153話 AWO配信!_空鳴きの洞窟
「それではお姉ちゃん、ここでお買い物してからダンジョン行こう」
「オッケー」
「準備は大事」
「なんの準備もしてなかったからねー」
「急遽合流しましたからね、準備は必要です」
「|◉〻◉)クッチャクッチャ」
:レイちゃん?
:何を頬張ってるのかな?
:この子も結構フリーダムだよな
:可愛い顔して自由人がすぎる
:マスコットみたいなところあるから
レイちゃんが目を離した隙にイカ焼きみたいなものを頬張っていた。
どこで買ったの、それ。
「|◉〻◉)非常食です」
「あ、手持ちの食品だったんだ?」
「|ー〻ー)これで最後ですので、お料理楽しみです」
「レイっちてもしかして燃費悪い?」
お姉ちゃんが不躾な質問をした。
一緒に行動してる時はそんなそぶり見せなかったんだけど。
「|◉〻◉)どうなんですかね。誰かと比べることなんてなかったですけど」
NPCだもんね。
「じゃあ、後でお料理を頑張るために調味料の買い込みをしちゃいます! 珍しい調味料あるかなー? 味変できれば尚更!」
「それよりハヤテ、ホイル焼きをするのに、アルミホイルはこっちで入手できるの?」
お姉ちゃんの指摘に、盲点だったと気がついた。
前世ではまるで興味がなかった料理。
パッキングがあるので蒸し焼きはあるが、ホイル焼きは熱の入り具合に差が出る。
こう言う時はその道のプロに聞くのが一番!
「おじいちゃん、どうなの?」
ハヤテG:あるよ
:G?
:おじいちゃんてきな?
:あー
:Pはパパだったもんな
「良かった!」
ハヤテG:ただし非常にお高い、今のハヤテには手が出ないかも
「え!」
:おじいちゃん協力してくれないの?
:借金100億だもんな
:そう言えばそうだった
「サービスしてくれたりなんかは?」
「おじいちゃん、お願い!」
「もうすっかりホイル焼きのお腹になってるから」
ハヤテG:仕方ないな。では、おじいちゃんのリクエストに答えてくれたらいいよ
「リクエスト?」
ハヤテG:僕はムニエルが食べたい
:それを用意してくれたら、トレードしてもいい
「ムニエル? 素材はなんでもいいの?」
ハヤテG:素材は僕が持っていく。それを調理して欲しいんだ
「わかった! その挑戦受け取るよ! どうせお料理はするつもりでいたし、一品増えるくらいはどうってことないよ!」
ハヤテG:その時に一緒に写真も撮ってほしい
「え?」
ハヤテG:おじいちゃん孝行だと思って
:おい、ジジイ!
:俺たちのハヤテちゃんに無理強いすんな
ハヤテG:じゃあアルミホイルは渡せないかな
:このジジイ、足元見やがって!
リスナーさんは大盛り上がりだけど、特段嫌と言うほどではない。むしろその要求を飲むだけでいいなら安すぎて心配になるレベルじゃないか?
流石に親孝行のゴリ押しはどうかと思うけど。
「おじいちゃん、あたしは? あたしも一緒にチェキしようか?」
そこにお姉ちゃんが乗り出して。
トキG:もちろん! じいじは幸せ者だなぁ
:この身の代わりの速さよ
:名前変えるの速すぎない?
:二つ用意してるのか?
ハヤテG:ふはははは、第二世代を老骨と思って甘く見ていたら痛い目に遭うぞ?
はしゃいじゃって。
「うん、それで大丈夫だよ。なんかそれっぽい衣装とか着た方がいい?」
「ハヤテ、そんなに自分を安売りしちゃダメ!」
「え?」
やおら心配げに見つめてくるお姉ちゃん。
ただのおじいちゃん孝行に大袈裟じゃない?
「ハヤちゃんは脇が甘いから心配」
「ハヤっち~、意外と大胆だねぇ」
「えっえっ」
皆が何を言っているのかはわからない。
そこでモミジちゃんが教えてくれた。
「ハヤテさん、相手の注文以上のことを自分から売り込むと言うのは、はしたないことですわよ?」
しゃら、と扇で口元を隠して流し目をよこしてくる。
あ、そう言う感じなんだ。
向こうの要求以上を自ら飲むのは、相手に自分を売り込む行為と同じと言われてハッとした。
そう言うつもりはなかったが、持つべきものは気心の知れた友達というべきか。
女の子の世界はかくも奥深い。
「そういうつもりはなかったけど、早計だったね」
ハヤテG:じいじはハヤテがちょろすぎて心配だよ
「そっちが先に要求通してきたくせに、そんなこと言うんだ?」
少しツンとしてやれば、慌てて取り繕う。
別にこんなもの怒りの表現でもなんでもないけど。
まぁ、相手の反応を見る限り嫌われていないようだね。
そのあとはお買い物と称したおじいちゃんからの大量の謝罪のアイテムを受け取り、私たちは目的のダンジョンへと足を運ぶ。
「ここは空鳴きの洞窟。ギミックダンジョンで、ギミックを解かない限りは前に進めないんだー。霊装? って言う外部スキルが入手できることで有名だね」
:霊装?
