表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Atlantis World Re:Diverーバグから始めるVRMMOー  作者: 双葉鳴
『水底の街アクアリア』<9日目・昼>
32/165

32話 パッキングの応用

「お帰りなさい、ハヤテちゃん。急にキッチン使いたいって連絡来た時は何事かと思ったわよ」


「実はシークレットクエストに遭遇してて、私たち、水の中の街に行ってきたんです」


「うん? どういうこと?」


「ハヤテちゃん、もっと詳しく説明した方がいいよ」


「お姉ちゃんに言われるとは思わなかった」


「ハヤテちゃんは私をなんだと思ってるのかな?」



 だなんてやり取りを挟みつつ。



「それでそこの人は?」


「|◉〻◉)ノども。レッドシャークだよ」


「NPC? サハギンはプレイヤー選択種族にいなかったはずだけど」


「だから一時的に仲間になるクエスト踏んだんだって!」



 なんとか信じてもらおうとミルちゃんが捲し立てるが、帰ってその勢いの良さがシズラさんを混乱させた。

 普段の私だったらここまで興奮はしないんだけど、やっぱり素体がお姉ちゃんだからかな?

 頭が真っ白になってしまいがちだ。

 いや、今の私が興奮しすぎて思考が全く定まらないだけなんだけども。



「何が何だかわからないけど、そこで何かを手に入れた。それは食材。地上には出回ってないタイプの珍しいものってことね?」


「そう! 説明してないのによくわかったね!」


「ハヤテちゃんがそんなに興奮して持ってくるものなんて、その上でキッチンを使いたいものなんて一つしかないでしょ? いいわよ。その代わり私にも食べさせてよね?」


「もちろん!」



 了承を経て、私はキッチンに陣取った。

 まず調理するのは油。

 火を入れる前に片栗粉を投入、それをよく混ぜてから火をつけた。

 後ろで様子を見守ってたシズラさんが「揚げ物かしら?」と予想をつける。


 私はお箸で温度を見極めて、パッキングしたままのメガロドンを投入した。

 


「ちょっと、ハヤテちゃん? それは何が入ってるの?」


「大丈夫ですから」



 私の考えが正しければ、パッキングを貫通して調理工程が内側に反映するはず。

 ずっと不思議だった。

 空気も何もない空間でミルちゃんが呼吸をし続けられた理由が。

 なぜ二酸化炭素中毒で窒息しなかったか?


 考えればわかる。

 いくらリアルを再現したところでここはゲーム。

 プレイヤーは酸素を必要としない存在。

 空気が薄い場所ではスタミナの消費が早いのは、開発がそういう仕組みを作ったからである。


 そして私はパッキングにはまだもう一つ向こう側の領域があるんじゃないかと確信していた。

 それが今行なっているのと同様の調理に関するスキルの実行。


 調味料に夜味付けが有効だったように、本来ならこれで蒸し焼きをするための技術ではないかと予測している。

 なのでこのまま火入れをしても大丈夫、なんなら油で揚げてしまっても食材に効果を上乗せするのもあり得るのではないか?


 そんな予感は見事に的中。

 しかしパッキングを解けばあの巨体がお店の中を潰してしまう。

 そこで調理場を私ごとパッキングし、中で解体、調理の実行を行った。


 やれるという確信は、いつだって私の足元に道を切り開いてくれるものだ。

 こういう地道な積み重ねが、私の支えになっているのだ。


 しかしやはり調理をしても、パッキングを解除したらシュワっ萎んでしまう事態が発覚。

 なので私はその場にいる全員を手ブル席ごとパッキングした上で『メガロドンの包み揚げ』を開封する。



「パッキングをし始めた時は何かと思ったけど」


「これって私たちも調理されちゃうの?」


「されないから安心して。これはむしろ状況によって維持できない食材を保つためのものですから。汁っぽいお料理とかどうやって密封してるんだろうっていう発想からの着想ですよ」


「そういうものとして使うのが普通よ?」



 シズラさんのように扱うプレイヤーがほとんどだろう。



「私はそのように考えた。それだけですよ。ではいただきましょうか」


「料理と素材の産地をお願いできる?」


「もちろん。こちらはメガロドンの包み揚げ。カレー味です」



 外側はカリッと、中からはジュワッとした白身魚の風味が広がる。随分と塩辛いが、カレーのまろやかな辛味とヨーグルトで塩気を全然感じさせない、次が欲しくなる味わいだ。

 お姉ちゃんはともかく、ミルちゃんまでがっついていた。


「これは、すごい弾力で病みつきになるわね。子供達の前であれだけど、お酒が欲しくなるわ」



 それは私も思った。

 でも控えておく。

 お姉ちゃんたちがいる前では流石にね。



「あ、リノっち向けのスクショ!」



 皿の上を空にしてから、今気が付いたとお姉ちゃん。

 これは暗にお代わりを催促しているな?



「だよねー、うっかりしてた。ハヤっち、おかわり大丈夫? 盛り付けも豪華にしたいよね」


「だねだね」



 この二人はすっかり味を占めてるな?



「一応在庫はあるけど、今後のランチにもなるんだから、あんまり消費しないように!」


「はーい」


「はーい」



 二人して返事だけは一丁前なんだから。

 過ごすごと取り出し、盛り付けたらいろんなアングルでこれでもかとパシャパシャした後「せっかく出したんだから冷めないうちに食べないともったいないよね?」「まさしく!」みたいなやり取りをする二人。

 そこにシズラさんと列車くんも混ざって宴会の様相に。


 しかし今回は散々遊んだと思ったけど、ゲーム内時間はまるで進んでいない。

 もしかして、水の街ってゲーム内時間を消耗しない異空間にあったりする?

 まさかね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