33話 種族による味覚変化
結局あれから私達は。
どうせ素材を撮りに行っても時間が経過しないなら、と集めた素材でいろんなアレンジメニューの研鑽を重ねた。
お姉ちゃんとミルちゃんは味見係。
それと次に書くブログのネタの調整に入っている。
ミルちゃんの見事なフェアリーダンスもバッチリ撮って、その合間に私とシズラさんの創作メニューを食していた。
「この食材、すごく塩辛いのが難点ね」
「深海種族にはちょうど良い味なんですけどね」
シズラさんがリトルダゴンの切り身を掲げて愚痴っている。
「でも先立って風味を足してくれたおかげで領地の幅が広がったわ」
「きっとこれ塩味しかないだろうなって思ったら料理する時困るかなって」
「正解よ。メガロドンはフワッとした白身魚の口当たりにプリッと甘エビを思わせる食感。けどこれに塩辛さが目立つとなんとも合わせる料理が見つからなかった」
「揚げ物にしたのは英断でしたかね?」
「皮が不動しても生臭いから、つぎするときは下茹で必須かもね」
「なるほどー」
シズラさんはテキパキとメガロドンを薄くスライスしてから蒲焼にして、味噌風味のタレに浸して焼き上げた。
「あー、これはご飯がほしくなるやつですねー」
「ハヤテちゃんにはそうね。アタシはやっぱりこっちかも」
もう子供の前だからと遠慮する気はないとばかりにアイテムストレージからエールを取り出した。
この人はきっと、料理好きであると同時にお酒好きなんだろうね。
子供の前でまで飲んじゃうのはどうかと思うけど。
「あー、やっぱり黒だわ!」
「通ですねぇ」
「やっぱりハヤテちゃんはわかるのね」
「お母さんがよく飲んでるので」
「あら、子供の前で飲むだなんてダメなお母さんね」
「シズラさんも人のこと言えませんけどね」
「ここはゲームだからね」
だから悪影響にはならないと言い切ったよ、この人。
私は炊いておいた白米をお椀に盛り付けて、その上に蒲焼をON。
最後までトッピングを山椒か迷ったけど事前にカレー風味を付与したので七味をトッピングしてお姉ちゃん達の前に持って行った。
「新メニューだよー」
「うまそー」
「んまそー」
「どうぞ、召し上がれ。写真はもう撮ってあるから、あとはお姉ちゃん達の食事風景を撮っちゃうね?」
「さすがハヤテちゃん」
「お腹空いてないけど、これなら食べられるって確信がある!」
お腹空いてないのに食べたら太っちゃうよ?
「これってメガロドン?」
「そうだよ」
「蒲焼も美味しいね!」
「うん、さっきの揚げ物も捨てがたかったけど」
「お姉ちゃん的にはより旨みを感じられると思うけど、どう?」
「えっ」
今のお姉ちゃんは人間モードだ。
当然塩辛さの方が前面に出ている。
そして私はマーメイドモード。
地上にいるなら人間モードでもいいんだけど、どうせ作るならマーメイドで食べた時の旨みの引き出し方の方がいいなと思っての発言だった。
「一般的な試食はミルちゃんに任せてさ。お姉ちゃんならではの食レポが欲しいんだよね」
「ハヤっちじゃダメなのー?」
「私は作り手だから、感動が薄いんだよねー」
「なるほどー。そこでトキっちの出番ってわけか」
「そういうことー」
「なんだかあたしが食レポなんて恐れ多いけど……託されちゃったからには仕方ないへんしーん!」
ボフン、とその場で宙返り。
魚の下半身を得たお姉ちゃんは、食べかけの蒲焼を軽くお箸で摘んで口に運んだ。
「あ、これやばいやつじゃん」
「具体的に」
「口に入れたらトロってとろけて、噛めば身はぷりぷり。ほんのり甘くて、でも泥臭さは一切感じない。人間モードの時に感じた臭みなんて一切なく、逆に七味が邪魔をしちゃってる感じ。やばいね。後を引く美味しさで、匂いだけでもご飯が進んじゃう」
「そんなに!?」
同じ食事を食べてるとは思えない評価に、ミルちゃんがテーブルの上でフォークを手元から落とした。
深く考えないようにしてたけど、自分より重いものをどうやって持ったの?
「ミルちゃんも今から種族チェンジする?」
「ぐ~~~~悩むッ」
「でもミルっちにシルキーやめられるとこの食材の入手で詰むんだよね」
「あ、そうだね。水圧耐性がなくても勧めたことを忘れてた」
「で、リノっちに同じことができるのかって言えば」
「難しいか。じゃあミルちゃんはそのままで」
「生殺しだよ!」
そのあとお姉ちゃん達と駄弁りながらブログに何を書くのか決めてる間にログアウトの時間になった。
情報を精査すればするほど、リノちゃんが後で落ち込むかもしれないなと思う私たちだった。
あとで絶対催促されるやつだこれ。




