160話 AWO配信!_調理無双
「じゃあ、いつでもみんなが自由に使えるために、グミに付与しとくね」
「|◉〻◉)グミってさっきのやつですか?」
そう、そのグミだよ。
喉がスッキリするのを目的としたグミ。
レイちゃんがマイクを壊したから使い道がなかったそのグミにね、付与しようと思ってます。
「あたしは必要ないかな?」
「あー、ミルちゃんはどうだろう?」
「常に飛びっぱなしだからね」
「実は、回復魔法とかに付与するものじゃないんです? こういうのは」
「回復もらって力場発生は怖くない? だったら多少は自分の意思で使いたいじゃん」
「うん、まぁ、それはそうなんだけども」
非常に歯切れが悪い。
どうしたの、何か言いたいことでもあるのかな?
モミジちゃんは俯いて、申し訳なさそうに言った。
「これ、攻略的にずるくないかなって?」
「まぁずるいのは確かだよね」
「モミジ的には不満?」
「不満はないけど、これは設計者の意図に応えてないなって」
ああ、またこの子の悪い癖が出てる。
ゲームで遊ぶ子は、設計者の思い描いた通りには動かないんだよ?
なんだったらどこかにバグがないか徹底的に探るものなんだよ。
:不正は見逃せないーってことか
:まぁな、明らかに万引きしてるの見たらそれはどうなのよって思うし
:ゲームだからってなんでもやっていいって思っちゃうのも危険よな
:実際VR学園も枠で見ればゲームなわけだし
:そこでも同じことやれるかって話になりそうで
:流石にそこでも無茶はしないだろ
:実名で活動してるからな
:地続きなんよなぁ
思いの外、モミジちゃんに賛同する声が上がる。
「わかった」
「わかってくれた?」
「うん。これは私たちだけで使うね? モミジちゃんにまで共犯者になれって言わないから」
「あのね、私を巻き込むなって話じゃなくて」
:急にハシゴ外すじゃん
:ハヤテちゃん、違う、そうじゃない!
:やるなって話だよ
:もっと違う道あるじゃんねっていう
「え、私から調理スキルを外す? 冗談でしょ」
「ハヤテから調理取ったら何も残らないよ?」
お姉ちゃん、それは言い過ぎ。
まだ歌があるよ、歌が。
「ハヤちゃんのメインスキルは調理。モミジだってそれを十分に理解してるはず」
リノちゃんまで賛同してきちゃったじゃん。
いや、メインで扱ってきた自覚はある。
錬金だって、大元は調理アイテムを獲得するための手段でしかないからね。
「モミっちー、他人は自分の思い通りには動かないって、理解はしたほうがいいよー? 特にハヤっちは自由奔放が服着て歩いてるような子だし」
はぁー?
喧嘩売ってるのかな?
全くミルちゃんてば。
私に喧嘩売ったら食事一品減るって身をもって知りたいようだ。
「|◉〻◉)やっぱり無理にお誘いして迷惑でしたか?」
「そういうわけじゃないんです! ただ、自分ならこうするかなって! そういう意見を言うのはそんなにダメなことですか?」
まるで被害者みたいな意識で、モミジちゃんが塞ぎ込んじゃった。
「あーあ。レイっち、モミっち泣かせちゃった」
「|◉〻◉)!」
「レイっち、涙拭けよ」
「モミジは少し頑ななところがあった」
「うん、まぁゲームスタイルは人それぞれだよね。モミジちゃんは私たちと遊ぶのあんまり楽しくないみたいだし」
:寄せ集めで、ここまでうまくいくのもあまり見ないよ?
:ハヤテちゃんのキーパリング力が恐ろしい
:この子本当につい最近まで寝たきりだったの?
:振る舞いが海千山千の猛者なんよ
:モミジちゃんは少し自分勝手な感じか
:自分勝手というより、頑固
:周囲にそれを押し付ける傾向はあるね
:普通に楽しんでたように思えるけど?
