159話 AWO配信!_ぶっつけ本番コンサート
ブロックの集合体である土のガーディアンは、文字通りブロックを飛ばして攻撃してくる。
今までの相手は遠距離攻撃をしてくる手合いではなかったため、私たちのパーティは劣勢に追い込まれていた。
「ブロック攻撃、くるよ」
「タウント! みなさま、私の背後にお隠れください」
ヘイトを稼いで盾で弾くモミジちゃん。
しかしそれはたった数回でモミジちゃんのLPを大きく削ってしまう。
純粋なタンクではないためか、はたまた野菜しか取らず力をつけていないからか、とても弱ってしまっていた。
意地になってないでお肉も食べなよ。
美味しいよ?
「ブロックが合体しないとダメージを与えられないの厄介すぎない?」
それがある。
もしもブロック状態でもダメージを与えられるのなら、私がパッキングしてしまえるのに。
「いや、それは違うよ、みんな。ブロック攻撃をした時、弱点も露わになっているんだよね、ただ、相手も馬鹿じゃない。無傷なブロックにコアを移動させてるんだ」
ミルちゃんがスクリーンショットを構えながらそんなことを言ってきた。
「じゃあ、ある程度ブロックをパッキングしちゃっても大丈夫そう?」
「なるべくなら手足を封印してほしいね」
「でもあれ、ランダムでくっついて形変えるよね? どれが手とかわからなくない?」
そう、土のガーディアンに決まった形態はない。
人型だったり、動物型だったり。
くっついた形で自在に動くので、ある意味無限な組み合わせがあった。
人型形態なら、その圧倒的な体重で踏みつけにしてくるし。
ドルフィン形態なら、なんと浮遊して突っ込んでくる。
鎧形態なら、物理攻撃は一切効かず、ブロックを砲弾のように飛ばしてくるし、まさに打つ手なしの状況に追い込まれていた。
:おいおいおいおい、これやべーんじゃねーの?
:普通は魔法使えるやつで袋叩きにするのがセオリー
:誰だよ、そんなセオリー作ったの
:協力_精巧超人
:ああ、あの頭のおかしな超人集団ね
:昔見かけたなぁ
:今は?
:いるけどそこまで活動はしてないでしょ
:あらかた攻略したら、いなくなっちゃったよね
:今はエンドコンテンツのドリームランドに入り浸ってるな
「ここはあたしに任せてほしいかな」
そこで名乗り出たのがお姉ちゃん。
そういえば『疾風』のキューブは土のガーディアンに効果覿面と聞く。
しかし何がどう作用すれば効果覿面になるのかの想像もできていない。
「トキっち、やるんだね? あたしの力は必要?」
「もちろん。あたし達吟遊詩人は音楽を拡散する力がある」
なるほど。
『疾風』のキューブはサポート系だった。
音を聞いた相手に風の属性を与えるだけに限らず、音を聴かせたブロックを制御するのにも作用する。
なら、飛んでくるブロックも効果対象。
それがガーディアンであろうとも!
「私もお手伝いするね」
「ヨシ、みんなフォーメーション!」
「|◉〻◉)頑張るます」
土のガーディアンを前に、私たちは一致団結する。
レイちゃん、そういえばアイドル志望だったね。
じゃあステージの設置お願いね?
「モミジ、私の予備のご飯あげるからさっさと回復して」
「ごめんなさい」
その背後ではリノちゃんが不甲斐ない紅葉ちゃんに助け舟を出していた。
1人でなんとかしようとしたばかりに、全てのダメージを請け負った。それが見ていられなかったのだろうね。
友情は確かに育まれているようだ。
特にリノちゃんの成長が著しい。
自分のものを他人にあげるなんて、初めて見た気がする。
あんなに自分の欲しいものにはあれこれ注文するリノちゃんが。
人に物を渡すなんて。
これだけでごはん三杯いけるよ。
ここにご両親が居ないのが悲しいほどだ。
:なんで、なんでステージ!?
:ステージでた!
:ハヤテちゃんがボーカル わかる
:トキちゃんがハープ わかる
:ミルモちゃんが縦笛 わかる
:レイちゃんはどうしてそこでマイク握ってるの?
:君は前衛でしょ?
「ミュージックスタート!」
お姉ちゃんの掛け声で、音楽が流れる。
しかしそれは本来なら、単体にしか効果がない代物だ。
だがミルちゃんが『合奏』スキルを使って綺麗なハーモニーを音に合わせると、それがフィールド全体効果を持つ。
あとは私の声とレイちゃんの声が合わさり、音楽にメロディを重ねた。
フィールド全体がビリビリと震えているのがわかる!
