31話 料理スキルの真髄
「お姉ちゃん、スクリーンショットいける?」
「だめ、名前しかわからない!」
個体名はメガロドン。
耐久は見えず、見た感じは大きなウツボ。
一瞬神話生物か何かに見えたけど、深海生物って基本こんな感じらしい。
「|◉〻◉)僕が動きを止めるね」
列車君が私たちの前に出る。
「|ー〻ー) 【九頭流・槍技! 縷々旋舞】」
その場で槍を恐ろしい速さで繰り出すだけ、と思いきや。
それは水流そのものを生み出すだけの動きでしかなく。
本番はここからのようだ。
「流されるー!」
あ、お姉ちゃんが巻き添えくらった。
水の奔流が渦となり、メガロドンの身動きを止める。
その周囲をぐるぐるとお姉ちゃんが回ってる。
邪魔だなぁ。
「お姉ちゃん、避けてね! 【水圧調理・熱伝導】!」
包丁を装備し、スキルを発動と同時に包丁に振動が伝わった。
これでターゲットを切りつければ熱が伝わるはずなんだけど。
巨体にかすり傷をつけたところでダメージが通るかどうかは怪しいかな?
「|◉〻◉)トキちゃんは無事救出したよ」
「列車君、助かった。ハヤテちゃん、やっちゃえ!」
「ええい! いっけぇええ!!」
【クリティカル!発動】
「えっ?」
発動させた覚えのない命中率アップ。
いつの間にか派生していた『必中』がメガロドンの真芯を捉える。
ここだ、合わせてスキルを発動させる。
「重ねて発動、【水圧調理・超圧縮】!」
「膨らんだ!?」
メガロドンの肉体が大きく膨らむ。
まるで空気を吹き込んだ風船のごとく。
包丁を叩きつけた中心からは熱が加わったような変化も見られる。
メガロドンはもがき苦しむように口から泡を吐き出した。
ここで、オリジナルアレンジ!
このまま調理を完了しちゃえば、料理とは名ばかりのグロテスクな死体が出来上がるだけ。
それは流石にブログに載せられないし。
ならここで味付けをしておこうとね!
「ここで調味料、ドーン」
「わ、何やってんの!?」
「カレー味を作ってみようと思って」
「調味料、水中に溶けちゃわない?」
水の中で溶けて無くなるんじゃないか?
その心配は無用。
お弁当に水が侵入しなかったように、特定のアイテムは特定の行動にしか付随されない。
水の中でお弁当ができるのなら、水の中で調理もできるはず。
だってこれは深海種族流の調理法なんだから!
そう思って味付けしたら、ビンゴだった!
「かーらーのー【パッキング】」
私は調理中のメガロドンを包装紙に包んでアイテムストレージに入れた。
まだ生きているのか随分と活きがいい。
あんな巨大生物、入るか怪しかったけど、ミルちゃんが入れたし、いけるという確信があった。
あの小さな堤のどこに入るのか? そういう考えはない。
入ると思えば入るのだ。
これはゲームだからね。
深く考えればドツボにハマってしまう。
「|◉〻◉)すごい! 調理のお手伝いをしたことはあるけど、ここまでしたいを残さず仕留められちゃうものなんだ」
「まぁねー、自慢の妹ですから」
さっきまで邪魔しかしてないお姉ちゃんが何か言ってる。
「それで、もう少し食材を取っていきたんだけど。付き合ってくれる?」
「もちろん」
「|◉〻◉)ご馳走してくれるんなら」
「当然!」
そんなこんなで、メガロドン(カレー味)を合計二匹。リトルダゴン(ヨーグルト風味)を三匹。キングサーモン(レモン風味)を十六匹仕留めて帰還する。
最後やたら数が多いじゃないかって?
これは表にも流通されてる品種だからね。
こんな場所にもいるんだって乱獲した結果だよ。
「それで、どうやって調理を?」
「そこが難しいんだよね。地上に持って帰ると素材が萎んじゃうらしいし」
そう言ってストレージの中を覗き込む。
パッキングされたアイテムの中では、水圧がなくても萎まない状態で素材が入っていた。
なるほど。
これは密封した環境ごと風しちゃう技術?(絶対違う)
「私にいい考えがあるんだけど、一度地上に戻らない?」
ミルモ :賛成! あたしだけ食べられないとか絶対やだもん!
「まぁ、ミルっちには申し訳ないと思ってたけどね。でも地上に戻ると素材がパーになるんでしょ?」
「|◉〻◉)そうだよ、どうするの?」
それは見てのお楽しみってね。
私達は一路地上の街ファストリアに戻り、シズラさんの調理場を借りることにした。