:マナーにうるさい親にそう教育されたんだろ
:あー、いいところのお嬢様か
:確かにそういう感じではあるね
:思いっきり悪の道に誘い込んでるもんなぁ
「あの、私はここで置いていかれるのでしょうか?」
「え? 置いてくわけないじゃない。なんでそんなふうに思うのかって理解はできないけど」
「そうなんですか?」
「そうそう」
:まぁ、いろんなゲームで遊ぶ都合上、こういう行き違いはあるよな
:思ってたんと違うの典型だからな、AWOは
:ハヤテちゃんのやってることはグリッチ的な何かだし
:それを嫌がる人だっている
:万引きできるからってしようと思うかは人による的な
:むしろ率先して運用していくのは運営的には看過できないよ
:配信は面白ければよしなところはあった
:真似するかどうかは個人判断だな
「ただ、私の持ち味は調理のところがあるから。それを運用していくことは容認してほしいかなって。このギミック的にはちょうどそこにダンジョン内でも料理ができる私に白羽の矢が当たった感じなんだよね。候補にはミルちゃんもいたけど、メンバーの多数決で私が選ばれてるんだよね。モミジちゃんのような反対意見も確かにあるけど、私に調理以上の働きを期待されても困るというか」
それはそれ、これはこれ。
今のメンツで誰にどのような作業が待ち受けてるかはギミック次第なところはあるよ。
確かに初見でこれだけ功績を残せてると、仕込みを疑いたくもあるけど。
私たちはこのダンジョン、完全初見なんだよね。
全てを理解した上での攻略も、それはそれで効率的だろうけど。手探りで遊ぶのもまた冒険!
私たちの配信はそれを売りにしているところがあるからね。
特に配信業なんて遊ぶゲームが同じなら似たり寄ったりになりがちなものだ。
それを自分がこう思うからしないっていうのは機会損失でしかないと私は思うんだよね。
「うん、まぁ歌は歌えるけど、それはあたしの演奏ありきだし」
「あれってエネルギーの消費が激しいから、あんまりお勧めできないっていうか」
「正直ハヤテが戦闘中に料理が作れたから乗り越えられる所があったんだよね」
そうそう、コアを一つ潰すのに休憩挟んでたら、何時間かかるのさって話。
「みんなはズルいっていうけどさ。実際に自分がその手段を用いていた場合使わないの? って思っちゃう。私はハヤちゃんは何も間違ってないと思うよ」
「ありがとう、リノちゃん」
:まぁ、程度の差はあれどソレで自分のスキルが生きるんなら使うわな
:勝手に持ち出した生産台で調理! が合法かどうかは置いとくとして
:モミジちゃん的にはそれがギルティってわけか
:やってることは窃盗と同じで草
:お金は払ってるし、後で返すよ!
:それ返ってこないパターンでは?
:正直、生産台を持ち出せるようにしてほしいって要望はずっとしてたけど
:もしかして、パッキングマスターすれば最初から誰でも使えてた可能性
:俺たちはそれを今知った?
:ハハハ、まっさかー
そんなわけで、私はモミジちゃんの意見を振り切ってグミに重力反転を付与。
それを使うかどうかは個人の判断に委ねるものとした。
「じゃあ、みんなに一応配るね。効果時間は噛んでる間。即座に元に戻したい場合は噛まなきゃいいだけ」
「あの、説明はそれでおしまい?」
「それだけでーす」
「え、めっちゃ便利じゃない、それ」
「味がしてる間だと、永続的になっちゃうし。もし相手がフィールド全体を使って攻撃してくる場合、逃げ場がなくなっちゃうから。そこは臨機応変にしました。みんなにはグミが10個入ってる袋をご用意しまし。必要に応じてそれを噛んでください」
「今ここで練習しても大丈夫?」
「うん、いきなり使うのは不安だし、しょうがないよね」
多少の消費は仕方ないものとした。
:噛んでる間だけ!?
:うっわ、それが手元にあったら絶対欲しいやつ
:このギミック、ダンジョン内限定なんすよ
:あー、日常で使えない系か
:流石に調理スキルで付与してくるなんて運営も思わんでしょ
:いや、でもあの運営だぞ?
