204話 EPO配信!_謎多きジーナ
サブクエストを全て使って、私たちはジョブ機能を解放させた。
肝心のジョブの方の選択肢は出てこないけど、多分この欄は弟子入りして初めて使用するのだろう。
ジーナさんのところに必要道具を持っていって、反応を見るべく私たちは一路お店へと向かった。
「さすがだね、この短時間の間に持ってくるなんて。あたしの目に狂いはなかったよ。それじゃあ初歩的な単体複合ポーションのレシピから始めようか」
<ジョブクエスト:ファーストステップが始まりました>
こちらのクエストはジョブ機能に付随したクエストになります。
サブクエストとは異なり1日に取得できる制限はありません。
指定された素材を入手して、自ら手順によって製作することで固有技能に蓄積されます。
<ジョブ:薬師が解放されました>
薬師がジョブにセットされた状態でジーナに話しかけると継続して試験を受けることができます。
さまざまなクエストを受けて、歴史に名を残しましょう!
*同じジョブでもステージによって師が変わります。
*同じステージで入手できるレシピは固定です。
*ジョブを外した状態でノーマルクエストを受けられるようになります。
*ステージを回り、さまざまな師から技能を学びましょう!
「え、これ……すごいシステムじゃない?」
「なんでこんなのまだ埋もれてるの?」
つまり、ジョブにセットしてないとクエスト自体が受けられないわけだ。
そして取り外しは自由。
違うジョブを解放すれば、その日の気分で固有技能を獲得可能と。
流石に固有技能は強すぎるから、修行の形で獲得できる形なわけだけど。
そのうち獲得ジョブを固定して応募する未来も見えそうだね。
あと三日で終わるゲームとは思えないほどの解放要素だ。
:金・金・金! の弊害かな?
:お使いクエストとかクソだるいしな
:ワイ、軽率にサブクエスト受けすぎて詰んだ
:まさか1日3件にそんな縛りがあるとは……
:1~3にサブクエ100件とか無茶振りだろ! と思ったが
:師弟クエスト歩なら、そりゃありそうか
:これ、候補に陶器職人とか、林業とかもありそうじゃない?
:思った
:サブクエストを受けた場所によっては弟子入りできそう
:ここにきてすげー面白くなるのやめて
:まだ全50ステージのうちの3ステージ目なんだよな
「最初のクエストは軟膏を作ろう! だね」
「軟膏って何?」
「オロ◯ナインとか、ユース◯キンとかですわね」
紅ちゃんがスラスラと答える。
お世話になったことがあるのかな?
お稽古事多いと肌荒れ大変そうだもんね。
むしろ重宝してるからこその発言か。
「皮膚を柔らかくする塗り薬かな? 用途にもよるけど、序盤からそんなに難しいのは作らせてもらえないことを考えるに……」
「きっと、傷薬でしょう」
「なるほどー」
切り傷、擦り傷の治りを早くする効果かな?
戦争なんかが始まると、こういうレシピは必要になるからね。
破傷風とか怖いもんね。
傷口にバイキンが入って病気になるのがこの当時の死因ナンバーワンだから、覚えられるなら覚えておきたい。
「材料は石油……石油!?」
:炭化水素類の混合物って言われてるやつだな
:石油を分離して油の部分を精製したやつ
:元の材料は石油で間違いないよ
:はえー、ここには有識者が多いんすね
:手元の板で検索した結果やで
:AIはたまに嘘つくけどな
:それっぽい嘘と本当の歴史をいい感じにミキシング!
:それダメなやつや
:今の子はその嘘を嘘と見抜けないからな
:勉強って、大事やね
それはそう。
私は前世の知識があるとはいえ、そこまで勉強は得意じゃなかったから。
なのでこういう検索結果の嘘を嘘と見抜けない。
まぁ真実じゃないとしても、生きていく上で問題ないでしょ。
今世は適度にゆるゆる暮らしたい。
それはさておき、お題である。
素材はわかったとして、その入手先がわからない。
港町から石油が湧くなんて話は聞かないし、もしかしなくてもこのステージにないまである。
「今から作るのは軟膏ですわよね?」
「なんか体に悪そー」
「まぁ、それでできるのはワセリン。保湿剤だね、そこに薬効をつけたのがお題になると思う。薬草の方を探しちゃお」
「うん、そだね」
「逆に、ジーナさんにお伺いしてみてもいい気がします」
「あー、聞くなとは言われてないか。ナイスモミジちゃん。その方向でいこう」
:史実ベースがここで邪魔をしてきたか
:ワセリンの原料が石油から得た炭化水素類を脱色したやつだから
:動植物生油脂でも代用できるよ
:保湿をとるかどうかだな
「あ、なるほど。だから指定素材に油脂があったんだ。石油である必要はないと、それならばこのステージでもいけるかな?」
:動物性はわかるけど、植物性脂って?