ミュージックを奏でてる間、バラバラになった土のガーディアン達は空中でピタッと動きを止めている。
その間に、リノちゃんが動き出した。
「色の違うブロック見つけた」
風の如く、走る。
『疾風』キューブによるバフは、受けたプレーヤーの速度を引き上げる効果があった。
その上で、武器に風の属性を付与するのだ。
「そこ!」
斬りつけたブロックが悲鳴をあげた。
それはもう2度と浮き上がって襲ってこない。
「ガーディアンの耐久減ったよ! 1割」
つまりはこれをあと9回繰り返せばいいだけだ。
しかし、このコンサートスキル。
ENの消費が激しい。
観客は土のガーディアン1人しかいないのに、一回使っただけでENが50%持っていかれるのは流石にまずい。
「ごめん、休憩中入る。その間凌いでてくれる?」
「引き受けましたわ」
「今度はうまく受け流すんだよ?」
「全て受け止める必要はないと?」
「ハヤちゃんが自分ごとパッキングしたから、護相手は自分とw足しだけ」
「なるほど、そういうことですの」
スイッチするようにモミジちゃんが前に。
リノちゃんが背中を押して、モミジちゃんに意識を変えさせた。
私はその間、軽食を作ってしまう。
ENの消費が激しいなら、時間制限付きで減らない料理を作って仕舞えばいいのだ。
今回は取り急ぎダンジョンでアタックしようと決めてきたので、準備こそ擦れ、作り置きはしてこなかった。
まさかこれが仇になるなんて。
「ハヤテ、何かお手伝いする?」
気を利かせたお姉ちゃんがやってくる。
「卵割ってほしいかな」
「この量、オムライス?」
「うん。ENの消費が激しいなら、効果時間内減らさなきゃいいと思ったんだよね。あとはこれ」
「ハーブ水?」
「喉の荒れを回復する効果があるの。これをグミにして口の中に仕込んでおく」
「|◉〻◉)モッチャモッチャ」
「どう、喉荒れる?」
「|>〻<)平気そうです」
レイちゃんはハーブグミが早速気に入ったようだ。
でも人前でくっちゃくっちゃさせるのはやめてね?
「ヨシ、完成。ハヤテ特性オムライス! 今のうちに食べちゃおう。多分、これはリノちゃんたちも欲しいやつだし」
バフが三つ乗っている。
30分間EN消費なし
EN上限20%増
ST微回復
常に動き回ってST枯渇気味の彼女達が求めてる食事バフだろう。
「ふぁーい、もぐもぐ」
「わかった、もぐもぐ」
「|◉〻◉)モゴモゴ」
みんな、食べながら喋るのはやめてね?
:やばい、モミジちゃんもう持たない!
:ハヤテちゃん、早く
「|◉〻◉)僕が来た」
:レイちゃん!
:アイドル衣装を着ながらの参戦だ
:マイクでガーディアンを殴りつけたぁー!?
:ああっと、マイクがバラバラに~!
:おい、それでどうやって歌を歌うつもりだ
「|◉〻◉)口パクですが?」
:せめて歌え!
:エアボーカルかよぉ!
「みんなお待たせー、オムライス作ってきたから食べちゃって」
「助かった」
「もう少しで死に戻りしているところでしたわ」
幻想装備でテーブルを出して、二人を呼び寄せる。
着席したのを確認してパッキング。
ここから先は私たちが時間を稼ぐ。
「さて、レイちゃんが文字通り歌えなくなっちゃったので、攻撃に専念してもらいまーす」
「|◉〻◉)え?」
:またしても何も知らないレイちゃん
:むしろ率先してマイクで殴りつけにいくとは思わなかったんでしょ
:ハヤテちゃんアドリブ力高いな
ハヤテG:僕の孫だ、面構えが違うよ
:さすが100億の女
:その100億、借金なんだよなぁ
本人は気にしてないって言ったからいいんだよ!
だから私も気にせずに、コンサートを再開する。
レイちゃんの執拗なチクチク攻撃でコアを6個破壊。
リノちゃん達と合流して、そのまま残りを撃退。
長く苦しい戦いも、ようやくここに完了した。
獲得したキューブは『重力』
効果1:『水』と『氷』に特攻
効果2:サポート能力『重力付与』
※効果を受けた対象は自身の望んだ場所に力場を発生できる。
効果3:通常モンスターをその場に押し付ける
などである。
「えっ。これだけ異様に強くない?」
「まさか氷属性の天敵でもあったなんて」
「先に取りにきて正解だったね」
「でもこれ、扱える人居るの?」
またサポート系。
扱えるとしたら、私かミルちゃんだ。
レイちゃんは「水」を獲得する気まんまんなので除外した。
「あたしはこういうの無理だよ? ハヤっちが適任じゃない?」
「え、私?」
「料理にでも仕込んでさ。任意に発動できるようにしてくれたら御の字」
「え、料理にもこの効果のるの?」
「音楽スキルに乗ったし、乗ると思う」
それはそれでチートすぎない?
ちなみに、ダンジョンの中で料理できる時点でもうチートだからというツッコミは耳に入らなかった。