「そして、個人的にブロックに流し込む手段はこちら」
私はスプレーボトルを取り出して、みんなに見せつける。
それなりの容量が入るお掃除道具。
そこに重力反転要素を込めたミント水を封入した。
「あ、それで吹きかける感じ?」
「そう。これもみんなに渡しとくね?」
「これを戦闘中に振りかけるのは無しなの?」
「効果時間が3時間だけど大丈夫そう?」
その上で効果時間がいつ切れるのかのアナウンスもない。
グミならば、口の中から消えたらそれが効果終了の合図である。
「ごめん、やっぱグミでいいわ」
「でしょー?」
:短時間か長時間で選べるんなら、より利便性高い方を選ぶよな
:グミの噛んでる間だけっていう精密コントロールが可能な仕掛けがもう憎い
:調理スキル、強すぎない?
:このダンジョンにいる間だけだぞ?
:いや、生産台持ち出せるパッキングを筆頭に強くないかってこと
:ミント水とか料理ですらねぇ!
「残念! これも料理なんですねー。なんなら専用レシピもありますよ? 錬金術のスキルをたくさん使うし、なんあらこれはフレーバー。よくドリンクの風味漬けとかに使われてるんです」
:まじで?
:マジだよ
:こんなん誰でも作れるわって代表がミント水やからな
「うん、だいたいコツは掴んだ」
「リノちゃん以外のみんなはどう?」
「頭がくらくらする」
「普段壁とか飛び回ってないと、なかなかね」
「でも噛んでる間は壁や天井も普通に歩けるよ?」
「それは重力が自分の足に発生するからね。逆に周囲の物理法則がおかしく見えちゃうんだと思う」
「あー、そういう系なの?」
「|◉〻◉)これなら僕が海を呼び寄せても皆さんが天井で戦えばいいので楽ですね」
「レイちゃんが天井で戦うというのは?」
「|ー〻ー)僕はそれでも構いませんが」
そう言いつつも、戦闘が始まれば、みんなノリノリでグミに頼った。
だって噛んでる間は重力が自分の足元に吸い付いてくる。
むしろ噛みっぱなしで移動範囲が広がるのだ。
噛まない手はない。
水のガーディアンは予想通り、フィールド全体を水没させるタイプの強敵だった。
安全地帯は天井しかなくて。
だからこそ重力反転のグミがこれでもかと有利に働いた。
「勝利!」
「これ、天井に逃げれてなかったら、私たち負けてましたね」
「どう、これでもハヤテの調理スキルはずるいって言える?」
「ごめんなさい、そもそもこのゲームがこういうコンセプトで設計されているものなら、私の発言は無粋でしたね。むしろパッキング無しで乗り越えられるのなら、御の字です」
「モミっちもこのゲームの本質がわかってきたようだねぇ」
「ミルちゃんもこのゲーム初めてまだ七日でしょ?」
「あり、そうだったっけ?」
:謎の上から目線
:というか、一週間そこいらでこの動きなのかよ
:他ゲーで鍛えたプレイスキルってか?
「私は二週間です」
:これが第四世代か
:ハヤテちゃん、マジで二週間しか遊んでないの?
「遊んでるのは実質朝と昼だけなので、28日間相当ですが」
「あー、このゲーム実質ログイン回数制だしね」
:それでもそのスキルの悪用具合
:若い子の思いつきの行動やべーな
ハヤテG:だろう、うちの孫はすごいんだ
そんなこんなで『濁流』のキューブを無事ゲット。
担当はレイちゃんに任せた。
これは武器に水の属性がつくのと、ブロックを一直線に押し出す効果があるとのこと。
まるでこの先にブロックで攻撃する手段が待ち構えてるみたいな効果内容だった。
そして一回層で全てのギミックを解放した私たちは……いよいよ氷フィールドのガーディアンに挑んでいく。
そこは全てが氷の中に埋め込まれた世界だった。
ガーディアンまで氷漬けになってるのはどうなの?
これは徘徊できないわけである。




