202話 EPO配信!_実績解除『弟子入り』
「間違いないね、これは報酬だよ」
「ありがとうございます」
納品したら、ポーションをもらった。
シナモンが入っていた時点で分かったが、これは胃腸薬の薬だった。けど効能は酔い止め。
ちなみにウサギからのドロップは皆無。
わかってたのにお姉ちゃんたら何度も挑戦するんだもん。
呆れちゃうよね。
いっぱい食べて飲んだ人向けのものだった。
確実にキャベ◯ジンとかそう言う系統の薬である。
アイテムの横には『移動劣化』と記されている。
これはあれだね、他のステージに持ち込めない、このステージ限定アイテムだ。
過去に持っていくのに<神秘>が必要なアイテムだとわかる。
「ポーションて、私でも作ることはできますか?」
「薬学のほかに調合を持ってる必要があるね。お嬢さんは見たところ調合を持っていないようだけど?」
「やる気だけはあります! ぜひ教えてください!」
そう言って、願い出る。
そこで歴史書のページが開かれた。
パラリぱらりとめくれて、輝き出す。
「まぁ、あなたのその本!」
「この本がどうかしましたか?」
腰の曲がったおばあさんが、目を輝かせて本を覗き込んでくる。
この白紙しかない本になにを見出したのかわからない。
けど、このチャンスを逃したら次は無いと畳み掛ける。
「その本を見せてくれるのが条件さね。もし見せてくれるのなら、調合方法を教えようじゃないか」
「いいんですか? 是非!」
「あたしはジーナ。この街で薬屋をしている者よ」
「私はハヤテと言います。よろしくお願いします、ジーナさん!」
<実績解除:プレイヤーが初めてNPCに弟子入りしました>
弟子入り
師となるプレイヤーからのお題をクリアすることで上級特技を特別に獲得することができる。
師によって出されるお題の数は変わるが、そのお題はステージの中では一つしか発生しない。
数をこなすためには毎回ステージをクリアする必要があるぞ。
「あ」
:ハヤテちゃんのこの顔
:何かやっちゃったな?
:やらかしハヤちゃん
:いつもの
:この子本当にやらかすな
「ハヤテ、さっきなんかアナウンス鳴ったけど?」
お姉ちゃんの伺うような視線。
これはごまかせなさそうなので、さっさと白状する。
「実績解除したみたい。初めてNPCに弟子入りしたって」
「ああ、今ので?」
「そうみたい」
:実績解除?
:このゲームにそんな仕掛けが?
:ミルちゃんだって買い物の実績解除したやろがい!
:殺人タックルによる暴力だから
:結果よければ良し!
:その結果の先に出禁があるので誉めなくていいぞ
「今回ジーナさんに弟子入りして、上級特技の『調合』を獲得可能なクエスト、まぁ試験ですね。これをクリアするために、毎回ステージ3に通う必要が出てきました」
:通う?
「はい。どうもこの試験、ステージ3に一回入場するごとに、一回しか発生しなくてですね」
「つまり、弟子入りするだけでステージに囚われ続ける?」
「うん」
:うーん
:他のステージで特技解放した方が早い?
:いや、ついでに上級取れるなら、こっちのが美味しい
:後半ステージはムービーが長くてな
:『調合』ってどこらへん?
:『薬学』と『合成』、他戦争クエスト解放後に入手だから
:あれ、結構入手難易度高い?
:今ここで取っといた方がいい
:確実に
「どっちみち次のステージ行くまでに『収穫』のレベル上げる必要あるから」
そう、今のところステージ3には通う必要がある。
採取の特技はマックスで入手できたが、朝の配信では『収穫』の特技が未入手だった。
ステージ解放には『収穫』をレベルマックスにする必要があって、いやでも周回する必要ができたのである。
今回無事『収穫』を獲得できたが、レベルは1のまま。
そして問題はステージクリアごとにどの特技のレベルが上がるかはランダムという点だ。
「どうせなら私たちも『調合』取っちゃう?」
「いいの?」
「いいよ、一緒に遊んでるんだし。むしろいつもこういうのをハヤちゃんに頼ってばかりだし」
なんとリノちゃんが『調合』特技獲得クエストに付き合ってくれるらしい。
「もしよろしければ、私も挑戦してもいいですか?」
「いいよ、モミジちゃんもこっちおいで」
モミジちゃんも引き寄せて。
私たちはクエストを受け取った。
残されたお姉ちゃんとミルちゃんは……
「あたしは他のお店に弟子入りできるか調べておくね」
「そうだね。薬問屋の方でも弟子入りできるかもだし」
「あ、そうか。弟子入りするとずっとそれだけになっちゃうもんね」
「そう言うこと」
そんなこんなで別行動。
と言うか、クエストを受けたら素材集めは一緒にやるんだけどね。お互いに知識が偏っているからこその強力だ。
「わたくし、こう言う分野は初めてです」
「やってみたら楽しいよ。上手くできたらなお良し」
「失敗するのは恥ずかしいですが、頑張ります!」
「最初からできて当たり前なんてことはないからね」
「ハヤちゃんなら茶化してこないから安心していいよ」
「はい」
:なんかいいね、こういうの
:ハヤテちゃんとリノちゃんの中にモミジちゃんが?
