158話 AWO配信!_責務と緊張
風のガーディアン戦と同様に土のガーディアンを探すも。
「いないね」
「うん」
「もしかして、土のギミック解放してないから?」
「あー」
出てきたのは水のガーディアンばかりである。
水に対する特攻キューブは持ち合わせて無かったので、逃げの一択。
本来は火に対してこの行動を選択するのが正解だったのだが、情報を一切持ってなかった私たちは、ギミック解放でガーディアンが弱体化すると思い込んでいたために戦闘に持ち込んだ。
蓋を開けてみたら、それ最初に倒すのはおかしいみたいなコメントが上がってきて。
正攻法じゃないことを確認。
まぁおかげでちょっとギスっちゃったわけだけど。
「じゃあ先に土ギミックの解放かな?」
「だね」
「階段部屋を引き返した理由はそもそもそちらを優先するからでは無かったでしたっけ?」
「なんかすっかり状況に流されちゃってるね、あたしたち」
「攻略情報見ないでやってるからねー」
それも含めてAWOのバランス調整がどんなものかを初見さんに見せつけるのが配信のキモだ。
他ゲームに比べて、こっちに第四世代はあまりいないらしい。
第一世代や第二世代にはウケはいいけど。
第三世代以降はどうにもその高すぎる難易度に少し抵抗感があるようだった。
:むしろ初見でようやってる
:俺、ここの攻略先に見ちゃったから余計混乱してる
:あの氷部屋の仕掛け、マジで意味わからんかったよな
:もしかしてこのダンジョン、まだ攻略されきってないのか?
:そんなことないぞ
:いいねがついてる情報がトップに上がるから
:真っ当な攻略法より、いかに手順を省いてクリアするかだけ上位にある
:あー
:まぁ報酬狙いだとそうなるな
:ハヤテちゃんたちもだいぶおかしな攻略してるし
:ちな、試練はクリア後に解放されるから
:効果は?
:見てのお楽しみ
:シャドウタイプにめっぽう強くなる感じだな
:でも一日一回なんでしょ?
:一回しか使えないけど、一日中効果あるから
:そうなん?
:ここの霊装だけ飛び抜けておかしい発動時間を有してる
:けどギミックが難関すぎてリタイア勢が続出してて
:だからお手軽クリア情報が上にあるのか
:そういうこと
そんな仕掛けがねー。
「じゃあ、土ギミック解放現場に向かうよ」
「おー」
先頭はミルちゃん。
バトルが始まったらお姉ちゃんたちに任せて、私はその後ろをトコトコついていく。
いやぁ、楽ちんだ。
「なんかここにくるまで、やたら水ガーディアンからの襲撃にあってない?」
「思った」
「多分弱点のキューブ持たれる前に倒したい的な思考があるんじゃない?」
「ハヤテのパッキングに閉じ込めてる間に安全に逃走できるのにね」
「やっぱりその調理スキルおかしくないかな?」
「おかしくないよ、フツーフツー」
私は逃走する時のパッキング係を率先して行なっている。
戦闘で敵の頭数が多くても、他のモンスターを分断して後で解放すればいいので被弾が少なくて済むのだ。
主にシャドウタイプが多いダンジョン。
そう言えばスライムやローパーの類は一切見ない。
リスナーが嘘をついたか?
モミジちゃんの警戒心がいつにもなく高まってるのは、被害者が自分になる可能性を恐れてのことだった。
精神が男だったら「どこに需要があるんですか、それ?」みたいな気分でいられたかもしれない。
しかしスカートから足がはみ出た時点でコメントが加速度的に湧いたことから、ようやく自分の立場を理解したモミジちゃん。
もしリスナーの思った通りにローパータイプが出てきてもいいように盾の後ろに常に隠れるような態勢でいる。
へいへい、タンクビビってるよー。
こういう時に、イタズラ心ってむくむくしちゃうよね。
そう、膝カックンだ。
その無防備で震えている膝に、こう膝を突き入れてやりたくなる。
そんな電波を受け取ったのか、同志が1匹。
レイちゃんだ。
「|◉〻◉)隙あり!」
「きゃっ」
尻餅をついたモミジちゃんはニマニマしている実行犯を睨め付けた。
なんで私まで睨みつけてるんだろうね?
え、一緒にニマニマしてた?