:椿油とか、ナッツ系の油脂?
:よくわからん
:ピーナツバターとか、カカオバターとか
:動物性油脂はバターだよな?
:そうそう
:そもそもこれ、今の時代で取れるのか?
:他のステージに飛ぶことが……いや、待てよ?
:何か気づいたか?
:確かゴマって入手してたよな?
「はい、持ってますけ……あ! ごま油!」
:さすが料理経験者。理解が早い
「油は油じゃない?」
「ヘアオイルのイメージしかありませんわね。これがあのベッタリとした軟膏になりますの?」
「乳化させればなるよ。というか、バターとかも溶かしても冷やせば固まるよね?」
「ええと?」
「モミジは庶民の暮らしなんてわからないか?」
「そう言うわけではありませんが、頭が追いつかないだけです」
リノちゃんはわかってますよ? みたいな顔でドヤる。
紅ちゃんは自分だけわからないことにヤキモキしているようだけど。
大丈夫、リノちゃんもこれよくわかってないから。
正直私だってわかってないしね。
バターが分離したやつはそれこそ離水してしまって固まりにくい。これは再度溶かして念入りに乳化させる必要がある。
成分をまとめてしまうのだ。
ただ、これだと軟膏にはならないんだよね?
確か水分を含んだものをクリームと呼ぶんだよね?
「とはいえ、ごま油が固まってるところって確かに見ないや」
「やはりオイルはオイルのまま使うのがよろしいのではなくて?」
「軟膏を作るって言うお題なのに、髪に塗りこんでどうするの?」
「それはそうなのですが」
:そもそも、軟膏自体19世紀の代物やで
:薬の歴史って割と浅いで?
「え?」
:16世紀の薬なんて、それこそ薬草をすりつぶした草汁だろ
:七草粥が薬膳に使われるくらいだろうし
:消毒液的な赤チンは?
:あれも18世紀だな
:消毒薬とか昔は酒ぶっかけて治してたしな
:じゃあこの時期に軟膏とかあるわけないやん
:ポーションもあること自体おかしいんだよ
:ファンタジーなら聞いた名前だけど、史実ベースならない
:胃腸薬とかも18世紀だしな
「じゃあ、ジーナさんはどうやってそのレシピを?」
「余計に謎が深まったね」
「どのみち、今の技術で軟膏を作るのは難しいと言うことだけはわかりました」
「薬問屋さんもジーナさんを凄腕と言っていたけど、未来人なら凄腕と言われても仕方ないよね。なにせこの時代にないものを作ってるんだもん」
:わかんないけど、ミルアちゃん的存在じゃないのかなって
:この人も未来からやってきている説?
:ミルアちゃんは14世紀から飛ばされた被害者だろ?
:ジーナさんも何かまだ隠してるっぽいな
:エクストラステージ発掘、くるー?
「なるほど、妙に歴史書に興味を持つわけだ。でも今の知識を総動員したとして、軟膏そのものは作れないと言うことかな?」
:または未来の医学を解明して、ようやく
:終盤ステージでジーナって人いないか調べようぜ
:むしろようやく先行体験者で役に立てる気がしてきた
:でもまだサブクエ解放されてないんよな
:そうだった
「あはは、まぁそこまで焦らずともいいですよ。こうやって手探りで遊ぶのもまた楽しみ方の一つなので。それに配信ですし、もっと気楽に楽しみたいと思います」
:そうやね
:このゲームもあと三日でおしまいか
:久しぶりにやってみようかな
:昔フレンドに誘われてきた以来だわ
:今日は配信を覗くだけのつもりだったけど、ちょっとやってみるか
なんにせよ、EPOに人が集まってくれるのなら配信をやった甲斐がある。
ちょっとづつ人が戻って、賑やかになればいいよね。