:何それ
:一日一回しか使えない代わりに、超強力な特性を持てる
:使用回数少ないな
:その代わり何個も持てるで
:ああ、そう言う系
:消費アイテムじゃなくて、クールタイムが1日なんか
:だからログイン権を3回使うプレイヤーにとっては使い所がな
:あ、このゲームは1日に潜れる回数決まってるんだ
:そこが一番だるいとこでな
:死ぬと強制ログアウトなんよ
:それはだるい
:3回だっけ?
:そのログインごとに使用はできない?
:リアルで一日のクールタイムだ
:本当に使い勝手が難しいんだな
:その分強力なんだよ
:問題はその試練を突破できる実力が試される
:試練?
:WBOの上級スキルみたいなもんか
:あー
:あれもエリアボス討伐するなりしないと上限解放できないもんな
:既存スキルとは全然ちゃうで
:何はともあれ、実際には見てみないことにはな
「面白いスキルが手に入るんだね。ここの試練がどう言うのかも含めて楽しみ」
「それじゃあ、しゅっぱーつ!」
空鳴きの洞窟は全部で10階層の割と深いダンジョンだった。
地下特有の圧迫した空気感。
どこからか入ってくる風が肌を突き抜けていく。
視界は悪く、それこそ懐中電灯持ちが重宝される。
「|◉〻◉)こう言う時、光る武器があると便利ですね」
:それどう言う原理で光ってんの?
:最初の時より光量低くなってない?
:気のせいかな? レイちゃん自体も光ってきてる
彼女はスズキさんじゃない。
だから本人自体がボヤーっと光って、スッと消える芸当はしないだろうとどこかで達観していた。
だがそれは最悪のタイミングで発揮される。
視認性の悪くなってきた地下二階。
光苔が薄くなってきた折、先方を歩いていたレイちゃんが唐突に消える。
周囲は暗く、かろうじてパーティメンバーがわかる距離感。
全員がさぞパニックになったことだろう。
:おい!
:レイちゃん消えたぞ
:落とし穴に落ちたか?
「|◉〻◉)バァ!」
:ぎゃー~ー
:くっそ、不意打ちやめろ
:完全に俺ら遊ばれてるじゃんか
:暗闇でどっきりやめて
そのタイミングで、戦闘フィールドに誘致。
画面が凍りつき、内側から壊される。
しかしここに見慣れないエフェクトが入った。
真っ赤な、血を思わせる空間に私たちは誘致されていた。
ハヤテG:珍しいな強化型モンスターだ
:強化型?
:少し強いのかな?
ハヤテG:特定武器以外の通りが悪いモンスターだ
:耐久が高いとかは?
ハヤテG:そう言うことはないけど、倒すのがひたすらだるい
:ドロップ的には?
ハヤテG:さてね。あまり答えすぎたら面白くないしノーコメントで
:それはそう
:物知りだからってなんでも教えられてちゃね
「ミルちゃん、情報抜けた?」
「シャドウ・ガーディアンタイプ! 間違いない。こいつを倒すとギミックの一つが解放されるよ」
:モンスター討伐系ギミックか
:しかしこれは幸運だったか?
:場合によっては不運じゃない?
ハヤテG:ボス戦は逃亡もできるよ。叶わないと思ったら逃走も選択肢に入れるといい
:逃げれるんだ
「でも、どれだけ無謀かを知るための指標は必要だよね」
リノちゃんが前に出る。
「でしたら、その無謀な検証にお付き合いする仲間も必要ですわよね?」
モミジちゃんが影相手は分が悪いですわよ、とリノちゃんの横にそっと立つ。
「|◉〻◉)これ、僕も立ち向かう流れですか?」
:おい、しれっと休憩すんな
:そうだよ
:助けてあげて
すっかり床に座って休憩中だったレイちゃんが、ヨッコラセと重い腰を上げた。
私たちはこの真っ暗で地上から赤い粒子が浮かび上がる空間を少しでもライティングするように、空を飛び回って音楽を披露した。
それから十数分。
幾重もの攻撃を浴びせたけど、ガーディアンの耐久はぴくりともしなかった。