気のせいだよ。
この顔は生まれつきだもん。
「何をしますの?」
「|◉〻◉)そんなガチガチに身構えていたら、守れるものも守れなくなりますよ?」
「言われなくてもわかっています。ですが、この中でタンクは私一人きり」
対して非戦闘要因が多すぎる。
私にお姉ちゃんにミルちゃん。
レイちゃんやリノちゃんは前衛。
それをうまくコントロールするのが自分で、まさに責任重大と言いたげだ。
だから自分が身を挺する覚悟があるとかなんとか。
全く、この子ったら気負いすぎだよ。
「|ー〻ー)一人で気負うなってお話です。仲間を信じてくださいよ」
「なになにー、どったの?」
「レイちゃんの強襲膝カックンに引っかかって、緊張を解きほぐす心温まるワンシーンだよ」
「これ、そんないいお話でしたの!?」
こっちはショックを受けてますよアピールしてくるモミジちゃん。
しかしどんな理由からそんなことになったのかを説明してみたら。まぁ身内からの反応はさまざまだ。
「騎士道精神は見上げたものだけどね、あたしたちが被弾する前提で居られても困るわけだよ。ね、トキっち?」
「然り!」
モミジちゃんの周囲をパタパタ飛んで説教をかましてくるミルちゃんに、煽るように周囲を泳いで煽るお姉ちゃん。
この人たち、感情を逆撫でるの上手すぎない?
敵多そう。
「確かに時間稼ぎで頼ることはあるけど」
「|◉〻◉)僕たちを舐めてもらっちゃぁ、困りますね!」
「そう、レイちゃんの言うとおり」
戦闘組はこちらもこちらで勝気だ。
こうでなきゃ前衛は務まらない。
「私が間違っていましたの?」
「まぁまぁ、ピンチになったら私もパッキングで引き剥がすから。ね?」
撮れ高とか考えなくていいよ。
別に配信業だけで食べてくわけじゃないし。
そう話したらようやく緊張が解けたのか、冷静になってくれた。
よしよし。
「よし、最後のギミックだ」
「今終えてるギミックってなんだっけ?」
「風、水、火、氷?」
「四つ目は土ではないんですの?」
「現に出現するガーディアンが水だけなんだよね」
「じゃあ土じゃないか」
「でも氷のガーディアンも見ませんわよ?」
それは確かにそう。
「あれは階段の下にいるとか?」
「その可能性は確かだね」
「そして、上の回でギミックを解放してないと倒せないタイプとかね」
「すこぶる面倒なタイプだね」
:そうなのか?
:違うよ
:違うんかい!
:でもこの手探りな感じがいいのよ
:知ってたら知ってたで楽しめないもんな
:早くクリアしたい層と、それ以外でこうも変わるか
:天空試練でも似たような称号もらえるけどな
:あっちは空飛ぶの前提だからキチィんよ
:飛行種族なんて限られてなくね?
:違う違う、飛行できるスキルがある
なんだかそう言うネタバラシはやめてほしいな。
たどり着いた場所は、泥沼だった。
向こう岸に渡るのには、ブロックをうまいこと組み合わせる必要があった。
しかし肝心のブロックはずっぷり泥の中に埋まっていて、これ以上どうすることもできない。
「ダメだ、泥と一体化しちゃってパッキングできない」
「ハヤっちでもダメかー」
「むしろここはこうでは?」
お姉ちゃんがハープをぽろんぽろん鳴らす。
するとキューブが泥の中から浮き上がった。
「おおーー」
私たちは一斉に拍手をする。
多分この時誰もが心から拍手をしたと思う。
なにせあのお姉ちゃんが何かを成し遂げたのだ。
この快挙っぷりに涙を禁じ得ない。
身内ならではの苦労がようやく報われた形だ。
浮かせたブロックの高さは自在に変えられた。
なんならブロックの上に私たちを乗せて動くこともできるし。
ブロックをくっつけて移動することも可能!
その万能ぶりに拍手喝采。
お姉ちゃんもこんなに褒められることもないのかデレデレである。
「ヌフフ、もっと褒めていいよ?」
「土のガーディアンが出たらよろしくね」
「モチのロンよ、まかしてまかして」
泥の平原を渡った向こう岸に、それは佇んでいた。
<土のガーディアンが現れた>
体がブロックでできていて、それを飛ばしてこっちにダメージを与える。
非常に厄介な手合いだった。




