。



「|◎〻◎) あ、お母さんご飯だって」


「ハヤテのその機能便利だよね」


「|◉〻◉)お姉ちゃんが信用されてない証拠でもあるんだよ?」


「あーあー、聞きたくなーい」



 その場でバタバタ暴れた後、何事もなかったようにリビングへ。

 その際しっかり私を抱えていくのも忘れない。

 なんだかんだと仲良しなのだ。



「ハヤテ、トキの引っ張り出しご苦労様」


「|◉〻◉)b」


「今日のごはんはなーにー?」


「トキのブログを見て着想を得たちくわの天ぷらよ」


「|◉〻◉)美味しいやつだ」


「ちくわって?」


「|◉〻◉)お魚のすり身を使ったお鍋の具材だね。グニグニしてるけど、しっかりお魚の風味も残ってる。おでんのはんぺんも似たようなものだよ」


「へー、ハヤテって博識ー」


「後でお母さんにも食べさせてちょうだいね?」


「お、なになに? ゲームの話かい?」


「あなた、おかえりなさい。先に手洗いとうがいをしてきちゃって」


「ははは、その衛生理念は変わらずだね。僕らは家から一歩も出ていないというのに」


「うちの家庭の教えなのよ。ね、ハヤテ?」


「|◉〻◉)だねー」



 その後家族揃って夕飯タイム。

 今の時代、お鍋も天ぷらもあまり見かけなくなりつつある。

 それは冷凍食品の台頭による一般家庭内での料理をしなくなるゆえの弊害か。


 大体が解凍するだけで食べられる食品のため、親の好きなものしか食卓に並ばないなど好みが偏るのだ。

 当然、その食卓で育った子供は、世の中の料理を自分の食卓の中以外で知るきっかけをなくし続ける。


 うちのお母さんはそれでも料理をする方だけど、その食卓にお鍋や天ぷらが並ぶことはなかった。


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