:ピュアピュアな雰囲気がいいよね
:トキちゃん達ハブられてない?
「むしろ気を利かせた」
「うむ。リノっちとモミっちなら、ハヤテを任せて大丈夫だと思った」
と、いうことらしい。
昔からの付き合いもあって、お姉ちゃん達は別行動するようだ。配信中に別行動しないで欲しいんだけど。
「そういうこと。あたし達は違う実績解除して驚かしてやろうぜ」
「そうだね。しかしミルっち」
「何かな?」
「このポーションを薬問屋に売りつけて『買い物』の実績を解除できると思う?」
「そこは交渉力というものだよ、トキっち」
「なるほど、お手並み拝見といきますか」
「頑張るのはトキっちなんだよなぁ」
「あ、そうじゃん! どうしよう、ハヤテ」
「自信を持って。お姉ちゃんなら美貌でイチコロ」
「そ、そう?」
:ちょっとその気になってるトキちゃんいいぞ
:適当抜かすな
:トキちゃん、初めてのお買い物
:後方腕組みお父さん発生中
「いや、買い物ぐらいできるけど?」
「トキっち。多分これはそういう類の買い物じゃないよ?」
「どういう類のよ?」
「値切る。これを口八丁でやれるかという話」
「あー、それはちょっと厳しいかなー」
お姉ちゃんはすぐに白旗をあげた。
ミルちゃんはそれを横目でニマニマしながら見守っている。
意地が悪いなぁ。
友達なら助けてあげたらいいのに。
「もういいかい? じゃあ最初のクエストを伝えるよ」
それは調合に必要なすり鉢、乳棒、ビーカーを買ってくることだった。
うん、そうだよね。
覚えるんなら必須だもんね、一生物だし。
「えー、最初のクエストからこの特技の取得条件の高さに打ちひしがれております」
:何があったの?
「先に調合道具を揃えてくださいって」
「そこは貸してくれてもいいのにね」
:うーん、さすが上級特技
:生半可な取得条件じゃないな
「多分、自分用しかないから、急に依頼が来たときに貸していたら自分が困ってしまうとかじゃないでしょうか?」
「まぁ、そうだよね」
「ですから、ご自分用の調合キットを揃えることからスタートなのですわね」
「だと思う」
:そんな上手い話はなかったか
:まだ買い物の実績解除もしてないのに!
:でもお金の使い道を知れてよかったじゃん
「でもまだまだ実績解除が隠されてそうだから、ついでに薬問屋巡っちゃおう」
「うん」
「高く買い取ってくれるといいね」
「それと、もしかしたら調合道具の入手先も教えてくだされば」
「あ、そうだった。お金さえ稼げば買えるつもりだけど、どこに売ってるかを探さなきゃだった」
:そこからか
:ショップもないからね
:なんならビーカーとか今の時代あるか?
:16世紀ならあるでしょ
:バカ高そう
:ガラス製品自体は高級品だからな
:最悪自作
:自作するのには別の特技必要そうだね
:急にクソゲー要素で殴ってくるのやめろ
:史実を元にした世界観だからな
「こんにちは~」
「あらお嬢ちゃん。今日はどんなご用だい?」
「実は、ジーナさんから依頼をいただいた件で、こちらのポーションを譲っていただいたんですが」
「なるほど、ジーナさんね。この町では一番腕のいい薬師さんよ。ジーナさんのポーションなら、高値で引き取るわよ」
「やったね」
<実績解除:買い物が可能になりました>
基本的に物の価値に相場はなく、買取側の言い値になる場合が多い。
『説得』の特技を使い、アイテムに付加価値をつけましょう。
「お金になった!」
「わたくしも、お金をいただいてしまいました」
「これで買い物ができるようになったね」
「でも肝心の調合セットがどこにあるかわかんなかったね」
「薬問屋さんからは、陶器職人の場所を教えていただきましたわ」
「直接作ってもらえってことかな?」
「多分、そうなのかも知れませんわ」
:お使いクエストだな
:このたらい回しにされてる感じ、嫌いなんだよな
:わかる
:このゲームに至っては今更だろ?
:なお、ステージを繰り返す必要がある
:はい、くそ~
:おかげでサービス終了を数日後に控えております
:サ~ビス終了前に面白さが見つかった稀有な例




